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アザゼルリバイブル   作者: スピネル・サンタマリア
第一節 胎動
12/12

Genesis4 ラグナロクの方程式 後編「飛翔」


「賭けをしよう」

「賭け?」

「そう」

紫恋は続ける。

「来週、数学の小テストがあるでしょ?」

「ああ、あのなんたら方程式とかいうやつ?」

「そう。そのテストで僕の方が君より高い点数を取ったら、ラグナロクに参加してもらう」

「ふーん...で、あたしが勝つ条件は?」

「僕以上の点数を取れば良いよ。”以上”だから、同じ点数でも良い」

「...もしかしてあたしのこと舐めてる?」

「どうだろうね」

わざとらしく紫恋は言う。しかし彼はいつも以上に得意げだった。まるで先日屈辱的な思いを受けた恨みを晴らすかのように。


「...わかったわ。あたしが勝ったら、もう二度と話しかけないでね」

「分かったよ。それじゃあ、また明日」

「...」

冷華の家とは反対方向に帰っていく紫恋。しかし、冷華はその場にうずくまり後悔を口にする。


「っはぁぁー-...あたしのバカ...なんであんな誘いにのっちゃうのよーー...」

彼女は昔から負けず嫌いの性格だった。特に嫌いな相手には絶対に負けたくない。今回紫恋との賭け勝負をあっさり承諾したのも、それが原因だろう。


「...とりあえず帰ろ」

そう言って彼女はゆっくり立ち上がると、家に帰るためその足を動かすのだった。



「...ただいまー...」

今日も鍵が開いていた。幸いな事に昨日の夜外に出たことは気づかれていない。もしそんなことになれば、ただでは済まされないだろう。


「...はい。分かった。」

リビングの奥で誰かと会話する冷華。学校で友達と話す時に比べ、明らかに声のトーンが下がっていた。


「...じゃあ、着替えてくるね。”ママ”」

そう言って彼女は自分の部屋に向かう。



憐夜紫恋は”愛を知りたい”と言った。

だがそれは冷華も同じである。



家族に愛される気持ちを、いつの日か忘れてしまっていた。


家族に愛されないことに、いつの日か違和感を感じなくなっていた。







「花宮さん、少しまずいことになったよ」

「何?」

翌日の放課後、紫恋は少し真剣そうな顔で冷華に話しかけた。どうやら昨日の様なしょうもない内容ではなさそうだ。


「ヤハさんから情報が入ったんだけど」


「黄泉獣がこの学校の地下に()を作ったんだ」

「ここの地下に!?...でも、黄泉獣は私たちみたいなギデオン以外の人間に干渉できないんじゃなかったの?」

「確かにそうだね。でも、巣を作ったことにより地面が不安定になって、校舎が崩れる危険性があるんだ。時間帯によっては大惨事になる」

「...そんな...」

その瞬間、冷華はクラスメイト達の顔を思い出した。転校生である自分に好意的に接してくれたものばかりだ。その動機がどうあれ、そんな大事な友人達を失うわけにはいかない。


「...まあ僕としてはこの学校がどうなったところで関係ないけど、修斗の居場所だけは何としても守らないとね」

「...」

「さて、僕は黄泉獣を倒したい。君はこの学校を守りたい。どう?今回は僕と一緒に戦うっていうのは」


冷華はゴクリと生唾を飲む。大事なものを守るためには、戦わなければならない。昔見たアニメだか特撮番組だかで、そんなセリフを言っていた気がした。自分にみんなを守れる力があるなら。


「...わかったわ。今回は一緒に戦ってあげる」

「そう来なくちゃ」


まさに呉越同舟。かくして、二人は学校の地下に潜む悪しき黄泉獣を倒す事になったのだ。




「...確かこの学校の地下室2、3年くらい前にできたんだっけ?結構広くて、緊急時にはシェルターにもなるとかなんとかで」

「最近日本にも増えてるからね」

二人は早速地下室まで来ていた。基本的には施錠されているため入れないが、なぜか入り口の扉が破壊されていたのだ。最も、犯人は明白だが。



「...蜘蛛の巣が増えてきたわね」

「ここから先はどこから黄泉獣が出てくるか分からない。気を付けて進もう」


この暗く狭い地下道では精神的不安から能力の出力が落ちる危険性がある。二人は武器を取り出し周囲を見渡した。


緊張の一瞬ーー


その時、二人の真上から巨大な怪物が落下してきた!


