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「よし、皆の自己紹介も済んだし、火も確保出来た。
とりあえず、朝までここにいて、誰かが事故に気付いて、助けが来るのを待とう」
「こ、こんな崖の下……助けなんて来れますか……?」
落ちた道路の場所からは断崖絶壁の岩肌。
辺り一面は木々で埋め尽くされていて、ヘリコプターなどの助けも期待出来ない。
けいじの提案に、藤は不安そうに聞き返した。
「そうだね……助けが望めないなら、この森から脱出するしかなくなるけど」
チラリと、けいじは女子高生二人を見た。
「君達はここの地元の子達だよね?俺はここの出身じゃなくてね。詳しくこの森の事を聞かせてくれないかな?」
「えっと……ここは、凄く広くて、迷いやすくて、何人も、外から登山客とか、森の探索とかで来る人がいるんですけど、何人も帰って来なくて……」
「うん。それは知ってる」
この村に来るのがよそ者なら、殆どの目的は、この森、悪魔の森。
未知な領域に足を踏み入れたいとするもの。
永遠に彷徨うというこの場所で、自分の最期を迎える為に、死を覚悟して入るもの。
悪魔の森が入ったら出れない迷宮な物だとは、この村に訪れた者なら皆知っているだろう。
だがーーー
「すぎちゃん、君は、この森に落とされた時、<殺される!>。そう叫んだよね?」
「あー」
自分が叫んだ言葉に気付き、ハッとし、口元を抑える。
「あの、それは、その。あの……地元の間の、昔話って言うか、作り話っていうか」
「悪魔がいるって言われてるんです」
杉に続いて、藤も話し出した。
「誰も帰って来ないから、悪魔がいて、悪魔が、旅人を殺して食べちゃってるんだって。だから森には近付いたらいけないよって」
「成程ーー小さな子達に、森に近付いたら駄目だよ。って教える為の作話ーーみたいな物なのかな?」
「多分、、、私はお母さんから聞きました」
女子高生2人は、互いにうんうんと頷きながら、話した。
「やだぁ、こわぁい」
はなはぎゅっとあきとの腕に手を絡めた。
「悪魔、おとぎ話みたいですね」
あきともはなも、この村出身では無いのだろう、2人の話を聞き、それぞれの反応を見せた。
「んな嘘話、信じてどーすんだよ」
「しんーー濱田君は、この村出身なんだね」
けいじは、再度しんのすけと呼びそうな所を堪え、濱田と言い直した。
ギロリと濱田はけいじを睨んだが、言い直した事で、怒鳴る言葉を飲み込んだ。
「そーだよ!こんなクソど田舎!速攻捨てて出ていったんだよ!」
「じゃあ里帰りか」
「うっせぇ!てめぇには関係ねぇだろ!」
濱田が怒鳴る度に、女子高生2人はビクッと体を揺らす。
(……悪魔……)
あかりは、皆の会話には一切入らず、耳に聴こえてくる音を、ただ受け入れていた。
(眠たい……な)
皆の声を後ろに、意識が無くなっていく。
いつの間にか、静寂だった。
1人、また1人と、眠りについたのだろう。
パチパチと、火の音だけが、小さく聴こえる。
「……ん」
次に気付いた時には、辺りは少し、明るい。
(朝……私……生きてるんだ)
あのまま死んでいても、決しておかしくなかった状況で、こうして生きている。
「おはよう」
「!」
急に声をかけられ、あかりはビクッと体を揺らした。
声の主はけいじで、ふわぁ。と大きな欠伸をしながら、腕を上げ、体を伸ばした。
「…寝ていないんですか…?」