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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
13/202

『ソウルメイト』

「次は私ね。半日ずっと一緒にいて、改まるのもなんだけど」

 レンナが言うと、ファイアートが促した。

「そう言わないで、ちゃんと自己紹介しなさいよ」

「わかったわ。えっと、レンナ・モラル、十七歳です。南端国メーテスの出身で、家族構成は両親と弟です。知っての通り『シンパティーア』の運営をしています。他には社会調査員とか、イベント管理者とか、呼ばれて仕事する時もあります。趣味は読書で、主に民俗学の本を読みます。最近は園芸にもはまってるかな。以上です」

 これで、全員の自己紹介は終わった。

「サクシード、何か質問ある?」

 レンナが聞くので、サクシードは少し考えてファイアートを見た。

「ファイアート、ニューエイジってなんだ?」

「ああ、ニューエイジっていうのは、近代科学が秩序や合理性、分析に偏ったのを批判して、非合理な神秘体験やオカルトなんかを、全体的な学問として求めようというものなんだ。わかりやすく言うと、アンチ近代科学ってことさ」

「医学を志していても、そういうことに傾倒するものなのか?」

「いいところに気がついたね。医学だって万能じゃないだろう。世界には民間療法が数えきれないくらいあるけど、中には科学的根拠がないものがある。例えば、フラワーエッセンスを飲むと、症状が改善するとかね。これらは自然治癒力を高める方法なんだ。だから無視できないと僕は思うわけで」

