『春の食卓』
もう献立は考えてあった。
たけのこ御飯に、はまぐりの潮汁。鰆の西京味噌焼き、菜の花のお浸し、デザートに旬の苺と甘酒アイス。
たけのこは昨夜から灰汁抜きしてあり、ハマグリの砂も吐き出してあった。
冷蔵庫には、この日のために買い出した、パラティヌス・ユーフォルビア地区名産の苺ワインが程よく冷えている。
米を研いだ後、たけのこを薄切りするレンナ。
油揚げを油抜きする準備をするフローラ。
二人の会話はいつもより弾んでいる。
「サクシード、ますます男らしくなりましたわね」
「そうね、やっぱり職業柄かな……」
「レンナさんが命綱をしっかり握っていたからですわ。ファイアートではないけれど、どんな約束があれば背中を預けてそれぞれの生き方ができるのか、興味がありますわね」
「……今だから言えるんだけど。『蓮の台』って伝えたの」
「レンナさん……!」
フローラはその言葉が意味するところを、すぐに理解した。
「だから、天上にもし往けたらサクシードと手を取りあいたい、って願いを込めたの」
痛いくらいの気持ちを知って、フローラが涙ぐんだ。
「フローラ……?」
「大丈夫ですわ。サクシードは帰ってきました、あなたの許に」
「うん、そうね」
「絶対、責任を取ってもらいますわ」
「えっ? そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃありませんわ……!」
フローラは辛そうに言った。
「レンナさん、これだけは忘れないで。あなたが神々の意志を体現した心身を、損ねるようなことがあれば、この世では……その絆を繋ぎ止めてくれるのはサクシードしかいないんです。どうか大地に根差して生きていくと決意してください」
レンナの左腕に両手を添えて、フローラは懇願した。
その手に右手で触れて、レンナは笑った。
「私、どこにも行かないよ?」
「……」
「フローラの幸せを見届けた後も、サクシードと協力して生きていくから……それでいい?」
「約束、ですよ?」
「うん、約束」
指切りげんまんして笑い合うと、二人はいそいそと夕食作りを急いだ。




