Genesis3 Azzurro & Princess 中編「蜥蜴」
「紫恋。新たな黄泉獣が現れた。至急討伐に向かってくれ。」
先ほど部屋から出て行ったのは、窓の外でヤハさんが手招きしていたからだ。
「...分かったよ。で、今回はどんな奴?」
紫恋は少し不機嫌そうに返す。
「切り替えが早くて助かる。まあ立ち話もなんだ。そこに座って話そう。」
そう言いながらヤハさんは近くのベンチを指さす。
二人はそれに腰かけると、話を再開した。
「...で、今回の黄泉獣についてだが」
ヤハさんは続ける。
「名称は黄泉獣NO.34「燃獲攻」。まあこいつは...デカいトカゲだ。」
「ふーん」
紫恋は前のめりで頬杖を突きながら返した。
「そしてこいつの特徴は.......」
しかしヤハさんは言葉の途中で急に固まる。
「?どしたのヤハさん」
ヤハさんの方へ顔を向ける紫恋。
そして次の瞬間、
「痛たたたたたたたたたたた」
「!?」
「食中毒ですね。生ものとか食べました?」
「生もの......??......あ!!!昨日食った海鮮丼か!!!!!」
「あーそれですね。それじゃ今から胃カメラやりますよー」
「うわああああいやだああああ!!!!」
「...はあ、これじゃ何も分かんないよ」
ヤハさんは検査でしばらく会えなくなってしまった。
おまけに黄泉獣に関しては名前と大雑把すぎる容姿しか聞いていない。
先ほどの情報から居場所や能力等を判断するのは不可能だ。
ー-しかし、紫恋は脳みそをフルに使って考える。
「...確か最近妙な火災事件が多発していたはず」
紫恋はゆっくりと歩き出した。
「...”モエルゴン”。その名前からして炎に関する能力を持っている可能性が高い。」
「火事が起きた家をたどれば、何かわかるかも」
そう言って紫恋は歩き出した。
「...えー、それでは続いてのニュースです。先日、市内の民家で激しい火災が発生しました。警察は先日までの事件と同一犯の放火によるものだとして、捜査を進めています」
「ふーん...」
ちょうど同じ時間帯、冷華は歯を磨きながらニュースを見ていた。今日は予定がうまく合わなかったため友達との約束はない。つまり見方を変えれば一人の時間を楽しめる日ということである。
「最近火事多いなー...」
彼女は独り言をつぶやく。確かにここ数日益恵市では火災が多発していた。しかもその全てほとんど同じような状況なのである。また明らかに外的要因が入った痕跡もあるため、警察も事件性があるとして動いていた。
「...このアパート燃えたりしないわよね...」
冷華は現在アパートの一室で暮らしている。普段は一人の家族と共に暮らしているが、仕事で忙しいのか最近は一人である。
「...もしかして、あのモンスターの仕業だったりして」
あのモンスター。つまり黄泉獣のことだ。
そうだという証拠は全くと言って良いほどないのだが、偶然にも紫恋と同じ発想だった。
「...ま、今日は特に予定もないしだらだらしよーっと」
そう言って彼女はベッドに寝転がる。そして目を閉じると、なぜかまたあの紫の瞳の男が浮かんだ。
(...なんで...)
正直彼のことなど考えたくもない。だがなぜかずっと頭から離れなかった。
好意を抱いている訳でもないのに、
理由こそ分からないが、忘れてはいけない気がした。
目を覚ました。
時計を見るともう4時半だ。3時間以上も寝てしまった。
彼女は起き上がると頭を抱える。
「うわー-...もったいないことした」
ひとまずベッドから起き上がる。しばらく何も食べていない所為もあってか酷い空腹に襲われていた。
「ふあぁぁ...なんか食べよ」
そして彼女は部屋のドアを開く。
その時だった。
玄関の開く音がした。
「とりゃああああぁぁぁ!!!!」
一方その頃。
紫恋は黄泉獣、モエルゴンと戦闘を開始していた。火事が起こった家を回っていたところ、偶然にも路地裏で発見したのである。ゴミ箱をあさっている所だった。
「ファイアアアアアァァ!!!」
黄泉獣モエルゴンは独特な鳴き声で叫ぶ。容姿は巨大な四足歩行の赤いトカゲの様な細い体を持つ他、体中には棘が生えているのに加え、顎には赤く光る水の詰まった袋の様な器官があった。
「こんのおおおお!!!」
モエルゴンはその長い尻尾を振り回し紫恋を攻撃するが、彼も重力操作で上手く避ける。この路地裏は立体的な足場が数多く存在していたため、軽くなった体で移動するのは容易だった。
「ファイアァ!!」
そこでモエルゴンは大きく跳躍し、一番上の足場まで飛び乗った。位置的には紫恋よりも数メートル上である。
「!!」
モエルゴンはこちらを見下ろしよだれを垂らしていた。捕食対象として見られているのだろうか。
「ファイァァァ....」
紫恋が見上げると、モエルゴンの顎の袋が一層光り輝いていた。それだけではない。全身の棘も同じように発光していたのである。
「...まさか!!」
紫恋の嫌な予感は的中した。
次の瞬間、体中の光が口に集まったかと思うと、モエルゴンはその口から火炎を吐き出した。まさに火炎放射である。
「...!!!」
紫恋は間一髪で避けるが、その威力は鉄の階段を溶かすほどだった。当たればひとたまりもないだろう。
そして確信した。こいつが、連日の放火事件の犯人であると。
「....やっぱり炎か。相性が悪い...」
紫恋の能力は重力操作だ。近接戦や物理的な弾丸などの遠距離戦においては無類の強さを誇るが、先ほどの炎といった形のない飛び道具には非常に苦戦を強いられる。
「ファイアァァァ...」
気付くとあたりが暗くなってきた。こうなると逆に発光しているモエルゴンの姿は視認しやすい。
まあそうなったところで、今の状況を打開することは不可能なのだが。
「...こうなったら!!」
紫恋は一か八かの勝負を仕掛ける。
「...っはあっ!!!」
そして彼は自身の体を軽量化させ、先のモエルゴンと同等の、いやそれ以上の跳躍をした。
「...これで上はとった!!」
彼はその直後、駆動機神キキョウを手に一気に急降下した。前回トビトンビを倒した攻撃である。
「...ファイアッ!?!」
これで決着がついた......
とはいかず、
「......!?」
彼がモエルゴンを切り裂く寸前、
胸に、高熱の棘が突き刺さった。
後編に続く
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