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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
11/201

『ここだけの話』

 食べ終わると、フローラとロデュスが皿洗いをし、残りはリビングのソファーに戻った。

 レンナは花を生けるため、席を外してしまい、ファイアートが仕切って話す。

「船旅十七時間のうえ、汽車三時間じゃ疲れたろ?」

「いや、いろいろ気を遣ってもらったから大丈夫だ」

「そうかい。まぁ、レンナはその辺り心得てるからね。サクシードはカンタセルゴ諸島の出身だって」

「ああ」

「近いよね。パラティヌスには結構来てたのかい?」

「子どもの頃はな。でもメーテスしか知らない」

「そうか、じゃあガイドがいるな。機会があったら一緒に歩こうぜ」

「わかった」

 どこに連れていかれるかわからなかったが、サクシードは了承した。

「自己紹介は全員でするとして、軽く聞いときたい。レンナとフローラ、どっちが好みだい?」

「は……?」

 耳を疑うサクシードに、ファイアートは身を乗り出して声を潜めた。

「ここだけの話、美少女の双璧だと思うんだよね。爽やかで活発なレンナ。しとやかで清楚なフローラ。ウチの下宿の自慢」

「……優劣なんかつけてたら、一緒に生活できないぜ」

「固いなぁ、受けた印象でわかるだろ。でも何となく君にはレンナをコーディネイトしたいけど。かわいいだろ、なっ」

 サクシードはうんざりしながらも、きっぱり言った。

「俺は恋愛をしにきたんじゃない」

「なんでだい? 恋は自然派生するもので、締め出すものじゃないぜ」

 ファイアートが急に哲学めいたのに、少なからず驚くサクシード。

「胸に秘めるっていうのもありだけど。ちなみにラファルガーみたいな、恋愛全否定派もいるけどね」

 ラファルガーは視線だけよこして言った。

「うっとおしい」

「これだよ! つまらないよな。何が面白くて生きてるんだか」

 無言で反論しないラファルガー。軽薄さが目立ってきたファイアートとは正反対だ。

「おっ、レンナが来た」

 ファイアートが言ってすぐ、レンナがリビングに入ってきた。

「何を話していたの?」

 レンナがサクシードの座るソファーの後ろに来て、背もたれに両手をかけた。

「男のスタンスについて、話し合ってたのさ」

 ファイアートが誤魔化した。

「いきなり濃い話ね。どこから入ればいいの」

「どこからでも」

「じゃあ、サクシードを借りるわ。部屋に案内するから」

「僕も行くよ」


 リビングを出ると、右斜めに階段があった。

 茶色の古めかしい風合いで、上るとギシッと鳴る。

 上り切って、右がレンナの仕事部屋。左がフローラの部屋と書庫。正面がロデュスの部屋で、左奥に廊下が続いている。母屋はL字型をしているので、垂直に部屋が繋がっているのだ。

「ロデュスの部屋の隣が君の部屋さ。突き当たりが僕の部屋だから、よろしく頼むよ」

「さぁ、どうぞ」

 レンナが木製のドアを開けて、サクシードを部屋へ招き入れた。  

 明かりがつけられ、こぢんまりした部屋を見渡す。

 白木製のベッドが左にあり、ふかふかしていそうな枕に、緑の葉模様のベッドカバーが掛けてある。その脇には茶色い木の平机と背もたれ椅子。正面には幅二メートルほどの出窓。壁は一面、照りのある木材が横張りに使われていて、右側にはクローゼットと本棚がある。

 飾り気のない質素な部屋なのに、どこか温かみがある。

 コンクリートの無機質な宿舎住まいだったサクシードにとって、この部屋は訴えるものがあり、申し分なかった。

「どうかな、ちょっと手狭だけど、不便はないと思うの。必要な物は後で増やして……とりあえず絨毯は何種類かあるから」

「十分だ、ありがとう」

「フィート、相談に乗ってあげてよ。私じゃ聞きづらいこともあるだろうから」

「フィート?」

「ああ、ファイアートの略称よ。そう呼んでるのは私だけだけど」

「略称って……。それを言うなら愛称でしょうが。まぁ、いいけど。ところでサクシード。荷物はそのボクサーバックだけかい?」

「ああ」

「やっぱり移動に物があると、動きづらいからだろ」

「そうだ、邪魔になるからな」

「徹底してるなぁ。僕には考えられないよ」

 感心するファイアートに、レンナが突っ込む。

「そうよね。フィートの部屋って物だらけで、足の踏み場ないし。店が開けるんじゃない」

「言うねぇ。けど物たちは、いずれ僕に使われるのをじっと待っているんだよ」

「無精なだけじゃないの」

「秘密のお宝もあるんだ。まぁ、お子様には刺激が強すぎるけど。サクシードなら大丈夫だな。見るかい?」

「ちょっと、何考えてるのよ!」

 レンナがやいやい言い、ファイアートがへらへら躱す。

「……仲がいいんだな」

 ピタッと言い合いが止み、サクシードを見て、それから二人して顔を見合わす。次の瞬間どっと笑いが起こった。

「そうじゃないの。私たち、はとこ同士なのよ」

「はとこ?」

「うんうん。何だよレンナ、説明してないわけ?」

「だって先入観を持って出会ってほしくなかったんだもん」

「それを話さないで何を話すんだよ。よく持ったな、汽車の三時間」

「……睡眠と読書よ」

「嘘だろ、色気ないなー。せっかくのシチュエーションを何だと思ってるんだよ」

「バカみたい! そんな下心で下宿の世話人が務まるわけないでしょ」

「これじゃ伏線張った僕の配慮が台無しじゃないか。あとは自分で何とかしろよ、得意の力技で」

「なに、わけのわかんないこと言ってんの⁈」

 しまいに怒り出す二人を見て、サクシードは、はとこということを差し引いても仲がいいと思うのだった。

「とにかく! 今はサクシードの部屋のことよ」

「そうだった」

 脱線していた話が、ようやく元に戻った。

「ここはサクシードの部屋よ。望む限り、いつまでもね。だから自由に好きなように飾って、サクシードが寛げる部屋を作ってほしいわ」

「自分の家だと思ってさ、気楽にすればいいんだよ」

 ファイアートの口添えに、レンナも頷く。

「そんな感じ。ここが家なら、私たちは家族ね」

「家族、か……」

 サクシードが呟く。

 肉親が姉しかいない彼にとって、ずいぶん縁遠くなっていた言葉だ。

 ずっと一人きりだった生活が終わることに戸惑う。色褪せたボクサーバッグが、新しい部屋で見るといっそう武骨に見える。

 ……変わらなくてはいけないだろうか。

 すると、レンナがすぐ傍に来て言った。

「焦らなくていいの、ゆっくり慣れてくれれば。サクシードはPOAに専念しなくちゃいけないんだもの。私たち、そうできるように喜んで協力するから」

「……ありがとう」

 端々に気遣ってくれるレンナに、サクシードは感謝した。

「先、行ってるよー!」

 ファイアートがドアの向こうで、手だけひらひらさせて行ってしまった。

「じゃあ、リビングに戻りましょうか」

「ああ」



 



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