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悪魔の家  作者: 上原 光子
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8

今はまだ昼間だが、雲のせいで薄暗く、夜になるともっと暗く、危険になるのは明白。

「…わ、私行きます」

そこに、藤が手を挙げた。

「ふじちゃん!やだ!行かないでよ!」

「危ないからーー」

「私、体力あるから大丈夫です!すぎちゃんは怪我してるし、あかりちゃんも体調悪いし、私、行きます」

杉もけいじも慌てて止めるが、藤の意思は固いようで、言い切った。

濱田の後ろに次いで、ロープを握る。が、その手は震えていた。

「ふじちゃん、無理しなくていいんだぞ」

「大丈夫です!田村さん達がいますし、それに……田村さんが戻って来なきゃ、どうせ私達は生き残れません」

藤はハッキリと言い切った。

そして、それは正しかった。

アウトドアの知識が豊富で、その技術もあるけいじは、食べられる山菜やきのこ、火起こしの仕方など、自分から学ぼうとする意識の高いあきとを筆頭に教えてはいるものの、まだ確かでは無い。

「いっぱいとって、早く戻ってきましょう!」

藤は精一杯の笑顔を見せた。

「ふじちゃん…!絶対、絶対戻って来てね!」

杉は、ぎゅっと藤に抱きついた。

「ここから絶対に出ないこと、1人になったら駄目だからな」

けいじは念押しし、火をあきとに任せ、濱田、藤と共に洞穴を出た。

1歩出ただけで、直ぐに3人の姿が見えなくなる。

「たぁ君♡やっと2人きりだね」

ピタリとあきとにくっつくはな。

「えっと…」

正確にはあかりも杉もいるのだが、はなは2人を空気として扱う事にでもしたのだろうか。

どう答えていいのか分からないあきとは、チラリと2人を見た。

無言で首を横に振る2人。

短い時間だが、はなの人となりを多少理解した2人としては、巻き込まないで欲しい。

これが正直な所だろう。

「暖かい水でも飲む?」

「たぁ君が沸かしてくれるの?嬉しー♡」

あきとは2人の意図を組み、会話を逸らした。

雨水をくむ為、洞穴の外に設置しておいた鍋に立ち上がり向かう。

「ーーーねぇ」

「っ!」

あきとが離れたのを見、はなは杉とあかりに声をかけた。

「気を使ってどっか行ってよ。空気読めないの?馬鹿じゃない」

本当に2人きりにさせろ。

直訳でそう言っているこの言葉が、どれ程無謀な事を言っているのか。

「無理に決まってるでしょ!」

今まで何も言い返さなかったが、流石に、杉は言い返した。

「はぁ?!何なのその態度?」

大きな声を出し、睨みつけるはな。

「我儘ばっかりーー何なの!いい加減にしてよ!」

今まで押さえつけていたものが、爆発したのか、杉も大きな声を出した。

「はぁ?!あのねぇ、美人は、何しても許されるの!あんたみたいなブスデブには分からないでしょーけど!生きてる価値無いもんね?」

「っ!酷…い…!」

彼女の頬にはそばかすがあり、標準よりも太っている体型。





『ブース!デブ!!』


小さい頃、男の子達にかけられた言葉がーーー


『うわー!きったねー!バイ菌だぁ!!』


自分に触れた男子が、騒ぎながら、汚いものを押し付けあうように、タッチしあう。




ーーー光景が、頭を過ぎる。






杉は、目に涙を浮かべた。

「ちょっとはな、何言ってるの?」

「あーあ。可哀想。涙は女の武器ってゆーけど、あんたの場合、豚に真珠よね!」

騒ぎに気付き戻って来たあきとの言葉を遮り、はなの罵倒は続く。

「ああ、豚に失礼かしら?豚は綺麗好きって言うもんね!ブスデブのきもいあんたは、汚い!もんね!」

「はな!止めーーー」

「もお嫌!!!」

杉は頭を抱えながらそう叫ぶと、洞穴を飛び出した。

「待って!駄目!!」

あかりが大きな声を出して止めるが、杉は止まらなかった。

濃い霧の中、一瞬で杉の姿が見えなくなる。

「あーあ。何あいつ。死ぬんじゃない?自殺行為?やだぁこわぁーい」

はなは悪ぎれもなく、あきとにピッタリとくっつきながら甘えた声を出した。

そんなはなの手を、あきとはばっと払う。

「っ!たぁ君?何、酷いー」

「離して」

あきとは顔を見せないまま、冷たく言い放つと、杉を追って洞穴を出る。

「たぁ君?!」

「面堂さん……!」

ここから決して出るな。

1人で行動するなとのけいじとの言いつけを破り、杉もあきとも霧の中に姿を消した。

「やだ…どうしたら…」

こんな霧深い森の中、すぐに人の姿も見えなくなる、悪魔の森と言われるこの場所で迷う事の意味は、嫌でも理解出来る。




< 死 >





「ーー今何か大きな声が聞こえたんだけど、何かあっーー」

「けいじさん!杉山さんが!面堂さんが!ーーっ!ここを、飛び出して行ってしまってーー!!!」

この霧の中、何かが動く気配と、大きな声が聞こえ、様子を見に戻ってきたけいじに、あかりは真っ青な表情で訴えた。

「おい、何だよ急に」

「あかりちゃん?どうしたの?」

けいじに続いて、濱田、藤も何事かと戻る。

「…………大丈夫。皆はここにいて。俺が様子を見てくるから」

あかりを落ち着かせようと、けいじは優しく肩に触れ、普段通り優しく答えると、外に出ていたロープを1度引き寄せ、手に持ち直した。

「濱田君」

「あ?」

途中に戻った濱田にはまだ状況が掴めておらず、ただ、何かが起きている事は理解出来る。

「皆を頼む。絶対に、ここから離れないように」

けいじは真剣な表情で濱田にそう告げると、岩についたロープをしっかり締め直し、息を深く吸い直して、洞穴を出た。





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