『夕食のひととき』
夕食は大変な豪華さだった。
牛肉のグリル、白身魚の香草焼き、季節野菜と鯛のマリネ、きのこ入りのオムレツ、魚介の煮込みスープ、トマトとチーズを挟んだホットサンド、花入りのフルーツポンチ。
グラスに注がれたのはシードルだった。全員にグラスが行き渡り、持ち手を持って上にあげる。
「それじゃ、乾杯の音頭をどうぞ。大家さん」
ファイアートがおどけて言って、大家……レンナはコホンと咳払いした。
「では、サクシードの到着と『シンパティーア』に吹き込まれる、新しい息吹を祝って」
「乾杯——!」
鳴らされるグラスと、こぼれる笑顔。
あとは料理を自由に皿に取り分けて食べる。
早速、レンナに次々と料理を勧められ、サクシードは平らげるのに忙しくなった。
合間にファイアートが質問する。
「二人はすぐに会えたのかい?」
「ううん、人がいっぱいでなかなか会えなかった。しょうがないから看板を持ち上げて、揺らしてたらサクシードが見つけてくれて。ね」
「ああ」
「そりゃ、目立つわな」
クックッとファイアート。
「なによ、おかしい?」
「愉快な出会いだったってことさ」
「……」
「それで? メーテスを案内したんだろ。どこに行ったんだい?」
「肉料理の『タウロス』で昼食をとって、駅に直行したけど」
「それだけ? ヴィット-リア広場か、アネモネ通りに行けばよかったのに」
「反対の区画じゃない。疲れてるのに引っ張り回せないわよ」
「どんなところなんですか?」
ロデュスが聞くと、ファイアートは得意げに言った。
「どっちも見世物や演芸を終日やってるのさ。パフォーマーが競い合ってて、見応えあるぜ」
「楽しそうですね」
「案内するよー! ロデュスなら、フェスタ公園に、アモール・ポエータ、アルティスタ街に、オカルト村……」
「こら! どこに連れて行く気よ」
「冗談だよ、冗談」
ハハハと笑って、ファイアートが誤魔化す。
油断ならない、とレンナは言った。
「もう。人にはね、それぞれ知るべき時があるんだから!」
「ごもっともで」
ファイアートは大人しく引き下がった。
二人以外には何のことかわからないが、オカルト村は危ないところらしい。
「レンナさん。あのチューリップの花束は、メーテスで?」
フローラが話題を変えた。
立腹していたレンナは、急に動揺した。
「えっ……そう。メーテスで街頭販売してて」
「もしかして、プレゼント?」
「う、うん」
「へっ、誰の?」
「決まってるじゃないですか!」
ロデュスが言って、一斉にサクシードに視線が集まる。
「かっこいい! 初対面で花束プレゼント」
ファイアートがからかったが、レンナが慌てて訂正する。
「違うの! 花束は花屋のおじさんが勝手に作っちゃって。サクシードは仕方なく、迎えに来たお礼ってことにして、プレゼントしてくれたの」
「おまえね、仕方なくは失礼だろ」
ファイアートの指摘に、レンナは「あっ」と手で口を押さえた。
サクシードは黙々と食べている。
「ごめんなさい」
「気にするな」
一言、それだけだった。
それを見て、ファイアートは「なかなかやる」と唸り、ロデュスは尊敬の目で見て、フローラは嬉しそうに微笑し、ラファルガーは口角をわずかに上げたのだった。
夕食はその後、穏やかに続き、若い胃袋に納まったのである。




