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アザゼルリバイブル   作者: スピネル・サンタマリア
第一節 胎動
10/12

Genesis4 ラグナロクの方程式 前編「事件」


前回のあらすじ

回転寿司とかのサーモンは実はニジマス


ある日の放課後。クラスのアイドル、花宮冷華は3日前掲示板に張られた校内新聞を眺めていた。

内容を要約するとこうだ。


ー2051年5月20日(金)益恵中学校新聞部 発行

・野球部今年も人数が足らず大会出場できず!

・サッカー部地区予選2回戦突破で全国大会出場決定!

・謎の未確認生物発見!?巨大な浮遊クラゲの正体とは

・君も完璧!美味しい昆虫食の作り方!


ー-といったところだ。この学校の新聞部部長は勉強に関する記事を一切書かないことで有名だが、今回もそんな調子である。


「...はぁ」

彼女は記事から目を離すと小さなため息をついた。ここ最近色んな事がありすぎたからである。

とうとう自身も紫恋と同じ非現実の世界へ飛び込んでしまった。きっともう後戻りはできない。

その選択が間違っていたと思うことはないが、後々から考えると化け物退治などという非現実的すぎるものを頭で理解することなどできなかった。


「どーしたの花宮さん?元気ないみたいだけど」

「...赤坂くん」

そんな落ち込む彼女に笑顔で話しかける男子が一人。そう、2年2組クラス委員の一人赤坂幸樹である。


「俺で良ければ話聞くよ?」

落ち込んでいる女子の悩みを聞き自分に気を引かせる。この年齢くらいの男子になるとこういった手口を使うものが出てくるが、この赤髪の少年は違う。100%の善意で彼女に話しかけているのだ。

この殺伐とした時代にここまでお人好しな人間も彼くらいであろう。


「...いや、私なら大丈夫だよ」

「...そっか。まあなんかあったら信頼できる人に相談してね。俺でもいいし!」

「...うん///」


幸樹が去ると、冷華は顔を赤らめながら言った。

「赤坂くんかっこいいなー...」


ー-新たなる恋の予感。実際、この学校で彼に想いを寄せる女子は多い。


「...それに比べてあいつは...」

「あいつがどうしたの?」

「っひゃあぁ!!」

しかし、好かれるものがいれば嫌われるものがいるのもまた事実。

そう、我らが主人公憐夜紫恋である。

音も気配もなく、突然彼女の背後で囁いた。もはや変態ともいえる挙動だ。


「...ちょちょちょちょっと、今の独り言聞いてないでしょうね!?」

「”...それに比べてあいつは...”ってやつ?」

冷華の声と表情を真似ながら言う紫恋。

「いやそれの前!...ってあっ...」

「ふーん、その前にも独り言言ってたんだ?」

「い、いやその違くて」

顔を真っ赤にして焦りだす冷華。

「まあいいや」


そう言うと彼は少し後ろに下がり、再びその妖艶な唇を開いた。

「そんなことより、仕事だよ」

「仕事???」


「そ。終争”ラグナロク”の、ね。」





突然だが、舞台はある警部補の物語へと移る。


「...司法解剖によれば被害者が死亡したのは5月14日の16時から19時までの3時間。死因はまあ...事件当時の遺体を見た時点で一目瞭然だったかと思いますが、首を切断されたことによる出血死です。」


私は”上山零士(かみやま れいじ)”。この北海道の地において警部補の役職に就く、仕事歴4年の警察官だ。

今回の事件は、私が今いる治派(ちは)市にて首を切断され死亡していた男性の遺体が発見されたことから始まる。


一言でいえばこの事件は”意味不明”だ。被害者の男性は金品をとられた様子もなく、なおかつ16時から19時という今の時期まだ明るい時間帯にこんな大胆な犯行を行う理由も分からない。そして何より不可解なのは、遺体のすぐそばに”逆さまになった黒い翼のマーク”が書かれたカードが落ちていたことだ。


まだキャリアの浅い私はともかく、今目の前にいる渋原(しぶはら)警部でさえこんな遺体は見たことが無いという。


「なるほど...」

そう言いながら警部は顎を掻く。この非現実じみた今回の事件において、唯一現実的を思い出せたのはこの警部のしぐさぐらいだ。


「...おまけに、被害者が抵抗した痕跡なども一切ありません。つまり拘束されて身動きを捕れなかった、あるいは...」

「一瞬で切り落とされた。ということだな。」

「はい。にわかには信じがたいですが。」


今の日本において、歩いている人間の首を一発で切り落とせる道具はおそらく存在しない。

いや、確か最近米軍がそういった兵器を開発したとか言っていたが、そんな技術が日本にあるなら我々の使う道具ももっと豪華になっていることであろう。


「警部!第一発見者が到着しました!」

「うむ」


さて、どうやら今回の第一発見者、つまりは重要参考人のご壇上のようだ。


黒田時政。

隣町の益恵市にて、中学校教師を生業とする男だ。





「...ねえ、あたしラグナロクやるなんて一言も言ってないんだけど。ちょっと聞いてるの??」


舞台は再び紫恋達の元へと戻る。

今二人は学校近くの通りを歩いている所だった。いや、正確には紫恋が冷華を無理やり引き連れているといったところか。


しかし紫恋は突如足を止め言い放つ。

「...君は一度こちらの世界を見てしまった。ヤハさんは君に甘いみたいだけど、現実はそんなんじゃないよ」

「...!」


彼の権幕に一瞬怖気づいてしまったが、彼女は振り払い言う。

「で...でも、あたしには知りたい真実なんて」

「あるでしょ?」

「...!」


紫恋は立ち止まって続ける。

「人は誰しもこの世界に違和感を感じている。それは”なぜアイスのアタリは出ないのか”みたいな小さなものから”人類がここまで発展してこれたのはなぜか”みたいな大きなものまでいろいろあるけど、それは君だって同じはずだ。」

「...あたしは...」

紫恋に顔を近づけられ黙りこくる冷華。


「とりあえず」


冷華の手を掴み強引に歩き出す紫恋。

「今日の仕事は手伝ってもらうよ」

「...ちょっと、手掴まないでほしいんだけど」

「...」

聞く耳持たず。


仲良くなるどころか、まともな対話さえできる気がしなかった。




「ここって...確かちょっと前まで車の部品作ってたとこ?」

「そう。大手日本車メーカーの下請けの下請けの下請けの下請けの下請け。今はもうメーカーごとつぶれちゃってるけどね。」


彼に引っ張られて着いたのは廃工場だった。砂埃が舞い、朽ちた天井から光が差し込む。写真を撮ってSNSにでもあげれば、1000いいねくらいは尽きそうな光景だ。隅に張られた蜘蛛の巣もなかなか良い味を出している。


「最近車の需要減ってきてるもんねー...って、ここで何すんの?」

「さっきヤハさんから、ここに黄泉獣がいるって連絡がきた」

「ふーん...」

いつ連絡をとったのか?というツッコミは置いといて、確かにこの雰囲気なら化け物が出てもおかしくない、というのが彼女の第一感想だった。


「...少し奥に行こうか」

そう言って彼は足を前に出す。いつのまにか手は離されていたが、変な好奇心で彼女もそれについて行ってしまう。


「そうだ、君」

「?」

「虫って苦手?」

「...は?急に何言って...ってあんた、後ろ...!」


中編に続く

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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