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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
15/202

『二日目の朝』

 陽だまりの優しい布団の匂いで、サクシードは目を覚ました。

 ほの暗い室内に、一瞬戸惑う。

「——!」

(そうか、昨夜パラティヌスの下宿に着いたんだった)

 起き上がると、蒼水の三月の寒い空気が肌を刺した。

 平机の上に置いた、目覚まし時計を見る。

 五時二十四分——日の出まで、一時間半はある。レンナは六時半ごろまで寝てていい、と言っていたが、もう眠れそうもない。

 暖房もつけずに着替えて、ベッドを調える。

 それから部屋を見渡してみる。

 飾り棚にも、クローゼットにも何も置かれていない。ちょっとした書き物ができる平机と、ボクサーバッグの載った背もたれ椅子。

 自分の部屋——。

 これまで臨時警備士として転々としていた頃は、いつも二段ベッドとコンパクトな洗面台、机と椅子があるだけの共用部屋だった。

 プライバシーなど確保できない生活から一変、こんな部屋を持つようになるとは思わなかった。

 何もないのに漂う空気は心地よく、新しい生活は無駄を削った彼のライフスタイルを、根本から変えてしまいそうだった。

 漠然とした不安を振り払おうと、顔を洗うことに決め、ボクサーバッグからタオルを引っ張り出した。


 部屋を出ると、廊下は照明が点いていて明るかったが、窓の外はまだ建物の輪郭が見える程度だった。

 残念に思いながら階段を下りた。

 すると一階の階段脇の部屋から、レンナが出てきた。

「わっ、びっくりしたぁ」

 驚いて見上げるレンナに、サクシードが低い声で挨拶する。

「おはよう」

「おはよう、サクシード。早いよ、よく眠れなかった?」

「いや、十分寝たよ」

「そう、ならいいけど。ああでも、朝から寝起き顔を見られるなんて……」

 バツが悪そうに両手で顔を隠すレンナを、サクシードは物珍しく見た。

「ま、仕方ないよね。一緒に住むってこういうことだし。洗面所、お先にどうぞ」

「悪いな」

 レンナはリビングに行ってしまい、サクシードは洗面所に行き、冷水で顔をバシャバシャ洗った。

 部屋に戻ろうとすると、レンナが玄関の方から歩いてきた。

「あ、待って。リビングにいていいよ。これ、新聞。見ながらのんびりしてて」

「……わかった」

 新聞を受け取って、リビングに入る。

 明るい室内は、まだ暖房がついたばかりで肌寒かった。

 サクシードは昨日も座ったドア側のソファーで新聞を読むことにした。

 早速、一面から読む。

「!」

 見るなり顔をしかめる。

 ”エスクリヌスでテロ爆破事故”

 見出しと写真に釘付けになる。

 記事によると、爆破事故があったのは昨日の午前九時。エスクリヌスのソートレル地区の港湾線路。折悪しく通過した貨物列車を巻き込んで、列車は脱線、大破。貨物列車だったため、乗客はおらず、幸い死者は出なかったが、運転手が腕の骨折と全身打撲で入院した。爆弾は時限式で、明らかに輸送物資を狙ったテロで、中身はパラティヌス製の電子機器だった。復旧には二週間を擁し、大破した列車の撤去や損害は、三億五千万E(エレメン)の上る……。

 エスクリヌスのきな臭さは、遠く離れたパラティヌスにまで届く。決して対岸の火事ではない。改めて、対テロ組織POAに所属することへの緊迫感を感じ取った。

 他の記事を読む気になれず、新聞を畳んだ。

 少しの間、視線を定めながら何も見ていない時間が経って、ハッと息を吐く。

 気持ちを切り替え、立ち上がるとキッチンに行き、ガラス玉の暖簾をくぐった。中ではレンナが朝食の準備をしていた。

「あれ、サクシード。もう新聞読み終わったの」

 気づいたレンナが声をかける。

「ああ……何か手伝おうか?」

「ええっ、そんな初日から……」

「もう二日目だぞ」

「あ、そうか。どうしようかな。今日のメニューはね、焼き魚にしらすご飯、味噌汁、いりごまと青菜のお浸しなんだけど……」

「あっさりだな」

「昨夜が重かったからね。足りない?」

「ちょうどいい」

「よかった。うーん、だったら魚焼ける? グリルで」

「わかった、魚は?」

「待ってね、今用意するから」

 冷蔵庫に向かうレンナを見ながら、サクシードは、これで気が紛れると思った。 


 


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