第三十一話 駆けつける皇帝陛下
少し短いのですが、キリも良いので……。
アナウンスさんの『ミーヤが窮地に陥っています』というお知らせに、ヒューゴはわかりやすく動揺した。
顔色を変えてガタンと椅子から立ち上がり、すぐに飛び出して行きそうな勢いだ。
(どこだ! どこに向かえば良い?)
《2分以内に到着するなら、西区3番街の大通り沿いのペット用品店に、それ以上時間がかかるようなら西区の番所へ向かって下さい》
アナウンスさん、ナイスアシスト。情報の提示が手厚い。
「陛下、どうなさいました?」
ヒューゴの執務補佐官が声をかけた。
「うむ。急用を思い出した。少し出掛けて来る」
ヒューゴはその足で厩へと向かい、愛馬に跨ると城下町を目指した。護衛や侍従を連れずに城を出るなど不用意だと止められそうなものだが、ヒューゴは五年以上戦場の先頭に立って剣を振るっていた経験がある。
本物の戦場を知らない王都の半グレなどが束になっても、ヒューゴに傷ひとつ負わせることは出来ないだろう。
(もう2分はとうに過ぎた。だったら向かうのは西区の番所だ。ミーヤは犯罪に巻き込まれているのか? ミーヤは無事なのか……!)
城下町を環状に伸びる馬車道をひた走る。時折りすれ違う馬車や人力車の馭者は、ヒューゴの勢いに驚いて道を譲った。
* * *
「だから、なぜそんな大金を持っておるのかと聞いているんだ」
「も、もらったの……」
「誰にだ? なぜ? なんの理由もなしで金貨をくれる人間などいるわけがないだろう!」
強面の兵士にギロリと睨まれ詰め寄られれば、ミーヤはもう何も言えなくなってしまった。毛玉に戻って、飛んで逃げてしまいたい。
「父ちゃんと母ちゃんの名前は?」
これにはミーヤも首を傾げた。ミーヤは気がつくとたった一匹で森にいる毛玉だったのだ。生物である限り、親はいるとは思われる。
だがいたとしても、たぶん毛玉だ。番所にミーヤを引き取りには来てくれないだろう。ここが本当に育成ゲームの世界だとすると、親がいない可能性すらある。
(保護者……へーか、かな? だって守護者だもん)
「へーかを……」
ミーヤは必死で声を絞り出した。
「へーか? 父ちゃんの名前か?」
「ぐすっ、とうちゃん、ちがう……」
ヒューゴはお父さんではない。自分には毛玉の両親すらいないかも知れない。ミーヤは自分の寄る辺なさに、また涙があふれた。
取り調べ用の小部屋でミーヤの事情聴取をはじめたのは新米の若い兵士だった。『どこかで金貨をちょろまかして来た小汚い子供がいる』いう通報を受けて現場へ向かった。
ところがそこにいたのは、滅多矢鱈にいたいけな少女だった。状況を説明出来ないほどに狼狽えている。
「まあまあ。お嬢ちゃん、もう泣かんでいいから。 飴ちゃん、舐めるか?」
にこにこと笑いながら、中年の兵士が小部屋へと入って来た。
「ありゃーと……じゃいま」
もらった飴玉をさっそく口に入れて礼を言う。飴玉が大き過ぎて変な口調になっているが、ミーヤはちゃんとお礼の言える良い子だ。
「落ち着いたら、事情を教えてくれるか? その飴玉がなくなるまで、ゆっくり舐めていいからな」
まるで昭和の刑事ドラマでカツ丼を食べさせてくれるシーンのようだ。ミーヤは令和の小学生だったので知らないのだが。
「おやっさん……甘いっすよ! これも演技かも知れませんよ?」
「今日はほら、暇だし! な?」
ミーヤは優しげな中年兵士と飴ちゃんのおかげで、ようやく涙が引っ込んだ。少しずつ小さくなる飴を口の中で転がしながら、ポツポツと事情を話しはじめた。
「あの……わたしはお城の、せんたく室ではたらいていて……」
* * *
西区の番所に到着したヒューゴは、愛馬から飛び降りた。馬場へと繋ぐ手間さえ惜しんで番所のドアノブに手をかける。
(ミーヤ! どうか無事でいてくれ!)
心の中で叫んだ瞬間、『パンパカパーン』と例の安っぽいファンファーレが鳴り響いた。
《守護者レベルがアップしました。変身スーツ・タイプ『平民父ちゃん』を入手しました。変身しますか?》




