第十三話 早速、尻尾を使ってみよう!
前話のあらすじ
森に帰りたくなったミーヤは、置き手紙を書こうと思い『愛されポイント』を使って尻尾を生やしてもらうことにしました。どんな尻尾が生えるのでしょう。上手く使うことが出来るでしょうか。
そして、その性能はいかに……!
《了解しました。色や形状を詳しく設定して下さい》
翼を生やす時は、見た目ばかりを指定してしまった。結果、白くてパタパタ羽ばたく小さな翼は『可愛い』は申し分ないが、蝶や蚊ほどの飛行性能しかない。
ミーヤは鍛えれば、ツバメのように速く飛んだり、大鷹のように高く飛んだり出来るようになると、諦めないで頑張るつもりだ。だが本心では、それが困難な道のりになるだろうこともわかっている。
それを踏まえて、今回は性能重視で行くことにした。間違っていない。日々、成長する毛玉……それがミーヤなのだ。
だからミーヤは、アナウンスさんのダメ出しが来ても、慌てず焦らず、じっくり考えることにした。時間制限がないことは確認済みだ。
(えーっと、筆として使うとなると、ライオンみたいな感じ……かなぁ。フサフサ部分は毛並みと同じ色。使わない時は邪魔にならないように出来ると良いな!)
出来れば猿のように尻尾で木の枝にぶら下がったり、象の鼻のように便利に使いたい。
『それなら、手を生やしてもらえば良いんじゃない?』とも思うが、想像してみて欲しい。モコモコの毛玉にニョッキリと手が生えていたとしたら……。その姿はどう考えても妖怪寄りなのではないだろうか。
実はミーヤも『手が欲しい』と思って、アナウンスさんに聞いてみたことがある。《一本ずつになりますが、宜しいですか?》という返事が返って来た。
非常に宜しくない……。ギチギチとか、ギョエーみたいな鳴き声が聞こえて来そうだ。妖怪感が半端ない。
じっくり考えて、丁寧に伝えて、慎重に尻尾を生やしてもらった。今回、注文が多かったので、一回分のポイントでは足りずに、二回目分に少し割り込んでしまった。どうせなら鳴き声もセットでお願いしようかと思っていたのだけれど。
(またすぐに貯まる! そしたら次に、可愛い鳴き声を生やしてもらおう!)
鳴き声とは生えるモノなのだろうか……。システムは声帯を作ることを生やすと定義してくれるだろうか? まあ……試してみれば良いことだ。次の機会を楽しみにするとしよう。
(森に帰っちゃうと、今よりへーかに会えなくなっちゃうなぁ。でも……きっとまた会いに来てくれるよね!)
ヒューゴはほぼ毎日のように森に通って来ていた。会えないこともあったが、それはタイミングの問題だ。
家族も友達も恋人もいないし、趣味もない。健康と筋肉を保つ程度の鍛錬以外では、さんざん戦場で人を屠って来た剣を握るのも余り好きではない。ヒューゴはミーヤに出逢う以前から、ほんの少しの余暇でさえ持て余していたのだ。
そ……そんな皇帝陛下を……ミーヤは置いて森に帰るのだろうか。ちょっと考え直してみてはどうだろう?
「さーっ! 尻尾の性能を確認して……へーかに手紙を書こうっと!」
置いて帰るらしい……。タイトルを『冷酷皇帝陛下に〜』ではなく『冷酷毛玉が〜』とかに変えた方が良いだろうか……?
* * *
さて、仕様確認である。本当は鏡で尻尾の生えた全身を見てみたいのだけれど、振り返って後姿を見るのは毛玉には無理なのだ。非常に残念だが、合わせ鏡をしない限り不可能だ。現状ヒューゴの寝室に手鏡はない。
ミーヤは尻尾が邪魔にならないか、コロコロ転がってみることからはじめた。多少の異物感はあるけれど、以前と同じように転がることが出来た。飛び跳ねる際のバランスも問題ない。パタパタと羽ばたいて飛んでみたが、それにも影響はないようだ。
次にニョーンと伸ばしてみた。伸ばすとようやく尻尾の様子を見ることが出来た。注文通りにライオンの尻尾に似ていて、先っぽがフサフサだ。そして思ったよりも、ずっと長く伸びる。
どうやら、ゴムのように伸び縮みするのではなく、掃除機のコンセントのように収納されているようだ。引っ張ると出て来て、離すとシュルシュルと引っ込む。そんな感覚に近い。
小さな毛玉の身体の、どこに収納されているのか気になるところだが、この世界の仕様書を見ることが出来ない以上、考えても仕方ないだろう。
ニョーン、シュルシュル! ニョーンニョーン、シュルシュルシュル!
