Genesis2 マイフレンド 中編「怪鳥」
「...てかあんた、そういう意味わかんないこと言ってるから嫌われてんじゃないの?見た感じ結構嫌がられてるっぽいけど」
「...それが?」
「いや、やっぱ人に嫌われるのってなんか嫌じゃん。どうせなら友達多い方が」
「僕はそうは思わないな」
紫恋は冷華の言葉を遮り、机に腰かけて続ける。
「結局人間は自分勝手な生き物だ。そんな上辺だけの友情は役に立たないよ」
「でも」
と冷華。
「神風君...だっけ?あの男子とは仲良さそうじゃない」
「...でも友達とは言い難い、かな」
紫恋は修斗の席を見ながら言った無表情で言った。
「...ま、ちょっと脱線したけど、君にここまで詳細を言うということはもう分かるね?」
「...あたしにチームに入って欲しい、ってことでしょ?」
「ご名答」
紫恋は冷華に向け再び指を指す。
「君があの黄泉獣を見て襲われたということは、認識の扉を開き、より高次元の存在を知覚できるようになったってこと。つまり君には戦士、”ギデオン”になる資格がある。もちろん生身で戦えとは言わない。ギデオンになれば戦うための”能力”が一つもらえる」
言い終わると紫恋は教壇を降り、冷華が座っている席の机に手をついた。
「...で、これは一番大事な事なんだけど、君自身に戦う気はあるの?」
「...」
たしかに紫恋のやっていることに興味のあったことは事実だ。なんなら先ほどまではすぐにでも戦ってみたいほどだった。だがいざ言われると急に自信がなくなってしまう。
冷華は紫恋から目をそらし、教室の床を見つめた。
...そして数秒後、彼女は口を開く。
「...ごめん、ここまできてなんだけど、少し考えさせて」
「もちろん。時間はたっぷりあるんだし、ゆっくりでいいよ」
そう言うと紫恋はカレンダーに目を向ける。
「明日は土曜日か。じゃあ月曜日の放課後、返答をちょうだい」
「...分かった」
そう言いながらうなずくと、冷華はカバンを持ち、帰る準備を始めた。
「...じゃ、今日はこれで」
「バイバイ」
紫恋は冷華に向け手を振る。
冷華は普通に無視して、
「自分のことを真剣に考えてくれる人は、大事にしなさいよ」
とだけ言って帰った。
「ただいまー...」
返事は無い。少し安心した。
「...良かった...今日はいないんだ...これは休み中ずっと帰ってこないパターン、かな...」
そう言うと冷華は暗い廊下を進む。途中にの棚にあった写真には2人の大人と1人の子供が写っていた。
「ふぅー-...」
部屋のどこかにカバンを放り投げた後、ベッドに大の字になりながら天井を見上げた。
「...ひさしぶりにゆっくりできる、かも...みんなに遊び誘われてるし」
安心したのもつかの間、あの男の顔が浮かぶ。
「...ま、あれについての答えはゆっくり考えればいーか...」
彼女は眼を閉じ、そのままゆっくりと眠りについた。
その頃、夕焼けに照らされる道を二人の男子生徒が歩いていた。
「うおおお!!今日の部活も疲れたぜええええ!!!」
「いや神風、大声出したらもっと疲れるだろ」
「これが俺にとってのストレス発散なんだよおおおおお!!」
一人は神風修斗。このクラスで恐らく最も紫恋と仲が良いサッカー部員だ。
そしてもう一人は高岩健司。修斗と同じサッカー部員で、勢力でいえば紫恋否定穏健派にあたる。
「...てか神風、今クラスの雰囲気やばくね?」
「何だよ急に。...まあ、それは間違いねーけどよ...」
今のクラスについては冒頭に解説した通りだ。
「...なあ、言っちゃ悪いけど、お前憐夜とつるんでたらまずいんじゃないの?」
「あ?」
修斗は高岩を軽く睨みつける。
「い、いや、別に悪く言うつもりはないけど、今クラス全体でなんとなくあいつを気に入らない風潮ができてるみたいな...」
修斗は前を向きなおし真剣な目つきでこう言った。
「...たしかにそーかもしんねーけどよ...あいつは俺のダチなんだ。悪くいう奴はぜってー許さねー」
「...ま、お前はそういう奴だよな。俺もなんも思わねえってわけじゃないけど、今みたいな雰囲気は嫌いだよ。」
「だよな。なんたってこういう時に働くべき委員長が紫恋を嫌ってんだもん。解決するわきゃねーよ」
修斗はあきれた口調で言った。
「あ、じゃあ俺家こっちだから。またな」
「おー、また学校でな」
高岩と別れた後、辺りはすっかり暗くなっていた。
「いっけね、早く帰った方がいーかもな」
そう言うと少し小走りし家へと向かいだした。
その時だ。
今まで感じたことのない恐怖に襲われたのは。
さっきまで友人と話していた”現実”が一気に”非現実”となるような、とにかく周囲の空気が一変した気がした。
