チュートリアル
続きです。チュートリアルですが一話で終わりです。
「到着っと。」
設定をおえてログインした場所は、草原だった。情報じゃ始まりの街の広場に出るって聞いていたんだけどな、なんだろ?
「ここはチュートリアルの場所ですよ」「うわぁ!?」
突然後ろから聞こえてきた声に驚きながら見ると、淡い緑色の髪の女性が可笑しそうに笑いながら立っていた。
「ふふ、ごめんなさい。わたしのとこに来る人が久しぶりでつい、驚かしちゃったわ」
「そうなんですか?」
まだ少しドキドキしている心臓を、意識しないようにして聞いてみる。
すると、鬱憤が溜まっていたのかニコニコ笑っていたのとは打って変わっていかにも、わたしおこってますといったような感じで愚痴をこぼし始めた。
どうやら、最初に選ぶ生産職によってチュートリアルを受け持ってくれる人は違うらしくて、淡い緑色の髪のお姉さん「ラフ」さんが「生産」スキルの担当らしい。最初の頃ゲームが始まった頃は何人か来ていたらしいのだが、ばったりと人が来なくなり暇になってしまったラフさんは他の生産スキルの担当の人の裏方の手伝いをしたり、広報的なことをずっとしてきたらしい。
そして、久しぶりに来た「生産」スキルを取ったプレイヤーがおれだったので、久しぶりにチュートリアルができると嬉しくなって驚かしてきた、とのこと。
「なるほど、それは苦労したんですね……」「そうなの……別にちょっとやること多いだけでひとつのスキルだけよりもできることがぐっと増えるのに広まらないのよね……」
話を聴き終えて、少し遠い目をしながらそんなことをボソッと呟くラフさん。
…大分、精神的に来てるんだな、な、なんか気まずいな話題変えよう。
「そ、そういえばチュートリアルってなにするんですか?」
その一言で正気に戻ったのか、さっきとはうって変わって楽しそうに説明をしてくれる。
「まず、生産スキルの利点についてお話しします。生産スキルのいいところは、他の生産系の生産行動を全てできるというところです。」
「それだけじゃなくて、各スキルで得られるパッシブスキルの効果も全て発動できるんです。それに、他の生産行動をひとつのものを作るときに併用して使用すると、普通に作るんなら一人では絶対につけることができない効果もつけられるんですよ!」
「そ、そうなんですか……」
さっきとは打って変わってとても楽しそうに説明をするラフさんに少しだけ驚く。
「とりあえず、なにか作って見ましょうか、生産のスキルのチュートリアルですから」
そういって、手を叩くと目の前に様々な生産道具と素材が現れた。
「この中のものを使って、自由に作っても大丈夫ですよ。細かいところはスキルが、サポートしてくれるから」
一歩後ろに下がったラフさんを横目で見つつ、何を作ろうかなと手近な素材を手に取る。…そういえば素材とかの詳細って、わかるのかな?
気になったので聞いてみることに。すると、フィールドで、モンスターの詳細を知るのは、鑑定のスキルがないとダメらしいが倒したモンスターや採取した素材の詳細は、知りたいものを視界にいれ、それについて、詳細を知りたいと念じれば出てくるらしい。もっともそれでわかるのは、『名称』『品質』『レア度』それと簡易的な説明文だけなので、それより詳しく知りたいのなら鑑定のスキルをとったほうがいいらしい。
とりあえず、手に持っていた、木材の簡易的な説明をみる。
名称:粗悪な木材 品質:F レア度:F
とても雑に伐採された原木の木材。
…シンプルだ。んー最初だし、木剣でも作ってみるかな。
とりあえず、作業道具の山の中から、鉋とヤスリと手鋸あとは素材の山から、滑り止めで柄に巻く布を選んでと、まずは、大まかな形から作るかね…。
少し、太めの木材に何でかある鉛筆で大まかな形を書いておく。次に、手鋸を使って今引いた線より少し大きめに切り取る。
真っ白な部屋のなかに、しばらくギコギコとノコギリの音だけが響く。
ちなみに、後ろに下がって、生産の様子をみていたラフはというと。今もまだ、木材を加工しているアインの作業風景に感心していた。
