『朝の風景』
三十分も経った頃だろうか、誰かがリビングのドアを開ける音がした。
キッチンに顔を出したのはフローラだった。
「おはようございます」
「おはよう!」
「おはよう」
丁寧な挨拶の後、フローラはサクシードがいたことについて何も言わなかった。
「よく眠れまして?」
「おかげさまで」
フローラはランチョンマットや食器、箸などを用意しながら、レンナと会話する。
「今日一日快晴みたいだね」
「ええ、洗濯日和ね」
「うん、洗濯機フル稼働させなきゃ」
「昨日、出来なかったから……」
「まぁね。もう回そうかな」
「もういいわよね」
「よし、回そう! ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
レンナが行ってしまい」、サクシードはフローラと二人きりになってしまった。
サクシードが何を話したものかと思っていると、フローラから話しかけられた。
「偉いのね、早起きしてお手伝いするなんて」
「いや、早く目が覚めたので」
心持ち畏まると、フローラは気持ちを読んだように言った。
「そんなに畏まらないで。みんなに接するように、普通に接してくださいな。みんなそうしているし、誰も咎めたりしませんから」
「……難しいです」
「警備士さんですものね。でも、あなたが守るべきなのは、危険にさらされている市民社会であって、わたくしではありませんわ」
きっぱりそう言われて、サクシードも思い直した。
「なるべく早く慣れるように……する」
フローラはサクシードの努力に微笑み返した。
「ところで……起きる時間は、レンナさんと重ならないようにしてあげてくださいね。寝起き顔で挨拶するなんてことがないように」
「——!」
さっきのことを見ていたように言うフローラに、恐れ入るサクシードだった。
「おはようございまーす」
明るい声とともに、ロデュスがやってきた。
サクシードやフローラと挨拶を交わし、手伝うことがないとわかると「すみません」と言いながら席に着いた。
「疲れてるサクシードさんより遅いなんて、たるんでますよね。僕もあと三十分早起きしますよ」
などと言い出したので、戻ってきたレンナが止める。
「いいの、いいの! みんなで早起きしてもしょうがないんだから。ロデュスは徹夜することもあるんだし、普段はペースを乱しちゃダメよ。サクシードも、POAの訓練で大変なんだから、疲れたら休んでいいんだからね」
「そうですか……なんだか申し訳ないな」
ロデュスは頭を掻いた。
「……」
サクシードは無言だったが、朝は早起きして手伝うことにした――その方がメリハリがつく。
「グッドモーニング!」
ファイアートが妙なイントネーションで挨拶しながら、両手を広げてやってきた。
フローラとロデュスがくすくす笑う。
「んもう、気が抜ける。挨拶くらい普通にできないの⁈」
怒るレンナに、ちっちっと人差し指を振って見せる。
「ノンノン! 挨拶は日替わりって決めてるから、野暮なこと言わない」
「あっ、そ」
レンナは呆れて打ち切った。ガス台の前で腕を組んでいるサクシードに、こっそり詫びる。
「ごめんね、朝からこんなで」
サクシードは笑って言った。
「面白くていいんじゃないか」
「よかった」
レンナも笑って、みんなに向き直った。
「さて! 朝食にしよっか」
「まだラファルガーが来てないよ」
「来たぞ」
出し抜けにラファルガーが現れた。
「うーわっ、まるで計ったよう」
ファイアートがくねくねと身体を揺らしながら、背筋を伸ばした。
「おはよう、ラファルガー」
「おはよう、キッチリ君」
要らないことを言うファイアートをレンナが叩く。
「おはよう」
無表情で返すラファルガー。
他のみんなも挨拶して、ご飯が茶碗に盛られ、味噌汁が配膳された。暖かな湯気が立ち上る中、全員が手を合わせる。
「それでは、いただきます」
「いただきます」
朝食は好評だった。
焼き魚が絶妙の焼き加減で、ファイアートを始め、みんなでサクシードを褒めちぎった。味噌汁としらすご飯も、男性陣が二杯目をおかわりして、鍋と御櫃は空っぽになってしまった。さすが食べ盛りが揃っているだけのことはある。
食べ終わって、ほうじ茶を飲んでいる時、全員の今日の予定を話し合った。




