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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第三部
100/201

『レクチャーの行方』

「それであなたは、本当に納得したの?」

 レンナに改めて聞かれて、サクシードはためらいを捨てた。

「……ああ!」

「よかった。これで私も暫定リーダー解任ね」

「君が執行部のリーダーを?」

「あなたが帰ってくるまでね。みんな手ぐすね引いて待ってるわ。POAのことは訓練科のことしか知らないでしょ」

「そうだな……」

「他にも、陸・海軍や情報部、監査局。企画課や人事課といった13の課があるの。執行部はどの部課にも関連があるのよ。五年の間、私たちは仕事の合間を縫って、関係を深めてきたわ。あなたの当面の仕事はそのことになるはずよ」

「参ったな……」

「えっ?」

「進路について考えていたことがふいになるな」

「そうね、あなたともあろう者が、進路も見定めずに帰ってこないわね。——どうするつもりだったの?」

「……警察官になろうと思ってたんだ。もちろん、パラティヌスで。POAにいても戦地に派兵されるだけだから、除籍しようと」

「上層部にそれを話していたら、悲嘆されていたわね。……警察官になることは反対されないと思うけど?」

「君はどう思う?」

「あなたが傍にいてくれるなら、こんな嬉しいことはないわ」

「——そう言ってくれるか!」

 別れの涙をこらえてくれた人。その気持ちは寸分も違わなかった。

 ならば喩え新たな任務が待っていようとも、まったく問題はない。

「うまく折り合いをつければ大丈夫よ。みんなも仕事を掛け持ちしながら二足の草鞋だし、問題ないと思うわ」

「一つだけ、ある」

「何?」

「『万武・六色』が赤のみで止まってる。俺が執行部のリーダーになるということは、実戦があることも覚悟しなければならない、ということだ。赤のみの即席戦闘員のままで務まるかな?」

「私が指導するのはダメなの?」

「また君が?」

「不満そうね」

「——わかってほしいな。守りたい女性に拳は向けられないよ」

「!」

 ドキッとするレンナ。そしてやや呆れたように言う。

「……相変わらず、臆面もなく言ってのけるのね」

「いつまでも君にイニシアチブを取られたままだと思わないでくれ。……もう君には負けないよ」

「勝負しましょうか?」

「都合が悪いんだろ」

「!」

 畳みこまれた。サクシードはそのことについて、譲歩する気はなさそうだった。

「都合がよくても、もうごめんだ。それに――ドギュスト部長に掛け合えば、他の人を紹介してもらえると思う」

「あの……」

「うん?」

「ヤヌアリウス長官が、サクシードを待ってるわ」

「——それを早く言えよ」

 がくっと項垂れるサクシード。

 すぐ気づくべきだった。武人のヤヌアリウス長官らが、レンナに戦い方を指導される自分の複雑さを、理解しないわけがないと。

「俺をからかうのが楽しいですか、お嬢様?」

「急にシリアスになるんだもの……おかしくて」

 口を手で押さえるレンナ。

「少しは調子を取り戻したか?」

「そのうちにね。……もうあの頃のサクシードじゃないのね」

 五年前のサクシードを重ね合わせていたのは、レンナも同じだった。

「……男は上を向く生き物だ。同じ処に留まってはいないさ」

「女だって、下を向いて歩いているわけじゃないわ。みんな同じよ」

 レンナがスッと席を立ったと思うと、サクシードの左隣に座り直した。その一段と逞しくなった腕に、右手をそっと絡めた。

「レンナ……」

「温かい……」

 寄りかかって呟く。今度こそ髪のオレンジの香りがした。

「逢いたかった」

「……俺もだ」

「嘘つき」

「……君にもストイックを強いて悪かったな」

「そんなの! 待つついでみたいなものよ」

「強いんだな」

「あなたもね」

「——俺にここで暴挙に出ろと?」

「今なら誰も見てないわ」

「なるほど、確かに」

 サクシードはレンナの耳脇の髪に指を絡めた。

 右手でそっと白い顎を持ち上げる。

 自分を映した翡翠の瞳がそっと閉じられる。

「……光栄だ」

 優しく口づけた。

 そして気持ちのままに、五年の思いの丈を唇に託したのだった。

 

 その頃、ウェンデス統治者は、無事再会した恋人たちの逢瀬を見守って、静かに水晶に紫の布をかけた。

「離れていた時間は、問題ではないようじゃな」

 例によって、その場に詰めていたヤヌアリウスらと話し合う。

「必要な話は、レンナがほとんどしてしまった。サクシードのことだ、明日にでも本部に顔を出すじゃろう」

「腕が鳴りますよ」

 そう言ったのは、ヤヌアリウスPOA長官だった。その麗人ぶりは健在だ。

「世界各地に散った、当時の訓練生も、希望者はみんな帰ってきました。ほとんどの者は戦闘力の向上が目的のようですが」

 ドギュスト執行部部長が資料を見て言った。

「うむ、みな万武・一色のみの即席戦闘員じゃからな。先輩に揉まれ、現場に立ち会う中で、思うことがあったのじゃろう」

「彼らのお世話もするつもりですか? あなた」

 五年の間に、ヤヌアリウスと結婚した秘書のシルデニアが尋ねた。

「もちろんだよ。彼らの気概を肌で感じたいからね」

「何度も言うようですが、くれぐれも彼らの矜持を叩き折るようなことは――」

 ドギュストに言われて、ヤヌアリウスは肩を竦めた。

「——自重するよ」

 五年前、万世の秘法を知らない無辜(むこ)の訓練生を、恐るべき戦闘力で薙ぎ倒したのは記憶に新しい。

「執行部の結団式は予定通り、繁緑の四月天察の一日に執り行う。おさおさ準備を怠ることがないようにな」

「承知しました」

 三人は華麗に礼を返した。

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