6
「ちっ」
「仕方ないよ。はなさんの靴はどう見ても山道を歩くには適して無いしね」
はなとあきとに舌打ちをする濱田に、けいじは優しく諭すように言った。
「あきと君、疲れたら代わるから言ってくれ」
先頭から、けいじは最後尾にいるあきとに手を挙げながら声を上げ、そのまま彼等が近くまで来たのを確認し、ゆっくりと歩みを進めた。
「くすくす。やだぁ。何ではながあんなおっさんにおんぶしてもらわなきゃなんないんだろーね?はなはたぁ君じゃなきゃ♡」
はなはあきとにだけに耳打ちしてるつもりなのだろうが、その声はあかりにも、近くにいた女子高生達にも聞こえた。
あまり、いい気分はしない。
「すぎちゃんは大丈夫?」
「え?」
はなをおんぶする事により、逆に歩みが早くなり、近付いた先で、あきとは杉に訪ねた。
「杉ちゃんもあんまり体力無さそうだから」
心配そうに杉に尋ねるあきと。
「え、あ、大丈夫です!」
「すぎちゃんには私がいますんで!」
おんぶされているはなの表情が一瞬で険しくなったのを見て、杉は一瞬で首を横に振り、藤も慌てて杉と腕を組み、2人して急ぎ足で先頭の2人の元に向かった。
「……」
あかりは、そのまま自分のペースで進む。
すぐ後ろには、あきとと、おんぶされているはな。
「すぎって子、ちょっと太り過ぎだよねぇ。はななら、あんな体型で人前に出れなぁーい」
はなは上機嫌に、甘えた声であきとと会話をしていた。
「きゃあ!!」
そんな中、前方から悲鳴が聞こえた。
「あきと君!」
けいじの、あきとを呼ぶ声が聞こえる。
「はな、ちょっと降りて」
あきとはすぐにはなを下ろし、前方に走った。
「どうしました?」
「すぎちゃんが転んで、足を怪我してしまったんだ」
ぬかるんだ土に足をとられ、転んだ先の岩にぶつけたのか、出血している。
「消毒して止血します」
あきとは手際良く、自分のリュックから消毒液や包帯を取り出し、治療を始めた。
「ごめんね、私がすぎちゃんを急がせたからっ」
藤は涙を浮かべながら、謝罪する。
そんな藤に、杉は大丈夫だよ。と笑顔を返した。
「うん。大丈夫。でも、今日はもう無理しない方が良いかもね」
治療を終え、あきとはそう言うと、はなを見た。
「はな、少し歩ける?怪我しちゃったから、次はすぎちゃんを抱っこしたいんだけど」
「「「!」」」
あきとの発言に、内心、絶対それ言っちゃ駄目なやつ!!!と、何名かは叫んだ。
「ーーーは?」
案の定、はなはとても不機嫌なオーラを醸し出し、杉を睨み付けた。
「わ、私歩けます!」
「無理しない方が良いよ。これは医者命令」
空気が読めていないのか、はなの不機嫌オーラを完全に無視するあきと。
「何でよ!何ではなが我慢しなきゃならないのよ!」
「はな?」
「自分が勝手に転けて怪我したんだから、自業自得でしょ?!なんでそんなブスデブの為にはながーーー」
パンパンッッ!!!
「はい、stopーー」
大きな手拍子とともに、けいじが口を挟んだ。
「丁度日も暮れかけてるし、今日はここまでにして、また明日出発しよう。1日休んで、まだ足の怪我が酷いようなら、すぎちゃんは俺が運ぶよ。それでいいかな?」
「え、そんなっ悪いです」
「大丈夫大丈夫」
遠慮する杉に、けいじは笑って答えた。
「さ、火をつけよう。また落ち葉や木を集めて貰えるかな?」
パチパチパチ
火の周りに皆が集まっているが、昨日程穏やかな雰囲気では無かった。
あの後、けいじ、杉、はなはその場に留まった。
けいじは火を起こす為と、足を怪我して動けない杉と、ピンヒールで動けないはなを2人にするのは良くないと判断した為だろう。
そんな3人に、サボりやがって!と濱田が吐き捨て、はなも言い返し応戦するとゆう1悶着もあった。
疲れもあり、藤と杉、はなはすぐに眠りについた。
「田村さん、今日は僕が火の番をしますから、寝て下さいね」
「あ…私も…出来ます。私…します」
昨日寝ずに火の番をしてくれたけいじを気ずかい、あきととあかり、2人が申し出た。
「でもーー」
「2日続けて寝ずの番して倒れられるほーが迷惑だろーよ」
遠慮するけいじに、濱田は吐き捨てるように言った。
「でもな、女の子相手にそんな事はさせれないしな」
「ーー俺にしろ?って言ってんなてめぇ」
チラチラと自分を見ながら言うけいじを、濱田は睨み付けた。
「ちっ!すればいーんだろ!すれば!」
「ありがとう!濱田君はやっぱり意外と良い奴だな!」
けいじは濱田の背中をバンッと強く叩いた。
結局、火の番はあきとと濱田がそれぞれ交代で担当する事になり、お言葉に甘え、あかりも眠りにつく事になった。
(疲れた…)
正直、体調も悪く、疲労も溜まっているので、気遣いは有難かった。
それにーーー
あきとを発端に起こる、はなの態度にも、辟易としていた。
自分だけでは無い、杉も藤も、けいじも、気を使っているだろう。
(明日は…何も無いと…いいな)
そんな事を思いながら、あかりは眠りについた。