Genesis3 Azzurro & Princess 後編「氷姫」
「ファイアァァァ......!!」
「......っ!まさか棘を飛ばしてくるなんて...予想外すぎるよ...」
一方紫恋は、黄泉獣モエルゴンにかなり追い詰められていた。
高熱の棘が何本か胸や足に刺さり、立つことすらままならない。痛みの所為で精神を集中させることができず、能力の発動も上手くできない状況だ。
「ファイアァァァ!!!!」
「!!」
モエルゴンが体を発行させたかと思うと、口から火炎放射を吐き出した。もはや万事休すかと思われた、その時ーー
「...ファイアッ!?」
モエルゴンと紫恋の間に、二人を遮るように一本の氷の柱が現れた。その氷はモエルゴンの足まで凍らせており、身動きを封じている。
「ねえあんた、あたしに助けて欲しい?」
路地裏の外から声がした。
目をやるとそこにいたのは、
「花宮さん!?なんで!?」
アスター07にまたがった花宮冷華だった。
「なんでもフライデーもないでしょ。最初はあんたが誘ったんじゃない」
二人の間に一瞬の沈黙が流れたが、すぐに冷華は続けた。
「ヤハさんに、あんたのこと助けてやれって頼まれたのよ」
「ヤハさんが...」
「...で、助けて欲しい?」
「...この状況でNOを返す奴が、いると思うかい?」
確かに紫恋は今絶望的な状況だった。早く治療をしなければ命に係わる。ましてや巨大トカゲとを倒すなどできるはずもない。
「あたしは敵の弱点を知ってる。ヤハさんとの契約で能力も使えるようになったし、あんたが戦わなくても倒せんのよ」
「...じゃあ早く助けてよ」
「は?何様よ」
「え??」
冷華は紫恋を見下すような目つきで続けた。
「これが終わったら今までのことあたしに謝罪して。ちゃんと頭下げて、「すいませんでした」ってね。それが約束できるなら、助けてやってもいいわよ」
「...君、そんなキャラだっけ??」
「そんなキャラよ」
二人は会話を続けていたが、モエルゴンはそんなもの待ってられんとばかりに、氷を破壊して攻撃の体制をとった。狙いは眼の先にいる紫恋だ。
「どうすんの?早くしないとあんた死んじゃうわよ」
「...」
「...ファイアアァァァァ!!!!!」
モエルゴンが飛びかかろうとしたその時、紫恋は口を開く。
「...ラグナロクはどうすんの?」
「アンタの態度次第」
ガキイイインイイイ!!!!!!
鋭い衝突音が鳴り響いた。
冷華は紫恋を守るようにモエルゴンの前に立ちはだかり、その巨大な口を抑えている。
「...”駆動機神サザンカ”」
冷華の手には、水色の光を放つ槍の様な駆動機神が握られていた。真っ白な濃い霧を放ち、モエルゴンの高熱を中和している。
「...これがあたしの能力、”氷の刃”!!」
直後冷華は周囲に三つの巨大かつ鋭い氷の刃を生成し、モエルゴンに向かって飛ばした。
間一髪のところで避けるも、当たった部位は固い氷に閉ざされていた。
「ファイアァァ...」
「どう?あんた火遊びが好きみたいだけど、氷遊びも楽しいわよ?」
「ファイアアッッ!!!!」
モエルゴンは紫恋と戦っていた時と同じ跳躍を見せた。体の一部が凍り動きは鈍っているものの、常識の範疇を超えた身体能力であることに変わりはない。
「逃がさないわよ!!」
しかし冷華も素早い。先ほどの同じ大きさの氷を生成すると、再びモエルゴンに向かい一直線に飛ばした。分かりづらいたとえではあるものの、大海原を泳ぐマグロ並みのスピードはありそうだ。
「ファイアァァァ!!!!!」
今回は見事腹に突き刺さった。全身の光が弱くなり、いかにも瀕死状態と言ったところだ。
「...待って、君強すぎない??」
「そりゃそうでしょ。あんたなんかすぐに超えて見せるわよ」
そう言うと冷華は空中に連続で生成した氷を足場としモエルゴンと同じ高さまで上昇した。
そして今までよりもさらに巨大な氷を生成し決着かと思われたが、
「ファイアァァ!!!!」