『すごい、今まで来てくれた数少ない子達の誰よりも、道具の使い方がうまい…』
今までの子達ははじめて使う道具に四苦八苦しながらなんとか、使えそうなものを作り出すのだけで精一杯になっていた。
なぜ、そうなのかというと、この『生産』スキル他の生産系のスキルと違い全部、マニュアルつまり手作業で作らないといけないのだ。他のスキルは、ある程度マニュアルとオートを混ぜつつ作業ができるが、『生産』のスキルだけは、全て手作業で作らないといけないのだ。つまり、木材の切り出しも鉱石の加工も、細かい調整も全部が手作業になるのだ。
そのため、掲示板では一部のマゾか縛りプレイヤーしか使わない最悪のスキルとして、名を馳せているのだ。
そんな使いづらいスキルをまるで、長年使ってきたかのように少しの違和感もなく作業しているアインの姿は少し、異質であった。
『この子、もしかしたらすごい有名になるのかもしれない…』 そんな気がしてならなかった。
ラフがそんなことを思っているとは知らず、大まかな形に切り出した木材を手に、次の作業に移っていた。
木材を切り出して、木剣の形にしたものを整えていく。
刀身の部分は刃の部分は薄く鋭く。中心は剣の重さに作用するので、少しだけ削ってあとで微調整できるようにしておく。
柄に挿して固定できるように持ち手側のほうには錐で少しだけ穴を開けて、一応刀身のほうは完成だ。
次は柄のほうを作っていく。柄を刀身に挿せるように挿す穴を作るんだけど…とりあえず鍔も含めた柄を作ってみるか。
鍔の先は少し、内側に丸めて、捌きやすいようにしてと、持ち手のほうは、角を鉋で軽く削ったあとに、ヤスリで粗をとって刀身に開けた穴の場所に会わせて柄を挿したときに合うように同じ場所に穴を開けてと。
あとはなかに空洞を作る方法なんだけど…。とりあえず小さい錐で少しずつ穴を開けてと。
うん、こんなもんか、あとは、刀身と柄を繋げる前に、固定用の釘を持ってきてと。
案の定、錆びていたので、ヤスリで少しづつ削って錆を落としてと。
錆を落としたら、刀身と柄を挿して予め開けておいた、穴に釘を打ち込んで刀身と柄を固定させる。
余分に出た釘の先は切って断面をヤスリで削って、馴染ませてと。
その上に固定用に布を巻いて完成、かな。
あとは、微調整だな。とりあえず、軽く振ってみる。
フォンと、空気を切る音が響く。んー出来はいいけどちょっと重いかな。
少し刀身の中心を削って、振って、削って、振ってと。
うん、ちょうどいいのができたな。あとは、刀身の保護用にニスを塗りましてと。
よし!完成。
剣の出来映えに納得していると、パチパチと拍手が響いてきた。
「お疲れさま。すごいね君の技術、リアルでなんかやってたの?」
…集中しすぎてラフさんのことすっかり忘れてた。
んー、リアルでやってたことかぁ。なんかあったか?……あ。
「そういえば、よく近所の子供たちおもちゃ作ったりはしてましたね、そのときにもっと簡易的な木剣もせがまれて作った記憶がありますね」
懐かしいなぁ。よく作ったもの壊されてたからその度に新しいもの作ってたっけ。
「それにしては、すごいわ!今までみてきたなかでいちばんよ!」
興奮した様子で、誉めてくれるラフさん。悪いきはしないな。
「じゃあ、作ったものに名前をつけて、本当の意味で完成よ」
名前、名前かぁ。木剣…木…森…自然…ネイチャー…。うん、決めた
「じゃあ、名前は『木剣・ネイツ』で」
今作った剣の名前を言うと置いていた木剣が一瞬光った。
「えっ!?なにいまの…」「名付けが行われたことで、この剣の能力が今きまったのよ。」
ラフさん曰く、Craft Life online では、名前をつけることによって、その生産物の能力などが製作時の作業の質によって決まるらしい。最初から名前がつけられている、ものなどはこのルールには含まれないらしいのだが、1から作る武器や防具は名前を、つけることによって善し悪しが決まる……らしい。
ラフさんに剣の詳細を見てみるように言われる。
