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アザゼルリバイブル   作者: スピネル・サンタマリア
第一節 胎動
3/12

Genesis1 Violet & Foreign 後編「戦闘」


憐夜紫恋。ついさっき見たばかりの、今最も見たくない顔の持ち主。

「なんでもホリデーもないよ。強いて言うなら、”仕事”みたいなものかな?」

「はあ?し、仕事...?」

「そそ、まあそんな話は後。それより、あの化け物ー-”黄泉獣(きせんじゅう)”が見えたってことは、君は”認識の扉”を開いたってわけ」

「き、”きせんじゅう”...??”にんしきのとびら”...??まってまって、情報量が多すぎて全然分かんない」

意味の分からない単語の連続。今の彼女にとってそれは理解できないどころか、より強い混乱を招くための毒薬でしかない。


「ま、すぐに理解する必要はないよ。僕も全てを知ってるわけじゃないし。」

そういうと紫恋は地面に着地した。2、3メートルほどの高さがあったが、不思議と痛みを感じている様子はない。


そして紫恋は直後、驚きの行動に出た。


「それじゃ、行っといで」

「え」


なんと冷華を軽く足で蹴り、路地裏の外に吹っ飛ばしてしまった。あまりに突然すぎて何が起きたのか把握する余裕もない。ただ一つ、反射的に紫恋に対する殺意は強まった気がした。

「いったぁ...な、なにすんのよ!!女子に対して暴力ふるう...なん...て...」


しかしその威勢はすぐに消え去った。なぜなら化け物、紫恋が言うところの”黄泉獣”が瞬間移動の様なスピードで目の前に現れたのだから。


「...!!!」

再び、言葉にならない恐怖。黄泉獣が睨みつけてくる様子はまさに狩猟者が獲物に向けるそれだ。

直後、黄泉獣は腕を振り上げた。間違いなく殺される...あと紫恋のことはあの世に行っても呪おう、ー-そう予感した次の瞬間、


「連れてきてくれて、ありがと。」


紫恋が飛び上がった。それも通常の人間にはありえない速さで。

「出てきて、”キキョウ”」

紫恋がそう言うと、彼の手に日本刀に似た武器が生成された。

日本刀に”似た”と言ったが、その柄の部分は機械的な見た目をしており、刀身は紫色の光で構成されていた。総括すると近接戦闘用の光学兵器といったところか。


「とりゃああぁぁぁっっ!!!」

直後、紫恋は黄泉獣に切りかかる。しかし黄泉獣は刀身をその異常な反応速度と強靭な爪で受け止めた。

「...っ!!そう簡単にはやられないってことね!!」

攻撃の失敗に気づくと、すかさず紫恋は後退し距離をとる。


「ヤバイ...何が起こってるか全然分かんない...」

まさに白熱の戦いと言ったところだが、それを一番近くで見ていた冷華が一番理解できなかった。

さっきまで自分の秘密を暴露したり、蹴り飛ばしたりしてきた奴が今度は自分を殺そうとした化け物と戦っている。

最も、紫恋に冷華を守ろうとする意志は毛ほどもないようだが。


そこで突然、不審な男が冷華の隣に現れた。

「無理に理解しようとする必要はない。重要なのは、目の前で起こってる現実を受け入れようとする心だ。」

「え、急に誰このオッサン」

その男は、胡散臭い顔つき、胡散臭い眼鏡、胡散臭く着崩したスーツ、胡散臭いタバコ、極めつけに胡散臭すぎるピンクの髪と、「不審者」という言葉が一番似合うほどの不自然な容姿をしていた。

「俺か?まあ俺は...あいつの雇用主みたいなもんだ。”ヤハさん”...とでも呼ぶと良い。」

「は、はあ...」

おまけに名前、というかあだ名まで胡散臭いと来たので冷華はただ頷くことしかできなかった。”あいつ”、というのは10割型紫恋のことだろう。


「とおおおおおっっ!!!」

一方戦場の方では激しい戦いが続いていた。なぜ紫恋はあそこまで身軽に動けるのか、こんなにうるさいのに周りに住んでる人は気づかないのか等疑問は尽きないが、ただ一つ、”化け物退治”という”非現実”の様な”現実”がそこにはあった。


