第二十話 アップデート
少し短いですが、キリの良いところで投稿しちゃいます。
前話のあらすじ
ヒューゴの様子を見に行ったミーヤと、ミーヤの気配を察知したヒューゴ。人間の姿のミーヤにとっては、初めての接近遭遇。不審者と間違われそうになったのを、誤魔化しつつ、最後は頭を撫でてもらい優しく見送られます。
その時、ミーヤの頭の中でアップデートのお知らせが流れました。
《“だいしゅきポイント”が入りました。新たなポイント獲得に伴い、アップデートを開始します》
ミーヤの頭の中で、すっかりお馴染みとなったアナウンスが流れた。
(あっぷでーと……? なんだっけ? 聞いたことある気がする……!)
ミーヤは妹尾美弥時代の記憶を手繰り寄せる。確かクラスのゲームの好きな男子に、教えてもらったことがあった筈だ。
アップデートとは、システムやデータを最新のものに置き換えることだ。その男の子は、『アプデしないと、ゲームが進まなくなっちゃったりするんだよ』と言っていた。
現状に当てはめて考えた場合、『だいしゅきポイント』なる新要素が追加され、そのためにシステムを更新する必要があるのだろう。
だがしかし。
この場合、アップデートされるのはミーヤなのか。それとも、この世界そのものなのだろうか。
いや……考えるのはやめた方が良い。たぶんそれは禁忌とか、触らぬ神に祟りなしとか、そういった類いの話だ。クワバラクワバラ……!
* * *
ミーヤはアップデートについては、ほとんど思い出すことが出来なかった。実は聞いた当時もよくわかってはいなかったのだ。
それよりも、ミーヤ的にはもっと気になることがある。
(『だいしゅきポイント』ってなんだろう……?)
ミーヤはヒューゴと別れたあと、城門を出て商店街を目指して歩いていた。ヒューゴの無事も確認出来たことだし、予定通りに買い物をしてから森へと帰るつもりだ。
(だいしゅき……)
誰が、誰を大好きなのだろう。
愛されポイントは文字通り、毛玉の愛され具合が数値化されたものだ。規定の数値まで貯まったタイミングで『何かを生やす』という形で消費される。
(愛されポイントとは、別モノなんだよね?)
アナウンスがあったのは、ヒューゴが頭を撫でてくれた直後だった。そのタイミングで発生した『だいしゅきポイント』。その場にはミーヤとヒューゴしかいなかった。
だとしたら、『ヒューゴがミーヤを大好き』、又は『ミーヤがヒューゴを大好き』のどちらかではないだろうか?
ヒューゴは毛玉のミーヤをとても可愛がってくれている。それはミーヤも理解している。
(でもあの時は、毛玉じゃなかったし……)
人間のミーヤとヒューゴは、ほぼ初対面だ。実際には建国記念祭の舞踏会で、遠くの方にいるヒューゴと目が合ったことがある……ような気がしている。
(頭をなでてくれたから、嫌われてはいないだろうけど……)
大好きではないだろう。ふむふむ。消去法で選択肢がひとつになった。
(わたしがへーかを大好きなの……⁈)
思わず立ち止まってしまい、後ろから来た人とぶつかってしまった。ペコペコと頭を下げる。
好きか嫌いかで言ったら、もちろん好きだ。甘やかしてくれるし、美味しいものをくれるし、何より正式に契約が成立した『守護者』なのだ。嫌いなわけがない。
でもそれは毛玉の時の話だ。
人間のミーヤとヒューゴは、雇用主と従業員の関係でしかない。関わりといえばヒューゴの洗濯物も、洗濯部屋に運ばれて来ることぐらいだ。
そういえば今日も、ヒューゴのシャツが洗濯に出されていた。ミーヤは人間の姿の時でも鼻の性能が良いので、ヒューゴの匂いはすぐにわかる。
(くんくん……! あっ、コレ……へーかのシャツだ!)
ヒューゴのシャツを見つけた時は、何だか嬉しくなった。毛玉の時には世話になるばかりなので、少しでもヒューゴの役に立とうと、張り切って洗濯した。
ちなみにシャツの汚れは、ミーヤが夕食のあとにヒューゴのお腹の上でお菓子を食べたからなので、恩返しになっているかどうかは微妙なところだ。
くんくんとシャツの匂いを嗅いでいるミーヤに、女将さんが『ミーヤどうしたんだい? ……臭いのかい? ソレ』とちょっと嫌そうな顔をして聞いた。
ミーヤはヒューゴの名誉を守るために、ぶんぶんと首を振って『良い匂いだよ!』と言っておいた。
そうしたら、『嫁入り前の娘が、男物のシャツのニオイを嗅いでニヤニヤするもんじゃないよ』と、小言をもらってしまった。元令嬢も微妙な顔をしている。
(この世界の人は、洗濯前のシャツをくんかくんかしちゃダメなんだ!)
ミーヤよ……君の前世の日本でも、ソレはちょっとアウトだと思う。人前ではやめておけ。
「こ、これはへーかのシャツだから!」
ミーヤは慌てて弁解した。『臭いものを嗅ぐのが好きなわけではない』と言いたかったのだ。
「へぇ、ミーヤ。陛下のファンなんだ?」
恋バナが大好きな農家の娘さんが、がっぷりと食い付いて来た。
「あ……ちがうの。へーかのシャツの匂いが……」
「陛下のシャツの匂いが好きなの⁈」
ヒューゴのファンだと思われるのが、何だか恥ずかしくて誤魔化したら、より一層変態っぽい返事になってしまった。『〇〇くんが好き』などと噂になったら、大変な騒ぎになる小学生女子の記憶の弊害である。
なぜかヒューゴの洗濯物は、これからミーヤの担当になることが決まった。
そんな、洗濯場での今日のハイライトをボーッと思い出していたら、ミーヤはすっかり通行人の邪魔になっていた。重そうな荷馬車を引いたおじさんに、ジロリと睨まれてしまった。
そそくさと道のはじっこへと移動する。そして半分無意識のうちに、自分の身体をくんくんと嗅いだ。
つい昨日までの毛玉のミーヤは、ヒューゴと同じ匂いがしていた。ヒューゴと同じシャンプーで毛並みを洗い、同じ香油で毛並みを整えてもらい、ほとんどの時間をヒューゴのシャツの中で過ごしていたのだ。匂いが同じになるのは不思議なことではない。
けれど、たった一日離れただけなのに。
ミーヤからは、洗濯洗剤とシミ取り油と漂白剤の匂いがした。洗濯下女は、全員が仕事終わりはこの匂いになる。
ミーヤの小さな頭を包むように撫でた、ヒューゴの大きな手の感触を思い出す。
『さあ、もう行くが良い。気をつけてな』
眉間の皺をそのままに、甘く低く響いた声が脳内再生される。
(わ、わたしが、へーかが『だいしゅき』なのかも……!)
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