「クモオオオオオン!!!!」

「...出たわね!!」

その怪物の正体はダイオングモ。暗闇で巨大な虫が落ちてくる様は、まるで海外のB級ホラー映画だ。


「クモオオオオン!!」

直後、ダイオングモは口から白い液体を発射した。


「っひぃ!!なにこれ!?!?」

「ダイオングモは口から粘着性の糸を吐くんだ!すぐ取れるけど隙が生まれるから、当たらないようにして!」


動けなくなった冷華を襲おうとしたダイオングモに、紫恋が斬りかかった。だが多脚でガードされてしまう。


「っ...!意外と丈夫みたいだね!!」

一旦距離を取る紫恋。冷華に付着した糸もその時にはもう取れていた。


「憐夜!!こいつの弱点は!?」

「尻尾の先端にある針だよ!そこを破壊すれば倒せる!でも...」

「なるほど!そういうことなら...!!」

紫恋が話し終える前に、冷華はダイオングモの脚へ氷を放った。冷気で凍らせ、動きを鈍らせる作戦だ。


「クモオオン!?」

「よし!これなら...!!」

そして冷華は勢いよく跳躍し、サザンカの先端を敵へと向ける。

「さあ!覚悟しなさい!!!」



ー-だが、その槍がダイオングモの針を貫くことはなかった。


「っく...かはぁ...」

その逆だった。

ダイオングモの尻尾が、冷華左脚を貫いたのだ。


「...ダイオングモの尻尾は伸びるんだ。突き刺されると毒を撃ち込まれる。」

「そ...それ早く言って...」

「君が話も聞かずに突撃しちゃったんじゃん」


針を抜かれその場に倒れこむ冷華。ダイオングモの針からは神経毒が流し込まれる。1時間以内に解毒剤を打たなければ死亡してしまう、凶悪なものだ。


「...ほら、立って」

「...っくぅ...なんか体がしびれる...」

「早くこいつを倒して、ヤハさんに解毒剤打ってもらおう」

「...うん」

そうして二人は再び臨戦態勢に入る。冷華は足が少しふらついているものの、まだその闘志は消えていなかった。


しかし、ダイオングモは予想外の行動に出た。


「クモオオオオオオン!!!!!!!」

「な!?」


なんと天井を突き破り、地上に飛び出したのである。これは完全に予想外だった。


「なんで!?自分の作った巣で戦った方が絶対有利なのに....」

「と、とにかく行くわよ!」

ダイオングモを追い、空いた穴から外に出る。敵は校庭の真ん中に立ち、二人を待ち構えていた。


「...僕たちが戦う光景を見られるのは、ヤハさんが記憶処理をしてくれるから問題ない。建物の損害もね。でも、一般人のけがや死は元に戻せないんだ。」

「...分かったわ。なるべく早く倒さないとダメ、ってことね」

「物分かりが良くて助かるよ」


ダイオングモは二人の存在を確認すると、勢いよく飛びあがった。そして尻尾を伸ばし校庭のポールに巻き付けると、ワイヤーの要領で飛び回り高速移動を開始したのである。二人は走ってそれを追いかけた。


「何あれ!?あんなこともできるの!?」

「あれもダイオングモの能力の一つだよ。」


ダイオングモは電柱から電柱へと移り、町の上空を飛び回っていた。その機動力はすさまじく、二人が走っても追いつけないほどだった。


「...ダメだ。このまま走っても(らち)が明かない。あれを使おう」

「あれって...もしかして!!」

「アスター07!!」

紫恋がその名を叫ぶと、二人の元に銀色のバイク「駆動機神アスター07」が駆け付けた。それに乗り込みエンジンを吹かせる。


「昨日のクソダサバイク!」

「こいつの速さなら追いつけるはず...行くよ!!」


次の瞬間、アスター07が走り出したことによりすさまじい風が吹いた。スカートを抑える冷華。


アスター07のスピードでダイオングモに追いつくのは容易だった。だが問題はここからである。

敵は数メートル上。紫恋の重力操作で体を軽くし跳躍したとしても、その間にもっと遠くへ飛んでしまう。このままでは攻撃すらできない。そんな状況の中、アスター07のモニターにヤハさんからの連絡が届いた。


