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「とりあえず、喧嘩は、今は止めよう。濱田君も、な?」
言い争いを避ける為に、けいじは濱田にも念押しし、濱田は不服ながらも、舌打ちした後口を閉ざし、ゴロンと横になった。
「…」
あかりも、横になる。
霧はだいぶ晴れている。
このままいけば、明日は出発出来るーーここに来た時とは違い、1人、人数を減らした状態でーー
ついこの前出会ったばかりのあかりですら、あんな悲惨な状態で亡くなった杉をこの目で目撃し、酷く、衝撃を受けているのに。
親友の藤の気持ちを考えると、計り知れない。
(きちんと埋葬して……杉さん、藤さんが、少しでも……救われるますように……)
いなくなってしまった杉、残された藤の気持ちを思いながら、あかりは眠りに落ちた。
「…………駄目だ……見つからない」
朝になり、霧が無くなった事を確認して、全員で洞穴を後にし、杉の亡骸を埋葬する為に歩いたが、その場所を見つける事が出来ないまま、時間だけが経過する。
あの時、杉を見つけた時、捜索を諦め、ロープを伝い洞穴に戻る最中で彼女を見つけた。
洞穴に近い場所で発見した筈で、それなら、すぐに見つける事が出来ると、思っていた。
「ここら辺の筈だったのに…」
けいじに続いて、あきとも、汗を拭いながら言った。
「はぁ、はぁ」
今日の気温が、いつもに比べて暑い事も、体力を消耗させる一因だった。
あかりも、自身の汗を拭いながら、周りを見渡した。
360°どこを見ても、同じような景色。
悪魔の森の由来ーーー1歩足を踏み入れば、二度と出る事の出来ないーーーを、思い出した。
「ねぇ、もう無理よ!絶対見つからないわよ!」
「…くそ!」
はなの言葉に、いつもは反論する濱田も、何も言い返さなかった。
それだけ、はなの言葉は真意だった。
今日洞穴を出発する予定で、ロープを外してきた今、洞穴まで戻る事も出来ないだろう。
「田村さん、このままだと…」
時間があまり過ぎれば、夜になる。
「………………」
あきとがけいじを見ると、けいじは苦悩に満ちた表情を浮かべ、目を閉じた。
「…先に……進もう…」
最早、先がどこかも分からない。
進んでいるのか、もしかしたら戻っているのかもしれないが、けいじは、諦める事を選択した。
自分達が生き残る為には、今日の寝所、水、食料や、野宿にはかかせない火を灯す為の木の確保が必要不可欠。
「……」
「ふじさん…」
あかりは、皆の後ろに1人ぽつんとただ立ちすくんでいる藤に目をやった。
朝も、けいじの用意してくれた簡易な食事を1口も口にせず、一言も言葉を発しない。
今も、何も、反応すらしない。
「歩きながら、何か食べれそうな物や、木や葉、勿論、川や湧き水があったら、教えてくれ」
けいじはそう言うと、先頭で歩き出した。
「急に冷えてきましたね」
あきとはそう言うと、暑くて脱いでいた上着を着直した。
「……皆、ロープを出すから、急いで持つんだ」
急に視界を遮る程の濃い霧が現れ、けいじはロープを全員に持たせた。
「ロープを絶対離さないように。足元も気をつけて」
ロープさえ持っていれば、皆とはぐれることはない。
あかりはギュッとロープを握り締めた。
「…………あかりちゃん」
「ふじさん…?」
今まで、言葉を発してなかった藤が、急に話しかけてきたので、あかりは少し戸惑ったが、返事をした。
振り返り見る彼女の表情は、憑き物がとれたように、穏やかだ。
「これ、あげる」
藤は自分のつけている髪飾りをとると、あかりに手渡した。
「え…そんな、こんな大切な物…」
これは、杉と藤がお揃いで持っていた、大切な髪飾り。
「杉ちゃんね……学校で、男子に虐められてた事があってね」
ポツリポツリと、藤は話し始めた。
容姿や体型から、男子にブスやデブと虐められ、泣いていた事、先生に相談しても、何もしてくれなかった事。
「でも、杉ちゃん優しくて、明るくて、私、大好きでね」
虐められているとか関係無く、率先して友達になった。
「優しくて明るいすぎちゃんは、そこから友達も沢山出来て、笑顔になった」
『ありがとう、私と友達になってくれて!ふじちゃんが1番初めに友達になってくれたから、私、救われたんだよ!』
昔の記憶
杉は、笑顔で藤にお礼を言うと髪飾りを2つ、見せ、1つを藤に、もう1つを、自分につけた。
『私達、ずっと親友だよ!』
「私にとっても……すぎちゃんはかけがえのない、大好きな親友なの……」
ポロポロと涙を流しながら、藤は、大切な親友の事を語る。
「ふじさん…」
そんな藤に、あかりも一緒に涙を浮かべる。
「だからねーーー」
藤は、涙に溢れた目で、無理やり笑うと、あかりにこう、告げた。
「すぎちゃんを残して、行けないよ」
ぱっと、藤はロープから手を離した。
「!!!待って!!ふじさんーー!!!!」
慌てて手を伸ばすも、その手が藤に届く前に、藤の体は深い霧に飲まれ、姿が見えなくなる。
「藤さん!藤さん!!!」
「どうした?何があった?」
前方にいたけいじが、あかりの悲鳴に、立ち止まり問う。