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アザゼルリバイブル   作者: スピネル・サンタマリア
第一節 胎動
2/12

Genesis1 Violet & Foreign 中編「邂逅」


放課後


「...ねえ憐夜くん、ちょっと良い?」

誰も予想しなかった事態。

クラスのアイドルが、嫌われ者に話しかけた。

「この後、体育館の裏に来てほしいんだけど」

「...え、なんで??、ここで言えば良くない???」

「...人前じゃ言えないことだから」

冷華は小さく呟いた。


「おい紫恋!花宮さんに呼ばれるとか良かったじゃねえか!」

修斗が紫恋の背中を叩いた。

「なんで?あんなクソビッt...」

「はいストップ!それ以上言ったら殺されるぞ!!」

「むごむご」

実際今クラスの大半は冷華の味方をしている。もちろん気に入らない者もいるが、そちらの方が少なすぎるのが現状だ。

集団というものは、必然的に多い方が強くなってしまう。特にクラスという集団の輪の中では。


「それじゃ、一応行ってくるね」

「おう!頑張ってこいよ!!」


紫恋が言った後、修斗はクラスの会話に耳を傾けた。

「なんであんな奴が花宮さんと二人で話せんだよ...」

「あいつ、確かに優秀かもしんねえけど性格最悪だし」

「しかも冷華ちゃんのことクソビッチとか言おうとしたんでしょ?ありえないよねー」


クラスメイト達は男女問わず紫恋の悪口を言っていた。

紫恋は友達だ。もちろんその悪口は許せない。


ー-でも、どこかで納得してしまっているような自分がいる。


「...クソッ、ダチを信じられない自分が情けねえ...」


頭を抱えて悩んでいると一人、あるが男子が修斗に話しかけた。


「お前もいろいろ大変だね、神風。」

修斗も顔を上げて返す。

「...んな大したことじゃねえよ、沖田。」

かれは沖田伝助(おきた でんすけ)。修斗の友達の一人で、比較的紫恋を悪く思っていない生徒の一人だ。

「全く、少し顔が良い転校生が来たからってみんなはしゃぎすぎだよね。」

「...確かに花宮さんは可愛い。でもだからって紫恋を非難する必要はないはずだ。いや、あいつに全く原因がない訳ではないけど」

「考えが安定しないね」

「仕方ねーだろ...あいつのことは信じてやりてえけど、なんとなく何考えてるか分かんねーっつーか...てか、お前は花宮さん可愛いとか思わねーの?」

「いや、俺もう好きな人いるから」

沖田はその顔に微笑を抱えて言った。



一方その頃


「...で、僕に何か用?花宮さん」

紫恋は冷華に言われた通り、体育館の裏に来ていた。

「...来てくれてありがとね。それでー-」



一瞬、冷華の白い顔が赤らんだ気がした。そしてー-



「...おい」


冷華は紫恋に、壁にヒビが入るほど力強く壁ドンをしていた。

ただそこから感じられるのは愛情ではなく、すさまじい殺意。



「...え?なんで怒ってんの??」

「ナンデもサンデーもあるわけないでしょ。何アンタあたしが配信してるってバラしてんの??殺すよ??」

この時の冷華の口調は、普段からは考えられないほど冷たく威圧感を感じるものだった。いや、どちらかというとこっちが本性なのだろう。


「......え??ダメだった???」

「アンタ内容知ってるんでしょ?あんなのクラスのみんなにバレる訳にいかないじゃない。そんなことも分かんないの??」

「ああ、確かにあれは結構きわどいね。特にあの回はスクール水着で...」

「それ以上言うな!!」

「むごむご」

他人に口を抑えられたのは本日2回目。


「...ったく、アンタみたいな奴にあれ見られたとかマジで最悪...死んでほしい...」

「いやでも、君みたいな胸の小さい女子に興奮するのはロリコンぐらいだと思うけど」

その時冷華の中で何かが切れ、紫恋にもう一度壁ドンを喰らわせた。ただし今度は反対側に、もっと強い威力で。


「おい、次言ったら本気で殺すぞ?」

「いやだって事実じゃん。なんか悪い??」

「何こいつクッソムカつくんだけど」


「...それじゃ今日はこの辺にしといてあげるけど、次やったらマジで殺すから。分かった?」

「やったらって何を?」

「アンタバカなの??」


そう言って冷華は帰っていった。紫恋にはその後ろ姿がなぜか寂しそうに見えたが、特に気にも留めるはずはなかった。

「...なんで怒ってたんだろ??」

反省する気ゼロである。


そして冷華はというと、


「...はぁ、マジ最悪...」

夕日の中、公園のブランコで思わず独り言を言ってしまうほど落ち込んでいた。

「今回こそはクラスに馴染めると思ったのに...あんな奴がいたんじゃすぐバレちゃう...家に帰っても...また撮影だし...」

気づけば彼女は、一筋の冷たい涙を流していた。

「...私はただ...自分を偽らないで...みんなと仲良くなりたいだけなのに...」

クラスメイトが嫌われ者の事情を知らなければ、人気者の事情もまた知らないのだ。



「...もういっそ、全部終わったらな...」


そう、呟いた時だった。

突如吐き気を催す様なひどい感覚に襲われた。

経験したことのない様な、言語では表し難い”恐怖”。

その”恐怖”は後ろから来ていた。少しずつ近づいてくる。

その”恐怖”の正体が何かは全く分からないが、絶対に振り返ってはいけない。そう心に決め、震える腰をブランコから離したその時、


つい先ほどまで後ろにいた”恐怖”は、突如目の前に現れた。


「...!!!」


言葉にならない様な声を上げた。

”現実”が一気に”非現実”となる瞬間。

その”恐怖”は、体系こそ人型をベースにしているものの、筋肉がむき出しの様な赤い体表、包丁のように鋭い爪、獣に近い逆関節の脚、オレンジ色に輝く複眼と、およそ世間一般的な”化け物”の要素を一通り満たしているように感じた。


人間というのは意外と危機的な状況の時ほど瞬時に情報を読み取れるものだが、今の彼女にとって化け物の外見的特徴など把握したところでどうでもよかった。

脳内を埋め尽くす恐怖を振り切って、何も考えずに走り出した。



気付けば空は暗い夜に染まり、彼女は知らない路地裏に立っていた。化け物がどこにいるのか、自分を追っているのかは分からないが。


(...さ、さっきの赤いの、何...!?てか、ここどこ...??)

彼女は息を切らしながら脳内で混乱する。

目の前に突然化け物が現れた。ただそれだけのことなのに、全く理解が追いつかない。

無理もない。人間というのは、意外と突発的な現象に弱いものだ。


ひとまず周囲を見渡してみたが、ここは少し道が広い以外何の特徴もないごく普通の路地裏だ。

まあごく普通でない路地裏の方が少ないが、あまりにも情報が少なすぎる。

(...とりあえず、外に出てみよう...)

路地裏の外ー-通りに出て現在地を把握しようとした、その時。


「やめといた方が良いよ。”あいつ”は君を探してる。通りに出た瞬間、匂いと音で気づかれて即あの世行きさ」


上から聞き覚えのある声がした。声だけでなく、しゃべり方もだが。驚いて上を見あげてみると、そこには見覚えのある人物が建物の窓際に腰かけていた。


「...な、なんでアンタがここにいるの!?」


後編に続く

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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