百の夢と蛍|心のぬくもり幻想舎
「今どき蛍なんて見られないでしょ…」
「この辺りにいるって噂があるから確かめないと」
可能性が少しでもあるならなおさらね!と意気揚々に答える彼女は、私の手を引き、茂みの奥へと進んでいく。
「ちょっと、そんなにペースを上げないで…」
心の中では、周囲の薄暗さに怯える気持ちと、本当に蛍が見られるのかという不安が渦巻く。
昼間はずいぶんとあたたかくなったが、まだ夜は冷え込む。
つないでいる手の甲を、するりと風が撫でた。
「人生で叶えたい夢の百選に“蛍を見る”って書いたんでしょ!もっとシャキッとしなきゃ」
「そんなこと言ったって」
「あ…ねぇ、ちょっとほら!見てごらん!」
突然声を大きくする彼女に言われるがまま指差す先を見ると、ふわりと淡い緑色の光が横切った。
「蛍だよ…」
「うそ…当にいたのね」
手はつないだまま、引き寄せられるようにさらに奥へと進む。
すると、数匹の蛍が私たちを出迎えてくれた。
数は多くないが、草原で光るもの、空高くに飛び立つものとさまざまでどれも儚いけれど、今まで見てきた中で何よりもまばゆく感じた。
「連れてきてくれてありがとう」
「どううたしまして、また来年も来ようね」
fin.
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ご覧いただきありがとうございました。
こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
ここは疲れた心をちょっとだけ癒せる幻想舎。
別の短編小説もお楽しみに。
前週分はInstagram(@ousaka_ojigisou)に先にアップしています。早く読みたい方は、あわせてチェックしてみてくださいませ。
大野