『ソウルメイト』
「次は私ね。半日ずっと一緒にいて、改まるのもなんだけど」
レンナが言うと、ファイアートが促した。
「そう言わないで、ちゃんと自己紹介しなさいよ」
「わかったわ。えっと、レンナ・モラル、十七歳です。南端国メーテスの出身で、家族構成は両親と弟です。知っての通り『シンパティーア』の運営をしています。他には社会調査員とか、イベント管理者とか、呼ばれて仕事する時もあります。趣味は読書で、主に民俗学の本を読みます。最近は園芸にもはまってるかな。以上です」
これで、全員の自己紹介は終わった。
「サクシード、何か質問ある?」
レンナが聞くので、サクシードは少し考えてファイアートを見た。
「ファイアート、ニューエイジってなんだ?」
「ああ、ニューエイジっていうのは、近代科学が秩序や合理性、分析に偏ったのを批判して、非合理な神秘体験やオカルトなんかを、全体的な学問として求めようというものなんだ。わかりやすく言うと、アンチ近代科学ってことさ」
「医学を志していても、そういうことに傾倒するものなのか?」
「いいところに気がついたね。医学だって万能じゃないだろう。世界には民間療法が数えきれないくらいあるけど、中には科学的根拠がないものがある。例えば、フラワーエッセンスを飲むと、症状が改善するとかね。これらは自然治癒力を高める方法なんだ。だから無視できないと僕は思うわけで」
「フィートが、まともなこと言ってる」
レンナがからかうと、ファイアートはカラカラと笑った。
「はっはっは、まぁね。どうだい、サクシード。そんな危ない物じゃないだろ」
「何とも言えないな」
「百聞は一見に如かず。触れてみればいいんだよ。フラワーエッセンスなら、パラティヌスの家庭常備品だから、いつでも飲めるし。な、レンナ」
「そうだけど、サクシードに必要かしら。健康そのものだし」
「あれは別に健康でも、副作用なく飲めるじゃないか」
「うーん」
ファイアートにせっつかれるが、レンナは迷っているようだった。
「レンナさん、大丈夫よ。フラワーエッセンスは人を傷つけたりしないわ」
フローラが後押しすると、レンナも吹っ切れた。
「そうね。でもやっぱり病気とか、具合の悪い時にしましょうよ。どういうものかわかるのは、そういう時だと思うから」
よくわからない話だったが、なんにせよ、妙なものを飲まされなくてよかったと、サクシードは安堵した。
「あとは何かある? サクシード」
サクシードは、次にラファルガーを見た。
「ラファルガー、クイリナリスのアルガミス領というのは、どの辺りだ?」
「北部だ。アルペンディー大山脈の西の麓に近い」
「すると、スターリー川の辺りか」
「そうだ、川を跨ぐ染色織物の産地だ」
「サクシードは、クイリナリスにいた時、どの辺りにいたの?」
質問するレンナに、答えるサクシード。
「東部のビスキー領オークラ村にいた。大山脈の東の麓にある、米の産地だった」
「それっていつ頃の話?」
「二年前だな」
「ラファルガーがパラティヌスに来たのは?」
「四年前」
「それじゃ、会ってるわけないか。残念」
「ソウルメイトですか、レンナさん」
ロデュスに言われて、レンナは肩を竦めた。
「どこかで符合してたら、と思って」
「ソウルメイトか……一緒に住んでるってこと自体が浅からぬ縁だけど、どういう巡り合わせなんだろうね」
ファイアートが一同を見渡して言った。
「袖振り合うも他生の縁とも言うぞ」
大した縁ではないかもしれない、とラファルガーは言う。
「えーっ、それじゃつまらないわよ。ほら、ラファルガーと出会ったのだって、生物学の講習会で前後の席にならなかったら、交流は生まれてなかったでしょ」
「そうだが……」
「僕の場合は、個展のコーディネーターとして、レンナさんにお世話になったんですよね」
「あ、あの時のことね」
レンナが手をパチンと叩いた。
