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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第三部
104/202

『夕食の光景』

 四十分後、夕食は完成した。

「うほーっ、うまそ―っ!」

 ファイアートの歓声が上がる。

 彼を部屋まで呼びに行き、後からダイニングに入ったサクシードも、夕食の豪華さに目を見張った。

 テーブルの上は春の園だった。

 白い食器に盛りつけられた、たけのこ御飯や鰆の西京味噌焼き、菜の花のお浸し、そして苺。

 赤い漆器のお椀の中で、存在感を放つ蛤。結び三つ葉の彩り。

 ガラスの器の甘酒アイスが名残雪のようだ。

 そして、ヴェールのように軽い色をした苺ワイン――。

 不思議なことだが、サクシードはこの食卓を見て、厳しい任務が終わりを告げたことを実感した。

 レンナの左隣に座り、ニコリと笑みを交わす。

「んじゃ、乾杯の音頭をどうぞ、大家さん」

 ファイアートがレンナに手を差し向けて言った。

「では、サクシードの無事の帰宅と、私たちの新しい門出を祝して!」

「乾杯——!」

 苺ワインの芳醇な香りが、たちまち喉を潤した。

「面白い味だな」

 サクシードが感想を漏らす。レンナが聞き返す。

「そう?」

「苺の風味があるのに、喉越しがさらっとしてる」

「食前酒にぴったりでしょ」

「そうだな……この潮汁、下宿の味だ」

「味覚は衰えてなかったみたいだね」

 ファイアートが言って、サクシードは頷いた。

「向こうでは外食が多かったからな。なるべく自然食品は摂るようにしていたが」

「エスクリヌス下層の因果界の食糧事情も、ちょっとは変わったって聞いたけど?」

「ああ、世界の大変革後に、いち早く流通に乗ったのはパラティヌス産の農産物だったと聞いてる。次にアウェンティヌス産、次が大本の輸入先のクイリナリス産……。クイリナリスは、カピトリヌスの神話の里への搬入ルートを確保するのに手間取って、市場が混乱したという話だ」

「因果界に持ち込めるのは基本、一人が抱えられる荷物だけだからね。それをクイリナリスの空想の里に集荷してから、神話の里の負のエネルギー渦巻く地点まで――うえっ、考えたくもない」

「パラティヌスの童話の里のように、まとまった人数が生産修法で食糧をストックする、というわけにはいかなかったんですね」

 ロデュスが頷いて言った。

「カピトリヌスの万世の秘法の位階者は、そもそも絶対数が少ないからな。みんな神話の里に堕ちた悪党の世話で忙殺されたらしい」

 ラファルガーが当時の新聞記事を思い出して言った。 

「だから、カエリウスの因果界、月の洞の封鎖ゲートが開放されたんだろ?」

 サクシードが誰にともなく聞いた。

 月の洞は因果界の地下世界。万世の秘法の道場であり、同時に呪界法信奉者が侵略の足掛かりにしていた、危険地帯だ。

「炎樹の森を見て、狂喜したとかしないとか。まぁ、救いようのない土地に縛られてたんだから、それもわかるよね」

 ファイアートの言葉に頷くラファルガー。

「森林破壊被害ゼロ件——裏付けされた事実だな」

「そういえば、炎樹の森はNWSが直前に仕事を請け負ってたんだろ、レンナ」

 サクシードがレンナに話を振る。

「ええ、現地の修法者と協力して、森林の修復作業をね。カエリウス開放の報告に、NWSは衝撃を受けたけれど。思った以上に炎樹の森の健やかさが呪界法信奉者に与えた影響は大きくて、まずは胸を撫で下ろした、というところね」

「実はNWSカップルのラブパワーが炸裂したんじゃないかって、民話の里でまことしやかな噂が流れたよね」

 箸をレンナに向けて、勘繰るファイアート。

「それくらい、呪界法信奉者の行動が意外だった、ということよ」

 さらっと受け流すレンナ。事実は炎樹の森だけが知っているのだろう。

「POAの前線も、カエリウスの西の国境、シシュ山脈まで大きく後退して、あとは民話の里の専守防衛に努めたようだな」

 サクシードの言葉に、ロデュスが小さく手を上げた。

「すみません、専守防衛って何ですか?」

「相手が攻撃するまでは、攻撃を仕掛けない。退去させるために排除はするが、相手の拠点は叩かない、という戦略のことだ。世界の大変革前のパラティヌスとウィミナリスの基本戦略でもある。

カエリウスは軍備増強。ちなみにクイリナリスとアウェンティヌスの戦略は、軍備管理——他国との外交で軍備を管理し、国際紛争の原因・誘因を減らすこと。カピトリヌスは分進合撃——分散した部隊が集中するように機動・攻撃すること。エスクリヌスは陰謀詭計――計略や策謀によって、テロリストの無差別攻撃を封じる、という戦略が敷かれていたんだ」

「面白いよね、混乱が大きい国ほど、戦略が古いよ」

 ファイアートが言って、たけのこ御飯をかき込む。

「——面白いのは、あなたたちだけよ。フローラなんか一言も発しないわよ」

 レンナが渋い顔で指摘する。

「皆さん、やっぱり男性ですわね」

 フローラがくすりと笑んで、一言置く。

「すいませんね、せっかくの力作料理をきな臭くして」

「悪かった、フローラ」

 ファイアートとサクシードが謝る。フローラは「いいえ」とだけ返した。

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