『ジェットファイターモードにチェンジしろ』


「...なるほど!そういうことね!」

言い終わると紫恋はハンドル部分についたダイヤルを”jet fighter”と書かれた部分まで回し、

「ジェットファイターモード!!」

と叫んだ。


するとアスター07は紫の光を放ち、タイヤを本体と分離させ、マフラーをブースターに、サドルを覆っていた部分をウィングへと変形させた。最後に先端に着いたひし形のパーツがコックピットの様に紫恋を覆う。その姿はまるで、



「..なにあれ!?戦闘機!?」

空を見上げた冷華が叫ぶ。


”駆動機神アスター07空中戦闘機構ジェットファイターモード”への変形完了である。


「...さあ!!出力全開で行くよ!!!」


「...クモン!!??」

ジェットファイターモードのスピードはすさまじかった。空中を飛び回っていたダイオングモに一瞬で追いついたのである。


「クモオオオオオオン!!!!」

アスター07への敵意をむき出しにするダイオングモ。逃走に徹した先ほどまでとは一転し、アスター07を追いかけ始めたのである。


「こっちだよ!」

「クモオオオン!!!」

互角の追いかけっこを展開する一人と一匹。だがその勝負は、冷華の攻撃によって終了した。


「...かかったわね。あたしの射程圏内まで来るのを待ってたのよ」

「クモオオオン!?!?!」

気付けばダイオングモの体は氷漬けにされ、電柱から離れられなくなっていた。どこで話し合ったのか、最初からこうするための作戦だったのである。


「あいつの動きは止めたわ!!あとはやっちゃいなさい!!!」

「もちろん」


ダイオングモの動きが止まったことを確認すると、紫恋はアスター07から降り飛び上がった。


「...そういえばこの技はまだ見せたことなかったっけね。...いくよ」

直後、周囲に紫色の光で構成されたひし形のリングがいくつも生成された。そしてそれらは紫恋とダイオングモの間に整列する。


「”バイパーキック”!!!!!」

紫恋は蹴りの体制をとると、ダイオングモめがけ一気に急降下した。先ほど生成されたリングを通るほど加速され、最後はダイオングモの尻尾に直撃しー-



ドガアアアアアアアアアアアン!!!!


敵は爆発四散した。紫恋は直前のタイミングで着地したため無事である。


「...何とか倒せたわね」

「そうだね。」

「...ま、戦闘の様子を見た人もいるだろうけど、怪我人はいなかったはず。あとはヤハさんが何とかしてくれるよ」


こうして黄泉獣は倒されたー-



が、その様子を、校内から見る謎の存在がいた。


「ー-さすがの戦闘力。まあ、今回の目撃者の記憶もすぐに消されるだろうけど、問題はない。今はまだ実験段階だから...ね」


そのものは怪しげな笑みを浮かべながら、”逆さまになった黒い翼のマーク”が書かれたカードを手に持っていた。

この戦い、何か裏があるー--のかもしれない。




一週間と少し後


今日は先日行った数学の小テストが返される日。皆がその結果に一喜一憂する中、紫恋と冷華の勝負に決着がつこうとしていた。


「花宮さん、小テストの結果が返ってきたね。ちなみに僕は100点だったよ」

震えながら答案を見つめる冷華。そこにはー-


”4点”


と書かれていた。


「」


あまりの低さに言葉を失う紫恋。


「...ねえ、君もしかして勉強苦手...」

「...この賭け勝負、なかったことにできない??」

半べそをかきながら言う冷華。

「それは無理」

「ですよねー-...」



続く



「人は誰しもこの世界に違和感を感じている。」ー-憐夜紫恋


補足説明

後半見せたダイオングモの移動方法は、海外ヒーローのスパイダーマンみたいなものだと考えてもらえれば大丈夫です。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

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