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夢と現実のヒーローショー  作者: やみの ひかり
7/18

07話 暗い森

 近藤(こんどう)先生と面談をした里美(さとみ)が、体を重たそうにして帰ってきた。


「……」


 無言で帰ってきた里美に誰も話しかけようとしないので、(さとる)は勇気を出して聞いた。


「その…… どうだったの?」

「ここの研究室は子供の人体実験をする場所なんだって」

「何言ってるんだよ。ウイルスで人が死んじゃって隔離してるって話だろう? 子供は未来への希望だって。ここは人類の砦だって」

「違う……」

「ここは人体実験の場所? たしかに実験してるけど、それは僕たちが幸せになるためだよね? 夢の世界を自由に創り直し、夢を共有させる。現実では出来ないことを可能にする」

「なんのための実験をしているのかは近藤先生にも分からなかった。でも外では自由に人々が生活しているんだって。ウイルスなんて無いの。そして私たちの記憶が無いのは、マインドコントロールしやすいように消されたからなんだって。みんなで逃げよう。悟を殺させたりはしない」

「嫌だよ。だって特別な施設へ行けばここよりもっと良い生活が出来るんだ」

「それは嘘よ。成績が悪い子供や、見込みがない子供は殺される。お願い。みんなで逃げましょう」

「逃げるってどうやって? ドアには鍵、窓には鉄格子が付いているじゃないか?」

「この部屋のドアの鍵なら近藤先生にもらったわ。今夜、近藤先生が施設の裏のドアを開けておいてくれる。0時になったらここを出ましょう」


 里美はポケットから方位磁石とペンライトを取り出し悟に見せた。


「外へ出たら、森の中をひたすら北北東に歩きなさいって」

「夜中に森の中なんて怖いよ」


 この施設は森の中にある。施設に繋がっているのは先の見えない一本の道だけだった。


「駄目よ!! 昼間になんて逃げたらすぐに見つかっちゃうわ。みんなで行くの。誰も置いていかない!!」


 里美の提案を聞いて否定するものはこの部屋に誰もいなかった。みんな薄々おかしいと感づいていたんだろう。


(こんなの嘘だ。こんなことないよ。里美と夏生(なつお)が僕をだましているんだ。特別な施設はここよりも良い暮らしが待ってるはずなんだ。でも里美と夏生があんなに真面目な顔でこんな嘘をつくのかな……)





 チッ チッ チッ チッ


 壁にかかった時計の針が0時になろうとしている。その日の秒針はいつもよりもうるさく、恐ろしく聞こえた。


(本当にやるつもりなの? 近藤先生の話を鵜呑みにしちゃって良いの? たしかに、施設に送られた友達と一切連絡が取れなくなるのもおかしい。やるしかないの? 止めるなら今しかない)


 23時59分、あと10数秒で0時なる頃だろうか。0時になるのを待てない里美が起き上がり、ペンライトの光を付けみんなを起こして回った。


「悟。起きて」

「う、うん……」


 明確な意思の無い悟は、里美を止めることはできなかった。


 ガチャ


 里美が扉の鍵を開けると、子供達は身を寄せ合い慣れ親しんだ部屋を後にした。建物の外に出るまでにそう時間はかからなかった。風に揺られて木々の葉がこすれる音が、引き返せと言っているようだった。


(怖い…… 戻りたい……)


 子供達は沈黙したまま先頭の里美を頼りに進んでく。森との境界線の柵を乗り越えようとしたその時だった。


 ジリリリリリリリリリリリ


 静まり返った深夜の森にけたたましいサイレンが鳴り響いた。


「みんな走って!!」


 里美の声に、子供たちは一斉に柵を飛び越えて森の中へ走っていく。


(だから嫌だったんだ。こんなこと。もう逃げるしかない。後戻り出来ない)


 しばらく無我夢中で走り続けると、悟と里美と夏生の3人になっていたことに里美が気づいた。


「待って、みんなはどこ?」


 心配そうに辺りを見回す里美。


 ハァ ハァ ハァ ハァ


 悟も足を止めて後ろを振り返ってみたが、3人以外に見当たらなかった。


「わからない…… サイレンが鳴ってから後ろを見てなかった」


 夏生は来た道を振り返りながら、覚悟を決めた表情で二人に言った。


「俺みんなを探してくる。みんなが心配だ。先に行っててくれ」

「今戻ったら何されるかわからない。待って夏生」


 夏生は悟の言葉を無視し、暗い森の中へ消えていった。里美と二人残された悟は、里美につい当たってしまう。


「どうするんだよ!! 里美が決めたことだろう!? 僕は嫌だったんだ!!」


(何を言ってるんだ僕は。里美は僕のために行動してくれたのに)


「私に全ての責任を押し付けないで!! 私は悟を思ってやったのに!! 悟だってついて来たじゃない!! じゃあ、なんで反対しなかったの!? なんで止めなかったの!?」

「そうだけど…… だってさ……」


 パンパン


「わっ」


 夏生の消えた方向から銃声のような音が鳴り響いた。


「今銃声だよね? 夏生がやられた?」

「……」


 里美は銃声が鳴った方向をにらむと、ペンライトと方位磁石を悟に渡してきた。


「私もみんなを探してくる。私のせいでみんなを巻き込んでしまったから」

「いやそんなことは……」

「悟は先に行って、悟だけでも助かって欲しい」

「そんな…… 待って!!」


 暗い森の中に里美は消えていった。悟は里美を止められなかった。


(どうしようどうしよう。怖いよ)


 ガタガタガタガタ


 暗い森に1人取り残された悟の体が小刻みに震えだす。


 パンパン


 里美が消えた方角から2発の銃声が鳴り響くと、気が付いたら方位磁石の北北東に走り出していた。悟は一人逃げたのだ。


(ごめんなさい。ごめんなさい)


 そこからの記憶はあまり残っていない。森を抜け出し道路に出ると一台の車が止まり、今の事務所のビルの西川(にしかわ)オーナーに拾われた。その後、西川オーナーは身寄りの無い悟を養子にしてくれた。


 西川オーナーに車谷(くるまたに)研究所のことは思い出さないようにと言われ、悟は研究室のことを忘れようとしたが、悟の心にトラウマとして今も残り続けている。

続きが気になる方は、ブックマークをお願いします。


そして、この下にある☆☆☆☆☆で評価してもらえると、とてもとてもうれしいです。


さらに、その下の感想もお待ちしております。一言だけでも、猫がパンダに見えてしまうほどうれしいです。


更新頑張ります!! 物語は続きます。

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