『自己紹介』
リビングに戻ると、みんなソファーに座っていた。
レンナとサクシードも、ドア側のソファーに並んで座る。
テーブルにはティーセットが揃っていて、フローラが給仕し、全員に紅茶が配られた。湯気とともに立ち上る香は深く柔らかで、その場を和ませる。
「では、これから自己紹介します」
レンナが仕切って話が始まる。
「順番はサクシードから右回りに、ぐるっと一周ね。内容は個人に任せるけど、わかりやすいように心がけて。じゃあサクシードお願いします」
「わかった」
サクシードは一拍置いてから、話し始めた。
「サクシード・ヴァイタル、十七歳です。出身はカンタセルゴ諸島チアフル島で、家族は年の離れた姉が一人います。十四歳の時に自立して、カピトリヌスの警備士学校で半年訓練を受けて、それから世界各地を転々として、臨時警備士をしていました。今回、POAに所属し、再訓練を受けるためにパラティヌスに来ました。慣れないうちは迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
ぐっと頭を下げる潔さに、拍手が起こる。改まって敬語を使う礼儀正しさも好ましい。
しかし、その次からはいきなり砕けだした。
「次は僕の番だね。みんなのニュースソース、ファイアート・メイタリス、十九歳。メーテス生まれのメーテス育ち。両親は健在で一人っ子。自然治癒力に興味があって、医学を志してるけど、医者になるつもりはなかったりする。陽気に楽しくがモットーで、趣味はバイオリン、演劇、ダンス、サーフィン、テニスetc……。好きなのは賑やかさとユーモア。嫌いなのは湿っぽい雰囲気と厭世観。最近はまってるのが、ニューエイジ探検。これが刺激的で、目からウロコが落ちる。神秘体験・心霊・超常現象! 日は浅いけど、これからも邁進するつもりさ。よかったらみんなも……」
「ストーップ!」
レンナが待ったをかける。
「もう! だからそういうことは、人それぞれ段階があるんだから。いきなり”あなたの知らない世界”の扉を開かないでよね。次、ラファルガーお願い」
「ちぇっ」
ファイアートの舌打ちをかき消すように、ラファルガーが話す。
「ラファルガー・サインス、十八歳だ。クイリナリス、アルガミス領サラサード出身。家族構成は父と妹二人。パラティヌスには生物学の研究員になるために来た。趣味は読書と演芸だ」
と、そこで終わってしまった。
「……ありがとう。次、ロデュスどうぞ」
「はい。ロデュス・スカルフ、十六歳です。出身はカピトリヌス、リテラチュア領ユーガナンスで、家族は……いません。彫刻が盛んなところで育ったので、勉強をしたくてパラティヌスに来ました。今はこのバッソール町で、名産の木彫り工芸品を作るのが楽しいです。趣味……というか、やっぱり美術に関することなら何でも好きです。あ、サクシードさん、工作好きじゃありませんか?」
突然話を振られたが、サクシードは丁寧に答えた。
「生活に必要な物しか作ったことがない。それとは別だろ?」
「そうですね。僕の言うのは、生活のちょっとした雑貨小物を作ることなんです。箱とか額縁とか、飾り物とか。いっぱいあるんですけど、自分で作ってみるのも面白いんじゃないかと思って。サクシードさんの部屋には飾り棚があるし……どうでしょう?」
「ああ、だったら簡単なものを見繕ってくれ」
「はい」
「ナイスよ、ロデュス。きっといい息抜きになるわ。サクシードは物作りが好きなのね」
「割とな」
「なるほど。じゃあ次はフローラね」
「はい。フローラ・フラメン、十六歳です。出身は北端国セライです。家族は父だけで兄弟姉妹はいませんわ。パラティヌスの祭典奉仕者の斎官、フラメンを務めています。小さい時から舞踊を習っていて、大好きなのですが、たまに気がつくと踊っていたりするので、驚かないでくださいね。他には花に関するすべてのことと、編み物、ピアノ、乗馬、それからお茶を淹れるのが好きです」
見かけによらず、活発なんだな。とサクシードが思っていると、周りから補足があった。
「サクシードは知らないと思うけど、斎官っていうのは、女の子なら誰でも憧れる役職なんだよ。まず、国伝統の献舞が踊れなくちゃならないし、作法も厳しいし、もちろん容姿端麗じゃないと選ばれないんだ」
男のファイアートが言うと、違和感があるが、次にレンナが言ったことは、サクシードの意表を突いた。
「それだけじゃなくて……フローラ、言っていい?」
「ええ」
「フローラは、北端国セライの王女様なのよ」
「⁈」
驚いてフローラを見たが、彼女はただ微笑むだけだった。
「びっくりでしょ。でも、フローラは斎官の厳しい審査基準をちゃんとクリアしてるのよ。周りが無条件に斎官にしようって、祭り上げたのをきっぱり断って。なかなか言えないと思うわ」
「そんなことないわ」
「そんなことあるよ!」
頬をほんのり赤らめるフローラを褒めるレンナ。
しかし、サクシードにはもっと気になったことがあった。
「……ここにいていいのか? 警備は?」
王女ともなれば、国の重要人物。テロリストの標的にもなる。それが民間の下宿で暮らしている。あり得ないことだった。
「さすがサクシード、着眼点が違うわね。大丈夫、心配しないで。一般にはもちろん知られていないし、この家の周りはセライ国の警護団がついて、二十四時間監視してるから」
レンナが事情を説明すると、サクシードは一応納得した。
「物々しくてごめんなさい。でも、なるべく生活に干渉しないように配慮しますから」
「おかげでパラティヌス一、安全な下宿なのよね、ここは」
明るく笑うレンナを見て、度量の広いヤツだと、サクシードは認識を改めた。




