第三十話 報償金のつかいみち
報償金、ちょっと増やしました。金貨200枚です。前出部分は修正済み。
洗濯室に勤務している下女たちは、皇帝陛下から届いた金貨200枚という大金に、皆が大変なテンションで盛り上がった。
現在定期的に洗濯室へと通っているメンバーが十五人。その他には週に一回程度出勤する者が三人。月に何度か不定期で来ている者が二人。
話し合った結果、その二十人全員できっちり頭割りにすることになった。
一人頭10枚の計算である。
金貨10枚といえば、一般的な平民家族が二ヶ月は暮らせる金額だ。令和の日本でいうと50万円くらい。
「ああ、ちょっとお待ちよ。イレーヌは報告係りを引き受けてくれたんだから、その分いくらか多く貰うべきじゃないかい?」
乾物屋のおかみさんが、店から持って来たソロバンをパチパチさせながら言った。
「そうだよねぇ、陛下と交渉してくれたんだろう? 公布されていた報償金よりずいぶんと多く貰えたもんねぇ!」
「そうだよ! 待遇も良くなって給料も上がるってぇ話なんだろう? イレーヌ様々だよ!」
イレーヌは恐縮して『それは、たまたまよ』とか『みんなで分ける方が公平だわ』などと言っていたが、エレンが『んじゃ、ヨシュア坊の取り分にしようぜ』と言ってくれたのでありがたく頂くことにした。
「お言葉に甘えるわ。正直言うとすごく助かる。ヨシュアを上級学校に行かせてあげられるかも知れない……」
イレーヌが少し涙目になって言った。
洗濯室はその勤務形態の性質上、結婚して子供もいる女性が多い。だからだろうか、まだ成人したばかりのイレーヌが、幼い弟と肩を寄せ合うようにして暮らしているのを何かと気にかけている。
「ヨシュア坊は賢いからね! きっとお城の文官にだってなれるさ!」
エレンがイレーヌの背中をバンっと叩きながら言った。エレン以外の下女たちは、ヒヤッとした。
エレンはよく言えばサッパリした裏表のない性格なのだが、細やかな気配りは出来ないタイプだ。だからこそ、元貴族のイレーヌ姉弟と気兼ねなく付き合えているのだが。
たとい没落した貴族家の娘だとしても、イレーヌは高い教育を受けている。裕福な平民の家庭教師や大きな商会の事務仕事など、イレーヌこそいくらでも割の良い職場が見つかるはずなのだ。普通に考えたら洗濯下女などしている人材ではない。
その事情に気づいている、エレン以外の下女たちが気遣わしげにしているのを見て、イレーヌは少しだけ困ったように笑った。
* * *
さて、報償金の金貨は当然ミーヤの分もある。だがヒューゴの半飼い毛玉の座に収まったミーヤは、現在衣食住には全く困っていない。何しろ『皇帝陛下の寵愛する毛玉様』なのだ。
辞退することも考えた。ミーヤは捕獲された側であって、何ら貢献していないのだ。しかも逃げ回ってけっこう楽しんでしまった。
けれどミーヤは欲しい物がないわけではない。今までは『生きのびる』が目標の野生の毛玉だったのだ。洗濯下女の給料でも食べ物以外の買い物はしたことがない。
ミーヤは『半野良』の野良部分……つまり森の棲家を充実させることにした。
(まずは、ツリーハウスだよね!)
ミーヤは前世が日本の小学生だったため、ツリーハウスには並々ならぬ憧れがある。人間用のそれを作るとなると職人を雇うなどしなくてはならないが、毛玉用ならば自力でも何とかなるだろう。
ミーヤはまずは、商店街のペット用品を売っている店へと足を運んだ。
(わぁ、色々ある!)
アウステリア皇国では、数年前から貴族や裕福な平民の間でペットブームが巻き起こっている。そんなお大尽さま向けの高級ショップであるこの店は、それなりにお高い値段に相応しいきらびやかな品々を数多く取り扱っている。
「いらっしゃいませ! 本日はどういった品をお探しですか?」
店に足を踏み入れた瞬間に、店員に声をかけられた。ミーヤは今日はヒューゴがあつらえてくれた平民服ではなく、拾ってきて自分で繕った古着を着ている。
店員はニコニコと笑ってはいたが、ミーヤを侮る雰囲気を隠していなかった。貧乏人はお呼びじゃないのよ的な感じがありありと見てとれるのだ。
「えっと、あの……小さな……うんと、どうぶつ用の……家? 小屋を……」
ミーヤは知らない人に声をかけられて、しどろもどろになってしまった。
「失礼ですが、予算はいかほどで?」
最近は洗濯室のみんなやヒューゴに甘やかされていたので、冷えた視線に晒されて、つい思わずの半ベソだ。
「あ……あの……ぐすっ、き、金貨5枚くらい……?」
「えっ?」
ミーヤが斜めがけのバッグの中身の金貨を見せると、店員はギョッとして声を上げた。
「そ、そのご予算でしたらオーダーメイドも可能でございますが……少々お待ち下さい」
店員はミーヤに椅子をすすめると、店の奥へと向かった。
「店長! 小汚い子供が、バッグに金貨を何枚も持って来店しました。スリか置き引きじゃないでしょうかね?」
「それは困ったな。犯罪者相手に商売すると店の評判が落ちる」
ミーヤよ、この店はいかん。完全なアウェイだ。そもそもどうしてひとりで何とかなると思った?
「とりあえず駐在を呼んで来い。子供は私が相手をする」
店長と呼ばれた男が、若干引き攣った笑いを浮かべながらミーヤの座る椅子の前のソファに腰を下ろした。商談のためのスペースらしい。
「お嬢さん、お望みの品は何かな? あまり高額な商品は、出来れば保護者の方と一緒に購入してもらいたいのだがね」
意外にも真っ当な提案だった。けれどミーヤの保護者は皇帝陛下だ。気軽に連れて来て良いのだろうか? いやヒューゴならホイホイ来そうだけれど。
そうこうしているうちに、駐在さんと呼ばれている、街の巡回兵が店に入って来た。
「盗人の子供はお前か? 一緒に番所まで来てもらおうか」
一気に悪くなった状況に、ミーヤはパニックに陥った。
(ど、ど、どうしよう! わたし、牢屋に入れられちゃうの?!)
ミーヤはあぐあぐと言葉も出せず、心の中でヒューゴに助けを求めた。それは途方に暮れたミーヤの、無意識に近い心の叫びとなった。
(へーか! 助けて……怖いよぉ……!)
その時、城の執務室で書類に目を通していたヒューゴの頭の中でピコンという効果音が鳴った。
《ミーヤが窮地に陥ってあなたを呼んでいます。守護者としての責務が発生しました。すみやかに現地に向かって下さい》
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