04話 ハッピードリームマシーン
所狭しと異形なものが置かれた部屋の中。西川悟は絵を見せながら、友人の上島剛太に問いかけた。
「この機械知っていますか?」
「知ってるような、知らないような」
剛太は悟が書いた絵を一瞬だけ見ると、すぐにパソコンのネットオークションの画面に視線を戻した。
先日、車の中で音もなく消えていった女性の首に取り付けられた機械を、悟は剛太に見せるために描いてきたのだった。
(わざわざグレートサトルがこんな汚い部屋に来ているのに。なんなのですその態度は? ネットオークションに夢中になるといつも待たされる。もう少し気を使ったらどうなんだ)
ここは怪奇コレクターである剛太の家。取集した怪奇コレクションは所狭しといたる所に雑多に放置されている。
「これどこに置けば良いですか?」
「あぁ、適当に置いておいてくれ」
大量の食料を詰めたビニール袋を少し持ち上げて剛太に見せるも、剛太の反応は冷たい。
(グレートサトルが食料を届けたあげたのに、感謝の言葉のひとつもない)
あまり外に出ない剛太を心配した悟は、喜ぶだろうと思いビニール袋いっぱいに食料を買ってきたあげたのだった。だが悟の優しさは剛太の前では無に等しかった。
「ちょっとは片づけたらどうです?」
「後で片づけるさ。別に支障は無い」
「これではお客さんなんて呼べないでしょう?」
「なに言ってるんだ。こんな部屋でも悟が来てくれてるじゃないか? 別に呼びたい相手もいないし、自分が良ければそれで良い」
「……」
(これでよく生活出来るもんだ。足の踏み場も無い。そのくせ踏んでしまうと猛烈に怒る。なぜ剛太と私は友人になったんだろう? 過去の私に止めておけと言いたい)
「ここ入れときますよ」
悟が大きく顔の描かれた空っぽの壺に入れようとすると、ものすごい剣幕で剛太に止められた。
「ちょっと待った!! 何やってるんだ!! フォルナスの壺には入れるな!! すぐに腐ってしまう。その隣のリグラの仮面の上にでも置いといてくれ」
「あぁ…… これかな?」
その隣の裏返った大きな仮面の上に、言われた通り食料を詰め込んだビニール袋をそっと乗っけた。人間の顔には合わないその大きな仮面は、リグラの仮面というらしい。その仮面を付けた人間を想像すると、4メートルはいくだろう。仮面の内面は巨人から型を取ったような皮膚感もあり、やけに生々しく気持ち悪い。
(また増えてますね。よくこんなわけわからない物を取集する。このままでは剛太は物に埋もれ、窒息死してしまうんじゃないか? 触ろうにも触れないし……)
「これは偽物だな。こんな金額を付けてどうするんだ」
剛太はネットオークションに夢中でこちらを全く見ようとしない。
「あのー、知ってるなら教えてください」
「うーん。知らないほうが良いと思うよ。悟の幼少期に関わることだから」
「え? もしかして車谷研究所がらみなのですか? だってあそこはもう壊滅したでしょう?」
「あー、そうだったね。これは!? アストロネカプの鏡!! 本物だったらとんでもないことだ!! しかし高いなぁ」
「私の話を聞いてくれ!!」
ネットオークションに夢中過ぎる剛太に段々と腹が立ってきた悟は、声のボリュームを上げていった。
「あぁ。ごめんごめん。なんの話だっけ?」
「だから!! この機械を知ってるかって話です!!」
悟はパソコン画面と剛太の顔の間に機械の絵を滑り込ませた。剛太は少しビックリして、仕方なくこちらを向いてくれた。
「おっとととと。そんなにすぐに怒るなよ。これと同じような機械を売ってるヤツがいるのは知ってるよ。なんでも、幸せな夢を見せてくれる機械として売ってるみたいだ」
「本当ですか!? 詳しく教えてください!!」
「あまり教えたくないな。そいつは裏の世界とつながっている」
