17
中学卒業で、優等生の彼と同じ高校には行けず、離れてしまったけど、間違いなく、彼は自分の事が好きだと、確信していた。
『……』
男は、赤ワインをかけられた女性の姿を確認し、はなを、睨んだ。
『藤咲さんがしたの?』
『え、違うよぉ。わざとじゃないの』
甘えた声を出し、はなは瞳に涙をうっすら浮かべた。
『手が滑っちゃっただけなんだけどぉ、ーーさん、凄く怖くて、怒るから……はな、わざとじゃないのにぃ』
男は女の涙に弱いし、美人で可愛いはなは、特別で、彼はすぐに陰キャじゃなく、今度ははなの方に来て、慰めてくれる。
そう、信じて疑わなかった。
『ーーー赤ワインかけられたら怒るのは当然だろ。藤咲さん、ちゃんと謝ったの?』
『え?』
責めているように感じる口調に、険しい表情。
『もういいよ、ーー君』
陰キャは、図々しくも、ーー君に触れながら、そう言うと、その場を離れようとする。
『ちょっ!待って!』
(あんたはどっか行ってもいいけど、ーー君は置いていきなさいよ!)
苛苛する。
ーー君だって、その陰キャと一緒に行こうとするのがおかしい!
私を責めたり、睨んだりする事がおかしい!
ここは、はなの元に来て、はなを甘やかして、その陰キャを悪くいう所なの!
図々しくも、自分が偉くなったと勘違いしてる女に!
『…………藤咲さん、本当に昔と変わってないのね。なんか可哀想』
(ーーーは?)
何?あんた如きが、はなを見下した?
ぶさいくな底辺な女が?
陰キャ女は、はなの近くまで来ると、そっと、耳打ちした。
『クリーニング代は請求しないでおいてあげるね。会社の仕事を男性に代わりにやって貰っていた事がばれて、会社クビになったって聞いてるから』
『ーーっ!!!』
頭に血が上り、カッとなる。
そのまま2人が会場内に戻るのを、はなは爪を噛みながら睨みつけた。
(何よーームカつくムカつくムカつく!!)
ちょっと会社の社長になったからって、偉そうに!!
(ふん。でもどーせ、男いなくて寂しい人生送ってんでしょ。やーよね、仕事だけしか能の無い女って)
ーー君も、あの状況だけ見て、陰キャの味方をしちゃっただけ。
そう考え直すと、気持ちが上がった。
(そうよ。良い女は仕事なんかしないの。良い女は、良い男捕まえて、専業主婦になるんだから)
気持ちを改めて、会場内に戻ろうと、入口まで足を踏み入れーーー
『この度、ーーと、ーーは婚約しました!』
司会者のマイクから、陰キャ女と、御曹司の彼の婚約発表のスピーチが聞こえ、立ち止まった。
周りはキャーと大きな歓声に、拍手。
目に映るのは、幸せそうな陰キャの姿。
(何でーー)
私の事が好きだったんじゃないの?!
中学の時、美男美女で、お似合いって!あれだけ噂されてたのに!
『いいよねぇ、お似合い!女社長と、会社のエースでしょ?!羨ましいー!』
ムカつく!!!
中学の時は、私と彼の事をお似合いだって言ってたクセに!
女社長ーー
『そっか…。あの女の権力で、断れないでいるのね…!』
政略結婚?
それとも、会社を盾に脅されてるの?
どちらにせよ、ーー君は、はなが好きなのに!!
『はなが助けてあげなくちゃ…!』
『いい加減にしてくれよ!』
会社帰り、スーツ姿の彼に抱きつき、はなは振り払われた。
『お願い!諦めないで!あんな女の言いなりになっちゃ駄目よ!目を覚まして!』
『何言ってるの…?怖いんだけど…』
男ははなの性で乱れたスーツの身だしなみを整え、はなと距離をとった。
『ーーと俺は、彼女が高校生の頃、彼女が会社を企業する前から付き合ってるし、俺が藤咲さんを好きだった事なんて1度も無い!噂されてるのも知らなかった!迷惑!!
第一、藤咲さんは俺の御曹司の肩書きを見てるみたいだけど、俺、会社継がないからね』
『え……は?迷…惑?会社を継がない?』
『そう。俺は親父の会社とは全く畑違いの仕事がしたくて、それを尊重してもらったんだ。だから、権力とか、政略結婚とか無いの』
『そんな…』
『分かったらこれ以上付きまとわないで。次顔見せたら、警察呼ぶぞ』
そう言い残し、はなを残しその場を去る。
色々な事が頭を回って、パンクしそう。
陰キャは高校から皆の憧れの的のーー君と付き合ってた?
ーー君は、はなの事が好きじゃない?
陰キャは、女社長で、地位もあって、素敵な旦那様まで出来るって事?
はなより可愛くないのに?
はなより、絶対男にちやほやされて生きてなかったくせに!!
ムカつく!ムカつく!ムカつく!!!
怒りで、頭が沸騰しそうな位、熱い。
(嫌…絶対に負けたくない!あんな陰キャ女なんかに!!)
見返してやる。
ーー君より素敵な男を見つけて、誰もが羨む玉の輿に乗って、悠々自適な生活を送ってやる!