ミーヤは何だか楽しくなって、ついついエンドレスでニョーン、シュルシュルを繰り返してしまった。そしてハッと我に返る。
妹尾美弥だった頃、掃除機のコンセントを出し入れして遊んでいて、壊してしまったことを思い出したのだ。壊れたコンセントはデロリンと伸びたまま、戻らなくなってしまった。
美弥のお母さんは『仕方ないわねぇ』とボヤキながら、束ねたのちに結束バンドでキュッとして使っていた。
危なかった! 危うく、尻尾を背中でキュッと束ねて暮らす毛玉になるところだった……! そうしたら『仕方ないわねぇ』では済まなかっただろう。
ミーヤは『必要性』と『適度』について学んだ。また少し賢くなった!
アナウンスさんには、『頑丈で力持ち』『思った通りに動かせる』と注文をつけた。ミーヤは期待感に胸を膨らませながら、適当に伸ばしてブンブンと振り回してみた。
空気抵抗が新鮮だ。そしてなかなかの操作性だ。
(悪くない! むしろ……かなり良い気がする!)
徐々に長くして、自分用のクッションをパスパスと叩く。攻撃力とまではいかないが、これならばヒューゴをトントン叩いて『ねぇねぇへーか!』みたいに呼ぶことが出来るだろう。
(あとは……どのくらい力持ちかな!)
何かを持ち上げてみたい。ミーヤはヒューゴの寝室の中を見回して、持ち上げられそうな物を探した。
花瓶……は、見るからに高級そうだし、見上げるくらい大きくて水も入っている。おそらく、とても重たい。
(それに、落として割れたら大変だよね……)
ミーヤはパタパタと羽ばたいて、ベッド脇の文机へと移動した。ヒューゴの読み差しの本が何冊かあった筈だ。本なら落としてしまっても、そうそうは壊れないだろう。
シュルシュルと巻きつけて、そっと持ち上げる。
(出来た! ちゃんと力持ちだ!)
驚いたことに、ハードカバーの分厚い本が、軽々と持ち上がった。そっと下ろして元の場所に戻す。繊細な力調節も難なく出来る。
(これ……すごく便利かも!)
ヒューゴが本を読む時に使う、サイドランプにぶら下がってみた。尻尾の長さを変えながら、ブラーンブラーンと揺れてみる。
(た、楽しい!)
調子に乗って、鉄棒の大回転のようにグルグル回っていたら、酔ってふらふらになってしまった。だが、念願の『尻尾でぶら下がる』が出来たので、ミーヤは非常に満足だった。
吐き気と眩暈が治ると、ホクホクと文机の上のインク瓶へと尻尾を伸ばした。瓶の蓋にシュルシュルと巻きつけてキュッと捻る。カポンと小さな音を立てて、蓋が外れた。
(筆みたいに、上手く使えるかな?)
ミーヤはチャポンと尻尾の先を、インク瓶の中に差し入れた。妹尾美弥だった頃の、小学校の習字の時間を思い出す。筆の先を揃える要領で尻尾を瓶の縁に押しつけて、ついでに余分なインクを切る。
皇帝陛下の寝室にあるのは、もちろん高級仕様のメモ用紙だ。以前ヒューゴが、経費削減のために裏紙の使用を提案したが却下された。『皇帝の品位の問題です』と説明されたが、ヒューゴは納得いかなかった。
『皇帝の品位』。そんなものはミーヤの頭の花よりも役に立たない。
現に、国旗の透かし模様が入った『皇帝の品位を保つための高級メモ用紙』は、毛玉が拙い文字を練習するために使っている。
ミーヤはまず、自分の名前を書いてみた。
『ミーヤ』
何度か書いて練習してみる。お世辞にも上手いとは言い難い幼さのにじむ文字だが、読めないことはない。
次にヒューゴの名前を書こうと思って尻尾が止まった。ミーヤはヒューゴを『へーか』と心の中で呼んでいる。
実はミーヤはヒューゴの名前を知らないのだ。
洗濯下女のみんなは『皇帝陛下』とか『陛下』と呼んでいたし、実際庶民には皇帝の名前などどうでも良いのだ。ましてや、ヒューゴは恐ろしい噂の付きまとう冷酷皇帝と名高い。親しみを込めて名前を呼ばれるタイプとは程遠い。
ヒューゴのフルネームは『ヒューゴリウス・アウステリア・リミュエール』。その名を呼ぶ者はいない。
なぜならヒューゴには、家族も友だちも、恋人もいないからだ。
そんなヒューゴの事情を知らないミーヤは、単に置き手紙を書くなら記名が必要だと思い、寝室内の家探しをはじめた。
やがて見つけた記名のあるヒューゴの私物。ミーヤはそれを見ながら、辿々しい文字でヒューゴのフルネームを書き記した。
その瞬間……。
ミーヤの身体は眩ゆいばかりの、真っ白い光に包まれた。
ミーヤに何が起こったのか。
でも、ごめんなさい。次はヒューゴとお城の人たちのお話なんです。ちょっと待っててね!
次話『毛玉がいるお城生活 byヒューゴとお城の人々』
ミーヤを溺愛するヒューゴの様子と、そんなヒューゴに驚くお城の人々……。そして意外なところから綻んだヒューゴの隙に、女豹たちが群がります。