製作者なら、詳細が分かるらしい。
どれどれ、
名称:木剣・ネイツ
品質:S レア度:S
耐久度1000/1000 攻撃力10
装備効果 自動回復(中) 森の加護
要求ステータス STR1 VIT1
とても丁寧に創られた木剣。粗悪な品質の木材から心を込めて創ったことによって金属の剣をも凌駕するものになった。
素材に対する真摯な心に共感し森の精霊達からの加護が付いた。
自動回復(中) 装備者のHP、MPと装備の耐久度が1秒につき10回復し続ける。
森の加護 精霊達からの祝福。常時ステータスを+10し、森と自然に属するもの達と対話が可能になる
なんか、ただの木剣にしてはとんでもない気がするんだけど…。
「ラフさん、この剣の能力ってどれくらいのなの?」
困ったときは聞くに限る。
ラフさんにネイツを渡して直接みてもらう。
「どれどれー、…ん?…うそ、最低レア度と品質の素材からオールSまで、持ってくなんて…それに、この能力、明らかに、普通は希少な素材を使って、ようやくつけられるかどうかのレベル…」
な、なんかラフさんが見たことないような顔になってるんだけど…
と、思ってたら、急に俺のほうにふりむいて、ガシッって聞こえてきそうなくらい強く肩をつかんできた。
「君、今のチュートリアルが終わって本格的にゲームを始めるときにひとつだけお願いしたいことがあるんだけど…」
おねがいしたいこと?
詳しく話を聞くと、チュートリアルが終わったら、最初は皆始まりの町の噴水広場に出るらしくて、そのあとにそれぞれの生産スキルにごとのギルドにいくらしい。
プレイヤーは各ギルドに入ったあとに、もうひとつ生産ギルドというところに入らなきゃいけないらしい。
生産ギルドは、モンスターの討伐依頼や、プレイヤーが作ったものを出品することができるオークション、それに加えてホーム兼販売ショップの機能を持つ家の紹介等もやっているらしい。
俺みたいな『生産』スキル持ちでも最低でも生産ギルドには所属しなければならないのだ。
ここまで、説明してくれたラフさんがおねがいしたいこととは、一番最初に生産ギルドにいって登録をして欲しい、らしい。
そこまで、話を聞いて何で、最初に生産ギルドに登録しないといけないのかという疑問がわいたがそれをラフさんに聞くと
「それは、君が生産ギルドに登録してからのお楽しみよ!」
といって、はぐらかされてしまった。…んー気になる。
「わかりました。最初に生産ギルドにいきますね」
「うん、そうしてくれるとこっちとしても楽しみだわ、安心して?君にデメリットはないはずだから。」
そう言われると俺も、断る理由はないかな。
そのあとは、生産ギルドの詳しい場所、細かい設定のやり方と、軽い戦闘指導、製作物の装備のしかたやメンテナンスのしかたを教えてもらって、チュートリアル終了の報酬として、各生産素材(もちろん最低品質だが)と作った剣の鞘それと、称号をもらった。
「ふう、久しぶりにこんなに人と話したわ、ありがとう」
「いえいえ、お礼をいうのは俺のほうです。そういえば、まだ、名乗っていませんでした。俺、アインっていいます。色々教えていただきありがとうございました。」
「アイン君ね、こちらこそ礼儀正しい子は嫌いじゃないわ。そんな、君に私からひとつ楽しませてくれたお礼、じゃないけど称号をあげるわ」
そういって、俺の目の前に手をかざすと、ラフさんの手から光が溢れてきて、俺に吸い込まれた瞬間
『条件を満たしたことによって称号『生産精霊の祝福』を入手しました』
「効果は、あっちにいってから確認してね?」
そう告げて、俺を始まりの町の噴水広場に送ってくれたのだった。
誰もいなくなった部屋に楽しそうな声が響く。
「あんなに、楽しそうに生産活動してる子を久しぶりにみたなぁ…」
そう呟いてラフはふふ、と笑みをこぼす。
「アイン君、君がこれからCraft Life onlineの世界でどんなものを作り出して、どんな物語を紡いでいくか楽しみにしてるわね」
そう呟いて白い部屋から姿を消したのだった。
続きはまた次の土曜日に