「...!」
不気味に感じた彼はより足に力を入れ走り出した。”恐怖”が見えたわけではないのに、なぜか逃げなければいけないと感じたのだ。
そして自宅が視界に入った次の瞬間、
「トリー-----!!!!」
「っうわああああああ!!!!!」
彼の目の前に巨大な鳥が現れた。
それからのことはよく覚えていない。ただとにかくすさまじい激痛を感じたことだけは、はっきりと記憶に残っている。
次の日
「......」
空はどこまでも青く、小鳥のさえずりが聞こえてくる。だがその全てが、自分には無意味としか感じられなかった。
空に惹かれないのは見飽きたからだ。小鳥の声に興味が無いのはもっと美しい声を聴いてきたからだ。
それらに関する細かい記憶はないが、なぜか断片的な事だけは覚えている。
冷華が転校してから初めての休日。紫恋はこんなことを考えながら、一人で橋の手すりに座り空を眺めていた。
「...おい紫恋、事件発生だ」
そんな彼の背後にピンク髪の不審者、ヤハさん(あだ名)が現れる。
「...ヤハさん、急にテレポートして声かけるのはやめてよ」
振り返る紫恋。
「そんなことはどうでも良い。お前の友人、神風修斗が黄泉獣に襲われ入院中だぞ」
「え」
病院にて
「...いやしかし不幸中の幸いというべきか、入院はしても命に別状がなく、障害が残るような大怪我もしていないとはな」
「いやー、マジで痛かったっす。デカい鳥がでたんすよ」
「...記憶障害は起こしてんじゃねえのか??」
修斗は見舞いに来た部活の仲間に囲まれていた。今話しているのはサッカー部顧問、大宮先生だ。
「いやマジですって。バサバサーっと、嘘言ってませんよ??」
「...まあ、安静にしてることだな」
「せんせーバカにしてますよね!?みんななんか言ってくれよ?」
「修斗...お前頭の病院も行った方が良いかも」
「うんうん」
「ひどくね?」
「...ま、意識もはっきりしてる見てえだし、安心したよ。完治したらまた部活来てくれよな」
「もちろんっす!」
修斗は監督に笑顔で返す。このポジティブさが彼のとりえと言って良いだろう。
「そんじゃ、俺たちは帰るわ。安静にしてろよ」
「はい!ありがとうございます!みんなもありがとな!!」
「またなー」
「...っはぁ」
仲間たちが去った後、彼はため息をついていた。もちろん家族や仲間のお見舞いも感謝しきれないほど嬉しいものだ。しかし、
「...あいつは、やっぱこねえか」
彼は、クラスでは嫌われ者の友が来るのを待っていた。
場面は再び紫恋とヤハさんのいる橋へと戻る。
「...等の証言から、今回神風修斗を襲ったのは黄泉獣NO.22”徒弥飛美”だろう。
巨大な鳥の様な見た目をした厄介な野郎だ。」
「...ってことは修斗も認識の扉を開いたってこと?」
「その可能性が高い。」
「ふーん...」
彼は今、ある思いを抱えていた。
修斗と一緒に戦えるかもしれないというプラスな思いと、彼が怪我を負ったことに対するマイナスな思いの2つだ。
しかしそう考えている自分には違和感を感じていた。なぜなら、修斗を友達として扱っているような気がしたからだ。
「...どうした紫恋、考えごとか?」
「...いや、なんでもない」
「そうか。なら良いんだが、一応黄泉獣を倒したらあいつの見舞いにでも行ってやったらどうだ」
「そんなのいいよ」
そう吐き捨てて彼は歩き出した。
そうだ。所詮は他人。この戦いは敵討ちでも何でもないし、彼に関することで喜ぶ必要も悲しむ必要もない。そう、自分の心に言い聞かせた。
「ああそうだ、ちょっと待て」
黄泉獣の元へ向かおうとした紫恋をヤハさんが呼び留める。
「何?」
「今回の黄泉獣はかなり素早い。追いかけやすいようこいつをもってけ」
ヤハさんが指をパチンと鳴らすと、彼の横に二つのタイヤと左右に伸びたハンドル、その他諸々のパーツがついたついたシャープな機械が生成された。
その見た目はまるで、
「...バイク?」
「そうだ。これからはこの駆動機神、アスター07に乗って敵を追跡すると良い。安心しろ、乗ってても人にバレないように改造してある」
ヤハさんは笑いながら言った。
「...でもバイクとか乗ったことないんだけど」
「...フッ、お前なら一発で乗れると思ってな」
「...全く無茶言うよ」
紫恋はしぶしぶそれに乗り込む。
「...なんとく操作方法が分かる、気がする」
「だろ?」
「...それじゃ」
そう言うと紫恋は機能を発動させ全身を透明化し、もらったバイクで走りだした。
後編に続く
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