2度あることは3度ある。モエルゴンは全身のエネルギーをふるいに使い、凍っていた傷口を燃やし完全に溶かした。全身の棘と顎の袋が再び光を放つ。
「花宮さん!なんか復活してるけど大丈夫!?」
「知ってたわよ。ヤハさんに教えてもらったもの」
「それに」
「こいつの弱点もね」
冷華は生成した氷でモエルゴンの顎の袋を突き刺した。絶叫が響き渡り、発火性の油を主成分とする体液が飛び散る。
「これがこいつの弱点。あの中に入ってる体液があいつの持つ炎の力の源よ」
「...」
「え?何?あたしの強さにビビっちゃった??」
「そんなわけ」
「ファイアァァァァァ!!!!!!!!」
モエルゴンは致命傷のはずだ。だが起き上がった。残ったエネルギーを絞り出し、冷華に向かい威嚇する。その執念ともいえる行動には狂気が感じられた。
「...じゃ、そろそろとどめ刺そうかな」
そして彼女は天高くに右手を掲げ、水色の光を集めた。二人が出会った、あの日の紫恋の様に。
「ファイアアァァァァァ!!!!!!!!!!!」
ー-しかし、モエルゴンの方が速かった。体中から僅かな炎を吹き出しながら、冷華に突撃したのだ。
今彼女はエネルギーの重点をしていたためノーガード。いくら瀕死状態の敵とはいえこの攻撃を受けてはただでは済まされない。
「...!!」
ガキイン!!!
「...こいつの動きは僕が止める。花宮さん、今のうちに...!」
その攻撃を止めたのは紫恋だった。残った力で重力操作を発動し、モエルゴンの動きを封じ込めたのだ。
「...へえ、あんたにしては割といい働きするじゃない」
紫恋が不服そうな顔で冷華を見つめると、彼女の手にはライフルが生成されていた。それの恐ろしい点は2つ。彼女の体の数倍の大きさがあることと、殺気以外の力を感じられなかったことだ。
「それじゃ」
彼女はモエルゴンに狙いを定め、勢いよく引き金を引いた。
「...死ね!!!!”氷の花は咲き乱れる”!!!!!」
その巨大なライフルからは相応の巨大な弾丸が発射された。彼女の精神エネルギーが込められており、当たったものを一瞬で凍り付かせてしまう。
「ファ...ファイアアアファァァァァアアアアァァ!!!!!!!!!!!!!!」
弾丸がモエルゴンの体に着弾した瞬間、断末魔と凍てつくような冷たさの爆発音が響き渡った。
「...」
紫恋の目には氷漬けにされたしたモエルゴンの肉片が地面に落下していく様子が写されていた。
血まみれで座り込む彼に冷華は言う。
「...じゃ、助けてやったんだしちゃんと謝ってもらうから」
「何について?」
「全部よ」
「...ごめん」
「え???何????聞こえなかったわよ????」
「...」
冷華はわざとらしく紫恋に言った。冷たく、見下すような目つきで。
「...す、すいませんでした....」
今度はしっかりと、頭を下げて謝った。
「...ま、あたしも鬼じゃないわ。今回は許してあげる。それじゃ...」
冷華は紫恋に手を伸ばした。
「立ちなさい」
...彼にとってここまで屈辱的な経験は初めてだった。
今まで何者にも負けなかった自分が、
ビンタされ、
助けられ、
謝罪させられ。
彼女にこれ以上助けてもらうつもりはない。
ただ、
ただ、
前にも似たような人間に似たような感情を抱いたことがある。
そんな気がした。
「...いや、君の助けは借りない」
「え?」
そう言うと紫恋は血まみれのまま立ち会がり、まだおぼつかない歩き方でアスター07に乗り込んだ。
「..じゃ、また今度」
そして彼は去っていった。
「.......はぁ!!???ちょっと待ってよ!?あたしどうやって帰んの!?!?!?」
下弦の月が静かに街を照らす夜、冷華は紫恋を追いかけて走り出した。
愛を知るため戦う嫌われ者。
存在意義を知るため戦う人気者。
似ているようで似ていない、だが似ていないようで似ている彼らの、
最初で最後の少し不思議な青春が、幕を開けた。
続く
「これは、その第一歩だから」ー-花宮冷華
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