「フィートが、まともなこと言ってる」

 レンナがからかうと、ファイアートはカラカラと笑った。

「はっはっは、まぁね。どうだい、サクシード。そんな危ない物じゃないだろ」

「何とも言えないな」

「百聞は一見に如かず。触れてみればいいんだよ。フラワーエッセンスなら、パラティヌスの家庭常備品だから、いつでも飲めるし。な、レンナ」

「そうだけど、サクシードに必要かしら。健康そのものだし」

「あれは別に健康でも、副作用なく飲めるじゃないか」

「うーん」

 ファイアートにせっつかれるが、レンナは迷っているようだった。

「レンナさん、大丈夫よ。フラワーエッセンスは人を傷つけたりしないわ」

 フローラが後押しすると、レンナも吹っ切れた。

「そうね。でもやっぱり病気とか、具合の悪い時にしましょうよ。どういうものかわかるのは、そういう時だと思うから」

 よくわからない話だったが、なんにせよ、妙なものを飲まされなくてよかったと、サクシードは安堵した。

「あとは何かある? サクシード」

 サクシードは、次にラファルガーを見た。

「ラファルガー、クイリナリスのアルガミス領というのは、どの辺りだ?」

「北部だ。アルペンディー大山脈の西の麓に近い」

「すると、スターリー川の辺りか」

「そうだ、川を跨ぐ染色織物の産地だ」

「サクシードは、クイリナリスにいた時、どの辺りにいたの?」

 質問するレンナに、答えるサクシード。

「東部のビスキー領オークラ村にいた。大山脈の東の麓にある、米の産地だった」

「それっていつ頃の話?」

「二年前だな」

「ラファルガーがパラティヌスに来たのは?」

「四年前」

「それじゃ、会ってるわけないか。残念」

「ソウルメイトですか、レンナさん」

 ロデュスに言われて、レンナは肩を竦めた。

「どこかで符合してたら、と思って」

「ソウルメイトか……一緒に住んでるってこと自体が浅からぬ縁だけど、どういう巡り合わせなんだろうね」

 ファイアートが一同を見渡して言った。

「袖振り合うも他生の縁とも言うぞ」

 大した縁ではないかもしれない、とラファルガーは言う。

「えーっ、それじゃつまらないわよ。ほら、ラファルガーと出会ったのだって、生物学の講習会で前後の席にならなかったら、交流は生まれてなかったでしょ」

「そうだが……」

「僕の場合は、個展のコーディネーターとして、レンナさんにお世話になったんですよね」

「あ、あの時のことね」

 レンナが手をパチンと叩いた。

「イベント管理者の名簿から、僕が写真を見て「この人だ!」と思って、レンナさんに依頼したんですよ」

「そこが面白いよね。直感というより霊感(インスピレーション)だよ」

 ロデュスの言葉に、ファイアートが頷く。

「あの時はホントに困ったわよ。美術品の展示なんて、見当もつかなくて……コーディネーターの肩書もなかったし」

 レンナが当時を苦々しく振り返る。

「でも、レンナさんの仕事ぶりは親身で熱心でしたよ。打ち合わせに何度も足を運んでもらったり、足りない資材を一から調達したり、協賛者を募ったり、大活躍でしたから」

「ロデュスってば、私が引き受けなきゃ個展を見送るとかって脅すんだもの。精一杯頑張りましたとも」

「そのご縁で、下宿の世話人もされていることを知って、転がり込んだんです。コーディネーターと一緒なら、作品も百パーセント生かされますから」

「こちらこそ、ロデュス作品を間近に見ることができて、光栄です」

「先生だなんて……やめてください」

 ロデュスは照れて言った。

「レンナさん、わたくしたちの出会いは、初めは何気なかったわね」

 フローラが話すと、レンナは笑った。

「国立図書館でよく会ってたんだよね。でもフローラ、ふつうに本借りに来てるんだもん。誰かわかった時の驚きは忘れられないな」

「それでも、普通のお友だちのように接してくれたのは、レンナさんだけだったわ。病気になった時も、フラメン宮まで一人でお見舞いに来てくれて……行きづらかったと思うのだけれども……とても嬉しかった」

「いつフローラが王女だってわかったんだい?」

 ファイアートが聞くと、レンナは「うっ」と詰まりつつ言った。

「お見舞いに行った後、友だちと話しててわかった」

「……その大ボケは、誰もなかったことにしてくれないよ」

 レンナは頭を抱えてしまった。

「気づいても気づかなくても、レンナさんはレンナさんよ。下宿に入ることが出来たのも、レンナさんが国元に掛け合ってくれたおかげだもの。本当に感謝しています」

「お国が柔軟だったからよ。王様から親書が届いた時は、こっちがびっくりしたもん」

 すごいな、とサクシードは思った。

 ジュリアス親善大使といい、フローラといい、滅多に会わない人物との出会いを、ソウルメイトで片づけるのは気が引けた。

 しかし、もっと驚くべきは、この距離の近さだった。一国の王女が名前で呼ばれ、給仕もしている。

 これもお国柄だろうか。平和そのものだ。

「ところで、僕とレンナの関係はあれだよな」

「言わずもがな、そうね」

「腐れ縁!」

 ファイアートとレンナが同時にハモって笑い合う。間に挟まれたサクシードが呆れて溜め息をついた。

「おや、お疲れかな」

 ファイアートを見て取ると、サクシードは首をコキッと鳴らした。

「違う。同じ姿勢でいたから、肩が凝っただけだ」

 すると、レンナがサクシードの右肩に伸びて一揉みした。

「わっ、凝ってる。ちょっと待って」

 パッと立ち上がって後ろに回ると、サクシードの両肩を掴んだ。

「お、おい」

「揉んであげる。リラックスして」

 そう言って、ツボを押しながら、肩の筋肉を揉みほぐす。

「どう?」

「もういい、だいぶ楽になった」

「そう」

 ポンッと両手を弾ませて終わらせた。そして時計を見ると、もう九時を回っていた。

「サクシードは、今日はこの辺で休みましょうか。明日のことを考えると、ゆっくり眠った方がいいわ」

「明日何かあるのかい?」

「首都にPOAの登録手続きに行く」

「ずいぶん早いんだなぁ。もう少しゆっくりすればいいのに」

「そこ、自分の尺度でものを言わない!」

 レンナがビシッと言うと、ファイアートは両手を上げた。

「それじゃサクシード、浴室に案内するわ。どうぞ」

 サクシードが立ち上がって挨拶する。

「先にすまない、休ませてもらう」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 口々に言って、サクシードを見送った。 



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