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悪魔の家  作者: 上原 光子
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「皆さん、こんな状況だけど改めてーー俺の名前は(田村 けいじ)!よろしくね」

あかりにカーディガンを渡してくれたり、バスを降りるのを提案したりと、優しさとリーダリップを見せていた男性が、バスの乗客達を前に、笑顔で自己紹介をした。

「年齢とかも言った方がいいかな?年齢は41、好きな食べ物はーーー」

「いらねぇよ!てめぇの好きな食べ物とかいちいち興味ねぇんだよ!」

「おや、これは失敬。じゃあ次は君の番でいいかな?」

けいじは、バスの運転手に怒鳴ったりと、乱暴な振る舞いをしてきた男に向かい、自己紹介を求めた。

「なんで俺がーー」

「俺達は運命共同体だ」

急に真顔になり、男を見つめる。

「こんな状況になってしまった以上、力を合わせて行動するべきだと思うんだけどな」

「何がーー」

「同じ男として頼りにしてるぞ!」

反論しようとする男の背中をバンッと笑顔叩く。

「いってぇな!!!」

「さ!君の名前は?」

「ーー!くっそーーー俺は……………………(濱田…………しんのすけ)だ!」

「しんのすけ君か!宜しくな!」

「名前で呼ぶんじゃねぇ!濱田だ!ぶっ殺すぞ!」

けいじは笑顔で挨拶したが、しんのすけーー濱田は、けいじの胸ぐらを掴み、睨みつけながら叫んだ。

「わ、私は(藤 みさと)です」

「(杉山 みさと)です」

続いて、女子高生二人が挨拶した。

「へぇ、同じ名前なんだね」

「そうなんです。だから、お互い、ふじちゃん、すぎちゃんって呼んでて」

けいじの人当たりの良さだろうか、女子高生2人は、けいじに対して早くも少し打ち解けたようで、緊張を少し解いているのが、会話で伝わった。

2人は名前だけでなく、髪型もポニーテールで、お揃いの髪留めをしていて、仲の良さが伝わる。

落ちている木の枝や葉っぱを集めながら、自己紹介は続く。

「私はたぁ君の彼女の(藤咲 はな)よ」

金に近い茶色の髪、ピンクのマネキュア、ピンクほリップ、赤いピンヒール。

ピンク系統の色に包まれたはなは、とても整った綺麗な顔をしていて、こんな田舎には似つかわしく無い都会の女性に見え、それは、彼氏にも言えた。

「僕は(面堂 あきと)と言います。よろしくお願いします」

落ち着いた雰囲気のあきとは、笑顔を浮かべた。

彼女とは違い黒髪で、ジャケット姿の爽やかなイケメン好青年。

「面堂……あきと……聞いた事あるな。まさかあの大病院の?」

けいじの質問に、あきとははい。と肯定した。

「僕の父は東京の方で病院を幾つか経営していて、僕自身も、まだ若輩者ではありますが、医者です」

あきとはけいじの頭の怪我にそっと触れた。

「対した事はなさそうですが、化膿したら大変です。消毒液持っているので、後で処置しましょう」

「おぉ……。準備がいいね」

「仕事柄でしょうか。色々持っておかないと不安になってしまうもので。それに、僕がここに来た目的は、医者がいないと言われている地域でのボランティア活動の一環ですから」

あきとはそう言うと、大きめのリュックから包帯や絆創膏などを取り出して見せた。

「おい!集めたぞ!これでいーだろ?!」

濱田は大量の木をドカっと乱暴に置いた。

「いっぱい集めてくれたんだね、ありがとうしんのすーー」

「濱田って言えや!ぶち殺すぞマジで!!」

名前を呼ぼうとするけいじの言葉を遮り怒鳴る濱田に、けいじは分かった分かったと、笑顔で返した。

「さ、とりあえずこれで火をたこう」

皆で集めた木や葉を積み重ねていく。

けいじは、濱田に手を出した。

「あ?」

「ライター貸してくれるかな?」

「……ちっ」

濱田はポケットからライターを取り出し、けいじに乱暴に手渡した。

濱田の体からは、煙草の特有の臭いがする。

けいじはそこから、濱田がライターを持っている事を推察したのだろう。

手際良く葉っぱや、自分の鞄に入っていただろう紙に火をつけ、木に火を移していく。

「手馴れてますね」

藤と杉山は感心するように言った。

「趣味がアウトドアなんでね」

辺りはもう暗く、寒い。

木に灯る火に、光、暖かさを感じ安堵する。

「さ、最後だね」

そう言って、けいじはあかりを見た。

「……」

何となく、このまま空気のまま、自己紹介が流れないかな。と思っていたが、それは出来ないようだ。

「……(あかり)です」

あかりは、短く自分の名前だけを小さな声で伝えた。


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