「イベント管理者の名簿から、僕が写真を見て「この人だ!」と思って、レンナさんに依頼したんですよ」
「そこが面白いよね。直感というより霊感だよ」
ロデュスの言葉に、ファイアートが頷く。
「あの時はホントに困ったわよ。美術品の展示なんて、見当もつかなくて……コーディネーターの肩書もなかったし」
レンナが当時を苦々しく振り返る。
「でも、レンナさんの仕事ぶりは親身で熱心でしたよ。打ち合わせに何度も足を運んでもらったり、足りない資材を一から調達したり、協賛者を募ったり、大活躍でしたから」
「ロデュスってば、私が引き受けなきゃ個展を見送るとかって脅すんだもの。精一杯頑張りましたとも」
「そのご縁で、下宿の世話人もされていることを知って、転がり込んだんです。コーディネーターと一緒なら、作品も百パーセント生かされますから」
「こちらこそ、ロデュス作品を間近に見ることができて、光栄です」
「先生だなんて……やめてください」
ロデュスは照れて言った。
「レンナさん、わたくしたちの出会いは、初めは何気なかったわね」
フローラが話すと、レンナは笑った。
「国立図書館でよく会ってたんだよね。でもフローラ、ふつうに本借りに来てるんだもん。誰かわかった時の驚きは忘れられないな」
「それでも、普通のお友だちのように接してくれたのは、レンナさんだけだったわ。病気になった時も、フラメン宮まで一人でお見舞いに来てくれて……行きづらかったと思うのだけれども……とても嬉しかった」
「いつフローラが王女だってわかったんだい?」
ファイアートが聞くと、レンナは「うっ」と詰まりつつ言った。
「お見舞いに行った後、友だちと話しててわかった」
「……その大ボケは、誰もなかったことにしてくれないよ」
レンナは頭を抱えてしまった。
「気づいても気づかなくても、レンナさんはレンナさんよ。下宿に入ることが出来たのも、レンナさんが国元に掛け合ってくれたおかげだもの。本当に感謝しています」
「お国が柔軟だったからよ。王様から親書が届いた時は、こっちがびっくりしたもん」
すごいな、とサクシードは思った。
ジュリアス親善大使といい、フローラといい、滅多に会わない人物との出会いを、ソウルメイトで片づけるのは気が引けた。
しかし、もっと驚くべきは、この距離の近さだった。一国の王女が名前で呼ばれ、給仕もしている。
これもお国柄だろうか。平和そのものだ。
「ところで、僕とレンナの関係はあれだよな」
「言わずもがな、そうね」
「腐れ縁!」
ファイアートとレンナが同時にハモって笑い合う。間に挟まれたサクシードが呆れて溜め息をついた。
「おや、お疲れかな」
ファイアートを見て取ると、サクシードは首をコキッと鳴らした。
「違う。同じ姿勢でいたから、肩が凝っただけだ」
すると、レンナがサクシードの右肩に伸びて一揉みした。
「わっ、凝ってる。ちょっと待って」
パッと立ち上がって後ろに回ると、サクシードの両肩を掴んだ。
「お、おい」
「揉んであげる。リラックスして」
そう言って、ツボを押しながら、肩の筋肉を揉みほぐす。
「どう?」
「もういい、だいぶ楽になった」
「そう」
ポンッと両手を弾ませて終わらせた。そして時計を見ると、もう九時を回っていた。
「サクシードは、今日はこの辺で休みましょうか。明日のことを考えると、ゆっくり眠った方がいいわ」
「明日何かあるのかい?」
「首都にPOAの登録手続きに行く」
「ずいぶん早いんだなぁ。もう少しゆっくりすればいいのに」
「そこ、自分の尺度でものを言わない!」
レンナがビシッと言うと、ファイアートは両手を上げた。
「それじゃサクシード、浴室に案内するわ。どうぞ」
サクシードが立ち上がって挨拶する。
「先にすまない、休ませてもらう」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
口々に言って、サクシードを見送った。




