Genesis2 マイフレンド 後編「友情」
(...たしかこの辺に)
確かヤハさんの情報によればこの公園で反応があったらしい。だが、近づいても特にそれらしいものは見つからない。
(どこにいる...?)
アスター07から降りて辺りを見渡しても何も見つからない。しかしその直後、ある方向から何かが近づいてくる気配を感じた。
「...上か!!」
「トリー--------!!!!」
「...!!!」
真上から黄泉獣、トビトンビが突進してきた。おおよそ一般的な鳥とはかけ離れたスピードだが、どうやらそれは足の代わりに着いたブースターのおかげのようだ。
間一髪で避けることができたが、トビトンビはすぐにブースターで体勢を立て直し威嚇してくる。
「トリー------!!!!」
「...!!」
こいつが、修斗を襲った。そう考えると心の中から何か湧き出してくるものがあった。感じたことのない、同時に懐かしい感情だった。
「っうおおおおおお!!!キキョウ!!」
紫恋が敵に向かい走りながら叫ぶと、彼の手に駆動機神、キキョウが生成された。簡単に言えば機械的な見た目をした日本刀だ。
「...!!」
そのまま敵に向かい切りかかる。しかし、その攻撃はいとも簡単に避けられてしまった。
「...そっちがその気なら!」
そう言うと彼は足に紫のエネルギを集め、
「こっちもこうさせてもらうよ!!」
大きく跳躍した。今まで記述しなかったが、彼に与えられたのは”重力操作”という能力だ。自身の体と周囲の重力を自在に操る、汎用性の高い能力である。
「...いた!」
周囲を見渡すと、トビトンビはほぼ同じ高度を飛翔していた。どうやら人間の体からは考えられないジャンプを繰り出したことに少々驚いているようだ。
「...次はこっちの番だよ!!」
彼は能力で一気に距離をつめ、キキョウで敵の翼を切り裂いた。これで勝利が見える。
「...よし!これで!!」
はずだった。
「...!!!!」
切り裂いた敵の傷跡からは、すさまじい量の体液が飛び出した。しかも強酸性のようだ。
間一髪で急所は避けたものの、右腕はボロボロになってしまった。セットで焼けるような激痛もついている。
「っ...ぐあああああ!!!!」
あまりの痛みに集中できず、地面に落下してしまった。
「っ...!!!」
敵
の方を見ると酸性の体液が新たな翼のように動いている。翼を切り取るのは無意味か。
「...でも...」
だがこの絶望的状況でも彼はあきらめなかった。
なぜなら、
「...!!!」
脳内に、修斗の顔が何度も浮かんでは消えていたからだ。たとえこの感情が自己満足でも、彼を傷つけた相手を、なぜか許すことができなかった。
「...っうおおおおお!!!!」
紫恋は再びトビトンビに切りかかる。
相手は何度やっても無意味だ、というように紫恋に酸の体液をかけようとした。
ー-しかし、
彼はキキョウの光を肥大化させ、敵の傷口を塞いだ。キキョウの刃は紫恋の精神エネルギーで構成されている。酸性の液でも溶けることはない。
「...ト、トリー-----!!!!!!!」
直後、トビトンビはすさまじい悲鳴を上げた。エネルギーの熱量により傷口が焼かれたのである。酸性とはいっても体液。焼かれればかたまり、それ以上体液が出るのを防ぐ機能は存在する。
「...いまだ!!!」
体中にわずかに体液が付着し痛みは止まらないが、この勝機を逃すことはできない。
「っくらえええええ!!!!!」
彼はさらに上空に飛びあがり、敵を一気に真っ二つに切り裂いた。
「...修斗」
彼は黄泉獣を倒した。ただ、こんなにも満足できないのは初めてだった。
黄泉獣を倒した後、紫恋はヤハさんに傷を治してもらい、近くのショッピングモールに来ていた。
特に理由は無い。なんとなく、といったところだ。
「...」
適当な椅子に座っていると、女子の集団が歩いていた。その中の水色の髪の少女には見覚えがある。
「...」
どうやら花宮さんがクラスメイトに誘われここに来ていたようだ。特に興味もないが、なぜか花宮さんはこちらを向いた。
「...ごめん、私ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言うと彼女は集団から離れた。よく見るとこっちに来いと指で言っている。
「...花宮さん、何か用?」
なぜか彼女と話すことになってしまった。
「...あんた、神風君のお見舞い行ってないでしょ。みんなと行ったとき、彼から聞いた」
「...それが?」
「何で行かないのよ」
「...行く必要がないからだよ」
違う。行く勇気がなかった。怪我を負った彼にどんな顔をすればいいのか、分からなかっただけだった。
「...」
パン
冷華は紫恋の頬にビンタを喰らわせた。女子に暴力を受けたのは、ずいぶん久しぶりだった。
「...ごめん、感情的になって手を出したのは謝るわ。でもね、あたしはアンタみたいに友達を大事にしない奴が一番嫌いなのよ」
「...」
頬と心が痛む。正直先ほどの強酸液より痛かった。
「...神風君がどんだけあんたのこと考えてるか分かってんの?」
「...え?」
冷華はより感情的な声で続ける。
「神風君は本気でアンタみたいなクズ男を友達だと思ってくれてんのよ」
「...クズ男」
知らなかった。修斗がそこまで自分のことを考えていたとは。自分は、本当にただの自分勝手な存在だった。
「...ま、あたしがいくら言っても、結局行動するかどうかはアンタ次第だから。あとは自分で決めなさい。」
そう行って彼女はみんなの元に戻っていった。
「...友達、か。」
友達。その言葉の意味を、始めて本気で考えた。
「...」
そして彼は少しだけ勇気を出し、その一歩を踏み出した。
「...」
病室で、修斗は友が来るのを待っていた。来るはずがない事を、とっくに分かっていても。
だがもうそれもあきらめかけていたその時、突如ドアが開いた。
「...修斗」
「...紫恋!」
病室に入ってきたその人は、他でもない待ち続けた友、紫恋だった。
「...ったくー!なんでもっと早く来てくれねーんだよ!」
「ごめんごめん、ちょっと用事があってさ」
「そーなのか、ま、座れよ」
「...ごめん。」
「...え?」
「僕は、君のことを何も考えてなかった」
「...ッフ」
「?」
「ハハハハハ!!!!どーしたんだよ急に!俺らはダチ、だろ?」
「...」
紫恋は修斗の顔を真っ直ぐ見つめ、
「うん」
友に返事を返した。
続く
「俺らはダチ、だろ?」ー-神風修斗
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