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悪魔の家  作者: 上原 光子
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朝ーーー。


この生活になってから、朝は早く、夜も早い。

日が落ちると寝静まり、夜明けと共に活動する。




あかりは台所で、山菜やきのこを、包丁でトントンと、不慣れな手つきで切っていた。



いつもより、体が楽に感じるのは、気のせいではないだろう。

今までの野宿とは違い、屋根や壁のある、たたみの上で睡眠をとれることがどれ程幸せな事か、噛み締めた。

二階建ての家は、1階には台所、風呂釜、居間、トイレ、和室、2階には大きめの和室と、もう1つ小さな和室があった。

何より、目の前には井戸、そして川。周りを囲むのは森。雨風を凌げる屋根に壁。

杉の惨状を見ているだけに、動物への恐怖もあったが、それも、家があれば緩和する。

生活するには困らない。

家には、以前の住民が残していた食器や布団もあった。

どれも年代が経過しているが、使う事は出来る。

ここを拠点とし、助けが来るまでの間、ここで過ごす事に、誰も反対しなかった。

今は昨日寝ずの番を引き受けた2番手のあきとが休んでいるが、それ以外は布団を干したり、山菜や木を集めたり、水を汲んだり、魚を釣ったり、忙しくなく動いていた。

移動の工程が無くなった為、寝ずの番をしていた者が日中休めるのも、拠点が見つかった利点で、男性側の負担が一気に軽減した。

余談だが、

「体調が悪いのー」と、あきとと一緒に休もうとしていた、はなを、濱田が「てめぇの分の飯はてめぇでなんとかしろ」とつめ、何とか働かせる事に成功している。

騒動を好まないけいじだが、このままでは不公平であり、何より、あきとが拒絶している。

このまま、はなの要望を叶えても、あきとと衝突するのが目で見て取れる為、今回は濱田の意見を採用し、「皆平等に働かないとね」と言った。

「なんではながーー」

と、今もぶつぶつ文句を言っているが、食事が無いのは嫌なので、渋々、山菜やきのこ集めに動いている。

彼女は本人も自ら公言するように、見目美しい。

だからこそ、男性の方が率先して行動してくれる事が当然で、今まで甘やかしてくれる事が、彼女の普通だったのだ。



「どう?あかりちゃん」

ひょいと、台所で作業をしているあかりの元に、けいじが様子を見に顔を出した。

「なんとか…」

不慣れながらも、あかりは食事作りを担当している。

「良かった。分からない事があったら何でも聞いて。体調が優れなかったら、すぐに横になるんだよ」

「……はい」

けいじはとても気遣ってくれていて、あかりだけで無く、皆の様子も見て回っている。

実際、体調の良くないあかりには有難く、けいじが立ち去った後、あかりは傍にあった椅子に腰掛け、ポケットにしまっていた、藤の髪飾りを取り出した。

出会ったばかりの私に、どうして大切な髪飾りを手渡したのか、その真意は、本人にしか分からない。

でも、なんとなくーー

(私を……心配してくれたのかな…)

と、あかりは感じていた。

一人残してしまう事への申し訳なさや、無事でいて欲しい、そんな風に、あかりは受け止めた。

彼女は、自ら、杉のもとに残る事を決めたーー。

「…私は……何してるんだろ…」

それぞれが目的があって、あのバスに乗り合わせた。

杉と藤は、この場所が地元で、家に帰る為。

濱田は里帰り、けいじはキャンプ、あきとはボランティア、はなは、そんなあきとの付き添いだと言っていた事を、思い出す。

あかりはーーー



この集落に来るのがよそ者なら、殆どの目的は、この森、悪魔の森。


未知な領域に足を踏み入れたいとするもの。




永遠に彷徨うというこの場所で、自分の最期を迎える為に、死を覚悟して入るものーーーー。





(死のうと……思ったのに……)



自分の住む場所のバス停の近くの電柱に、この森のポスターが貼ってあって、あかりはそれを見つめた。

面白おかしく書かれた内容は、《悪魔の森》。

一度踏み入れたが最後、決して出られないーーー。

そんな森に挑戦してみませんか?!と、探索を募る内容だったが、あかりは、永遠に彷徨う部分に、惹かれた。



ここなら、静かに最期を迎えられるーー。




バスの時刻を確認すると、もう最終の便は終わっていた。

『明日…8時…』

始発の出発を確認し、バス停を後にした。






まさか、始発で乗ったバスがあんな事故を起こすなんて、想像もしていなかった。

(死のうと思っていた私が……杉山さんや、藤さんよりも、生きてる……)

生に、しがみついている。

(どうして……)

あかりは膝を抱えながら、うずくまった。




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