「ホチョオオオオオオ!!!!!」

黄泉獣が叫び声をあげて紫恋を切り裂く。

「...くっ!!!!」

気付けば彼の腕からは赤い血が流れていた。どうやら黄泉獣の方がわずかに押しているようだ。


「ちょっとオッサン!雇用主とか言ったけど、あのままじゃ紫恋やられちゃうじゃん!!どうすんのよ!!」

「あいつのことは嫌いじゃなかったのか?」

「いやあいつ殺されたらあたし達も危ないじゃん!!...って、なんで嫌いって知ってんの?」

「......フッ、あくまで自分の心配を第一にするか。あいつとは似てるようで違う。面白い。」

「いや質問に答えて欲しいんだけど」


「ホチョオオオオオオオオオオ!!!!」

「ぐっ!!!......はっ、なかなかやるじゃん」

余裕そうな態度をとってはいるが、すでに紫恋の体はかなりのダメージを喰らっていた。

加えて武器も数メートル先に投げ飛ばされてしまった。

このままでは紫恋に勝ち目はない。果たしてどのような行動をとるのか。


「...しゃーない。あんまやりたくなかったけど、一気に決めちゃうか。」

「...おい、”あの技”を使って大丈夫なのか?」

「だいじょぶだいじょぶ。心配しすぎだってヤハさん」

「...え、”あの技”って?...」


「みんな、僕のもとに集まって」

紫恋がそう言うと、その手に紫色の光が集まり始めた。


「ホチョオオオ...?」

黄泉獣はそれを見つめる。今度は狩猟者としてではなく、単純に不思議に思ってだが。


そしてその光はやがて”(たい)”を成していく。少しづつ、少しづつ大きくなっていった。


「...完、成」

最終的に出来上がったのは、紫恋の身長の数倍はあろう巨大な”剣”だった。先ほどのキキョウに関しては見た目が少々現実離れしているだけでサイズは普通だったが、こちらのサイズは完全に常軌を逸している。


「...!ホチョオオオオ!!!」

自身の危機に気づいたのか、黄泉獣は紫恋に飛びかかろうとした。


ー-しかし、時すでに遅し。


「...喰らえ必殺!!”堕ちた紫(バイオレット・ソード)”!!!!」

その”剣”は黄泉獣めがけて振り下ろされた。

これで黄泉獣は倒された...どころか、周囲の道路や街灯を跡形もなく消し去ってしまうほどのすさまじい威力だ。


「......」

冷華はあまりの威力に口を開けたまま座り込んでしまった。

「...ったく、相変わらず馬鹿げた威力だ。俺の結界がなきゃ、こいつ死んでたぞ」

「ごめんごめん」


爆風の中、紫恋はこちらを向いて近づいてきた。

「ねえ」


「......何よ」

「僕は人間の”愛”という感情が理解できない。」

「”愛”?」

「そう、君には愛する人はいるかい?」

「...それは」


冷華の頭にある人物が浮かんだ。

小さい頃に、自分の頭をなでてくれた記憶。

しかしそれは一瞬にして崩れ去った。

それからだった。

自分という人間の存在理由が分からなくなったのは。


「...いない」

「そっか」


次の瞬間、紫恋は冷華に顔を近づけて言った。

「僕はね、人間の”愛”という感情が知りたいんだ。そのために戦っていると言って良い。」

「...そ、そう。てか顔近すぎ」

この距離で話されると、紫恋の普段はマフラーに隠れて見えない花嫁の様な赤い唇がよく見える。


「それじゃ」

紫恋は顔を話すと、冷華に手を伸ばした。


「立ちなよ」


「......」

正直彼の手など触りたくもなかった。

このアホのせいで自分の学校生活が台無しになるかもしれない。

いや、正直彼がいなくても結果は同じかもしれない。

それに助ける意思がなくとも命を救ってもらったことに変わりはない。

もちろん蹴られたことは一生忘れないが、

ただ、

ただ、

こいつの前では、本当の自分でいられるかもしれないと思った。

たとえ危険だと分かっていても、この男の”非現実”な”現実”を覗いてみたくなった。


「さ、どうすんの」


そして冷華は、


「......分かったわよ」


紫恋の手を掴んだ。



続く



「僕は人間の”愛”という感情が理解できない。」ー-憐夜紫恋


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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