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悪魔の家  作者: 上原 光子
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あかりも、それに続こうとしたが、手のぬるりとした感触に気付き、自身の手を見た。

「ーーー!!!!嫌!!!」

ドロリとした、赤い液体。

「あかりちゃん?どうした?!」

駆け寄るけいじ。

「怪我しましたか?」

あかりの手を見ると、すぐに医者の卵であるあきとが、あかりの手に触れた。

「…あれ?」

すぐに、あきとは首を傾げた。

「怪我、していませんね」

あかりの手には、赤い、液体ーーー血液。

ドクッ。

心臓が、なる。

「わ、私…」

さっき、あかりは、杉の髪飾りを、拾った。

あかりは、怪我をしていない、手についた血は、あかりの物では無い。

それは、杉の髪飾りに、べったりとついていた、血液。

「きゃぁあああああああああああ!!!!!」

「!」

藤の絶叫とも言える、悲鳴が聞こえる。

3人は慌てて、駆け寄りーーー言葉を、無くした。

「いや!いや!すぎちゃ…すぎちゃん!!!」

泣き叫ぶ藤の隣、目の前のものから、目を逸らす濱田。

それは、血塗れの肉塊になったーーー



杉の死体だったーーーー。





顔の一部は見える形として残っているが、腕も足も腹も、全てが、動物に食い荒らされたように、損壊している。

「いーーやーー」

「見ない方が良い」

けいじはそう言うと、あかりの前に立ち、体を反転させた。

ガタガタと震える体。

「いや!いやぁ!すぎちゃん!すぎちゃん!」

「ふじちゃん、落ち着いて…」

杉の死体を前に、膝を崩し、手を地面につけ泣き叫ぶ藤の体を、けいじは優しく支える。

「ぁあああああ!!!!!」

藤の手には、自分とお揃いの、血のついた、杉の髪飾り。

「…っぅ。ゔ!ゲホッゴホッ!!」

血の匂い、そして、残虐な光景に、あかりは涙を浮かべながら、嘔吐する。

「はぁっはぁっ!!」

震える体。

止まらない。

「…動物に……食い殺されたんでしょうか…」

あきとは、目の前の惨状を見て、そう呟いた。

医者の資格を持っていても、彼女の体の損壊から、死の理由を辿る事は難しいが、見たままを判断するなら、彼女の死因はそれ以外考えられなかった。

「何の動物だよ…!クソが!!」

濱田はあきとの言葉に、地面を蹴った。

それは即ち、危険な動物が、身近にいる事を意味する。

「ふじちゃん、一旦、戻ろう」

「いや…嫌…いやぁ…」

けいじの声が聞こえているのかいないのか、呆然とした表情で、ただそれだけを繰り返す。

けいじは目をつぶり、彼女の深い悲しみを噛み締めると、杉を抱き抱え、立ち上がった。

いつまでもここに居るのは、危険。

「あかりさん、行けますか?」

うずくまっているあかりに、あきとが声をかける。

「…はい」

あかりは、口元を拭うと、小さく頷いた。






「ちょっとぉ、遅くない?」

洞穴に戻ると、1人待機していたはなが、不満げに文句を口にする。

「……」

が、誰もそれに答えない、答えれなかった。

「何なの?!はなを無視しないでよ!」

自分を優先してくれない事が、彼女には不服なのだろう。

ただ、そんなはなを甘やかす事も、怒る事も、諭す事も、相手にする自体が、出来なかった。

黙々と、消えてしまった焚き火の準備を始めるけいじとあきと。

動物は、火を恐れる。

外で野宿している状況で、火はとても大切な物。

火の管理を一応はなに任せていたが、彼女がしていない事も想定の範囲内で、それを咎める事も無かった。

あかりもあきとも、昨晩の、はなとのいざこざが原因で杉が飛び出した事を誰にも伝えていないが、何となく、けいじも濱田も察っしていた。

藤は、ショックからか気絶し、杉の髪飾りを握り締めながら、そのまま眠りについてた。

あかりは心配そうに、そんな藤の隣に座っていた。

「………明日、霧が晴れたら、当初の目的通り、水のある場所まで移動しよう」

沈黙の中、けいじがそう口を開いた。

「ただーーー最後に、すぎちゃんを、ちゃんと、埋葬してあげたいんだ……」

あの時の光景が、頭を過ぎる。

「勿論です。ちゃんと、すぎちゃんを送ってあげましょうーーふじちゃんの為にもーー」

あきとも同調すると、眠っている藤を見た。

親友の無惨な最後を見た藤の心境は計り知れない。

「……何、あの子、ホントに死んだの?」

はなは誰にも何も聞かされていないが、会話で気付いたのか、真っ青な表情のまま、尋ねた。

「ああ」

けいじは、小さく頷いた。

「…そ……そう」

平静を装っているが、動揺しているのが、目で見て分かる。

自身の親指の爪を、歯で強く噛んでいた。

「てめぇのせいだろうが!」

濱田は、はなを睨みつけながら怒鳴った。

「っ!何よ!勝手に出て行ったのはあの子でしょ?!ただちょっと悪口言われたくらいで出ていくなんてーー」

思わなかった。

それが彼女の本心だろう。

「…はなさんにとっては、対した事じゃないかもしれない」

けいじは、ゆっくりと、話した。

「でも、言われた本人にとっては、そうじゃなかったんだ。その場から逃げ出してしまいたくなる程、辛かった。

死ぬつもりは、無かったのかもしれない。

ただ、そこにいたくなかっただけなのかもしれない。

……死にたい程、辛かったのかもしれない。

俺達には、分からないけど」


自殺するとは思わなかった。


「でも、相手を傷つけている自覚は、あったんだろ?」

「ーーー」

けいじの言葉に、はなは次の言葉が出なかった。



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