表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔の家  作者: 上原 光子
13/37

12



「藤さんが…!ロープを離してーー!!」

「なっ!」

ばっと後ろを確認するが、藤の姿は、この濃い霧の飲み込まれように消え、見えない。

「っぅ」

藤が残した髪飾りを手に、あかりは膝をつき、涙を流した。

不思議な事に、深く濃い霧は、その一瞬を過ぎると晴れ、跡形もなく消えた。

藤の姿とともにーーー。

「……」

静寂が辺りを包む。

また1人、いなくなってしまった。

「あかりちゃん…」

けいじが心配そうに背中に触れる。

あかりは、ぐいっと涙を手で拭ると、立ち上がった。

「…行け…ます」

小さく、そう答える。

けいじは、自分達が生き残る為に、心を押し殺して、非情ともとれる言葉を率先して吐いてくれているのが、分かる。

だから、あかりはこれ以上、彼にその言葉を発して欲しく無くて、前を向いた。

「……ああ……」

本当は、杉を、藤を、捜したい。

それが本心だろう。

ただ、自分達ですら、この森の中、どこに向かうのが正解なのか分からない状況では、探すのは難しい。

出来るのは、奇跡的にでも、また出会える事を祈る事だけ。

暗い雰囲気のまま、4人は歩き続けた。




一定歩き、日が暮れる前に休める場所を見つけ、火を灯し、食事し、睡眠をとる。

何日が経過しただろうーー。

雨で貯めた水も、遂に底をつきた。

「…くそ…どこかになんかねぇのかよ…」

大切に大切に飲んでいた水。

最後に飲んだのは昨晩の夜で、喉の渇きは明らか。

「もう…歩けないわよ…」

はなは、その場に座り込んだ。

「大丈夫か?俺がおんぶするよ」

こういったやり取りも、何回になるか。

途中で、はながへばり、けいじが抱っこする。

当初はなを抱っこしていたあきとは、彼女に冷たく接し続けており、名乗り出なくなった為、けいじがはなを抱っこする事になっていた。

当初、そんなはなに、「てめぇいい加減にしろや!」と怒鳴っていた濱田は、都度けいじに「大丈夫だから」と制され、文句は言わなくなったが、舌打ちし、睨み付ける事だけは止めなかった。

「何よ、きもい!睨まないでよね!」

はなはけいじにおんぶされながら、濱田に怒鳴った。

「あぁ?!」

「何よ!私は女の子なの!可愛くて美人だし、甘やかされて当然ーー」

「はなちゃんーー」

「止めなよ、はな」

喧嘩になりそうな2人に、けいじが苦言をていそうとした時、先に、あきとが口を開いた。

「君のその、甘えた態度が反感を買ってるの分からない?全然反省してないね」

「!酷いーーたぁ君っ!」

あきとがはなを一喝して以降、彼女を無視し続けていたあきとが、久しぶりに言葉をかけたが、それは、軽蔑も含まれた、拒絶だった。

「濱田さん、行きましょう。相手にするだけ無駄ですよ」

「お、おお」

普段温厚なあきとの勢いに呑まれ、濱田は促されるまま、彼と一緒に進んだ。

「何で…何でよーー!たぁ君!!」

ギリッと、歯を噛み締めながら涙を流すはな。

そんなはなの涙を見ても、あかりは何も感じなかった。

自分は人格者じゃない。

はなの性で乱れている事が、多々あるのは事実で、濱田が怒るのも無理は無い。

それにーーー彼女がいなければ、杉も、藤も、生きて一緒にいたかもしれない。そう、思わずにはいられなかった。

(置いていけばいいのにーー)

そう、思った。

「あかりちゃん?大丈夫かい?」

けいじの呼び掛けに、はっとした。

「…大丈夫…です」

あかりは目を合わさず、小さく、そう答えた。




それからまだ暫く歩いた後、何かが見え、全員が声を上げた。

「あれ何?」

「…こんな所に…家…?」

それは、悪魔の森に建つ



1軒の場違いな木造の《家》ーー。



「誰かいんのか?!」

自然と、歩くスピードが速まる。

近付いていくその途中には、幾つか、家のような建物が、散らばって立っていた。

「ボロボロですね」

住宅は屋根が剥がれていたり、壁が壊れていたり、人が住んでいる気配は無い。

「…着いた…」

初めに見つけた木造の家の前まで着くと、その家だけは、多少壊れている箇所はあるが、家の形を保っていた。

「おい!井戸があるぜ!」

汲み上げると、桶の中には澄んだ水が入っており、我慢出来ず、濱田がぐいっと飲み込んだ。

「川も近くにありますね」

あきとは、家の横を流れる、魚も泳いでいるような綺麗な川を見て、笑顔を浮かべる。

「誰かいませんかーー?!」

けいじは家の中に向かって、大きな声を出したが、暫く待っても返答は無かった。

「…昔この場所は、小さな集落だったのかもしれないな」

けいじは、周りを見渡しながら、そう言った。

幾つかの建物に、井戸に、近くを流れる川。

この場所なら、生活出来るし、していた痕跡がある。

水や川に喜ぶ3人を置いて、けいじとあかりは、縁側から家の中に入った。

埃が積み上げられ、蜘蛛の巣があちらこちらに張る。

やはり人の気配は無い。

「これ…台所?」

昔の、岩で作られた釜や、井戸から水を引っ張っているのか、蛇口を捻れば、水が出た。

居間には囲炉裏もあり、けいじは早速、持ち運んでいた木をくべ、火を付け始めた。

「あかりちゃん、疲れてるだろう?少し寝たら?水とか、俺が汲んでくるよ」

火をつけながら、けいじはあかりの体を気遣った。

「…でも…」

疲れているのは自分一人では無い。

「いいからいいから。あかりちゃんは最後まで頑張って歩いたんだし、大丈夫」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