「それでも良い!! 教えてくれ!!」
「それと、それは車谷研究所の技術が使われている。大丈夫なのか? 悟のトラウマだろう?」
「大丈夫だとも!! 今はあの頃よりも成長し強くなった。今はみんなが私のことをグレートサトルと呼ぶ!!」
悟は胸を張って見せたが、剛太の目は冷ややかだ。
「へー、知らなかった。はじめて聞いたよ。それって疲れない?」
剛太がパソコンに再び向き合うと、プリンターが動き出し地図が印刷された。プリンターを指差し剛太が言った。
「今日ここで販売人との取引がおこなわれる。慎重に行けよ。遠くから見るだけだ。販売人との接触はダメだ。分かったならそれを持って行くと良い」
「ありがとう!! 感謝します!!」
悟はコピー用紙を取ると、剛太の家を後にした。
とあるワンルームマンションの玄関の前、悟は迷っていた。
悟は剛太に教えてもらった地図を元に、繁華街の寂れた路地裏で販売人と青年との取引現場を遠方から監視していた。
取引が終わり。販売人を尾行しようとしたのだがすぐに見失ってしまった。仕方なく怪しい機械を買った青年を尾行し、青年の家の前まで来たのだった。
すでにあたりは暗く静寂な住宅街は静まり返っていた。
(終電までに帰れますかね? どうしましょう? 剛太には接触するなと言われましたし。でも販売人と接触するなということは、買った人とは接触しても良いということですよね。少し話を聞くだけです)
ピンポーン
覚悟を決めた悟はインターホンを押してみた。だが何の返答も無い。
「……」
(音沙汰が無い。たしかについ先ほどここに入っていったんですがね…… うーん。どうしましょうか)
悟が悩んでいると玄関のドアがひとりでに開いた。
「えぇ!?」
(勝手に開いた!! なんだか怖いな……)
「すみません。ごめんくださーい」
「……」
「入りますよー」
悟は辺りを見回し誰もいないことを確認すると、恐る恐る部屋の中へ入っていった。
生活感がある真っ暗な部屋にはテーブルランプだけが灯っていた。その横のベットに青年が寝ており。首に機械を付けおだやかに寝むっていた。
「あのー。すいません。聞こえますか?」
スゥー ハァー スゥー ハァー
悟の問いかけに青年は起きる素振りは全く無かった。青年の目の下には濃いクマが出来上がっていた。
(久しぶりの睡眠といったところでしょうか。話を聞くだけのつもりだったんですが…… 私も夢の中へお邪魔しましょう。あの消えた女性は私に助けてと言った。その理由が知りたいのです。すみません)
悟はポケットからアルミのケースを出すと、そのケースから1錠の薬を取り出し飲み込んだ。
スゥー ハァー
深く息をすると、壁にもたれかかり床にうずくまった。悟はゆっくりと目を閉じた。
悟はゆっくりと目を開け状況を判断した。
(夢の中ですね。しかし、絵に描いたような幸せな光景だ)
そこは遊園地の真ん中。雲ひとつない晴天の元人々が楽しそうに遊んでいた。
「風船いかがですか?」
「じゃあ、ひとついただきます」
悟は遊園地のスタッフに風船をもらうと、
プシュウー
HAPPYの文字が書かれた風船は、すぐに空気が抜けてしぼんでしまった。
(なんだか不完全な夢ですね。柱や壁はよく見ると構造が単純だ)
遊園地の壁はのっぺりとしていて、正方形のブロックを積んだような構造をしていた。
(とりあえずあそこに行ってみますか。あそこだけ構造が複雑だ。おそらくこの夢の中心だろう)
遊園地の中心にシンボル的な城ががそそり建っていた。城のてっぺんには大きなパラボナアンテナが、空に向かって流れ星のような光を送受信している。
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