03話 彼女の夢
ザッバァーーーーーーン
西川悟は学校の廊下に波を起こすと、サーフボードを創り出しその波に乗った。顔が闇でおおわれた女子高生を通り過ぎ、
「手を伸ばしてください!!」
杉咲緑の手を握り引き上げると、サーフボードの前に座らせ顔が見えない女子高生から逃げた。
体育館裏まで来ると、悟は誰もいないことを確認し緑を降ろした。
「大丈夫ですか?」
「なんなのよこの有り得ない展開は!? ビショビショじゃないのよ!!」
「すみません。ここは夢の中ですよ。私は夢の中ではなんでも出来るんです。私は夢の中ではキングなんです!!」
悟は創り出したサーフボードを丸めてポケットにしまい、緑に手のひらを向け、温かい風を創り出し緑を乾かす。
「キングなんだったら早くあの子を消してよ!!」
「それは出来ないんです…… あれはあなたが作り出したもの。あなたが消さないと駄目なんです」
「全然キングじゃないじゃない!!」
「そう言われましても……」
(くぅうううう。たしかに、キングだったらそんなことも出来るかもしれません。私はキングではまだ無い…… いやいや、しょうがないじゃないか!! キングだって万能じゃない!! 全て出来る人が、キングだと言うのか!? そうだ。私は頑張ってるじゃないか!! 少しは褒めてくれたって良いじゃないか!!)
「もう乾いたから温風は良いわ。暑い」
「あぁ、すみません。ところでそのボロボロになった雑誌はなんですか?」
緑の手の中にさっきまで無かったボロボロの雑誌が握られていた。
「きゃあ!!」
ボト
悟は緑が気持ち悪そうに地面に落とした雑誌を拾い上げた。付箋が挟まれているページがあったので広げてみると、緑がおしゃれな服を着て雑誌に載っていた。
「これはあなたですか?」
「そ、そうよ!! 私はモデルをやってるの」
(確かに、緑さんは背も高く、手足も長い。一般人にはあまりいないタイプですね)
「ではなぜボロボロなんですか?」
「それは言いたくない」
「あなたは悪夢と戦わなきゃいけない。話していただけませんか?」
「……話さないと駄目?」
「はい。悪夢にあなたが勝たなければずっと続きます。私はあなたを守り、ガイドすることしか出来ないのです」
緑は下を向きゆっくりと話し始めた。
「その雑誌は私がはじめて1ページもらったものなの。それをあの子に貸したの。そしたらボロボロになって机に入っていた」
「それで緑さんは仕返しをしたというわけですか? 下駄箱の泥だらけの靴はあなたがやったんですね?」
「そうなんだけど…… 違ったの。あの子は裏でイジメられていて、いじめっ子に雑誌を見られてしまって、守ったときにボロボロになってしまったみたいなの。私はあの子がイジメられてるなんて知らなかった」
「その子はどこに?」
「あの子はそれをきっかけに引きこもってしまったわ」
「なぜすぐに謝りに行かなかったのですか?」
「モデルの仕事は学校に秘密でやっていて。雑誌をきっかけにいじめっ子達にバレてしまったの。いじめっ子達は、バラされたくなければあの子と縁を切れとおどされて…… きゃあ!!」
緑が向く方向を見てみると、顔を真っ暗な闇でおおった女子高生がこちらに歩いてきていた。
「来ないで!!」
「駄目です!! 前を向いて!! 悪夢から目をそらさないで!! その子が君を恨んでいると思いますか?」
「絶対に私を恨んでいる。じゃなきゃこんな悪夢見ないじゃない!!」
「これは君が生み出した想像の産物なんです。その子の名前は?」
「その子の名前は…… 香里よ!! ごめんなさい!!」
女子高生が足を止めると、真っ暗な闇が女子高生の顔から抜けていった。
「ごめんなさい!! ごめんなさい!! 私モデルの仕事続けたくて!! それでそれで」
「顔を上げてください。香里さんの顔は怒ってますか?」
「ううん。怒ってない」
顔の闇が解けた香里の顔は悲しい顔をしていた。
「私…… あなたとまた会いたい!! 会いに行っても良い?」
緑の問いに香里は笑顔を見せてうなずくと、夢の世界から色が抜け真っ白な世界に変わっていった。風景が少しずつ細い線になり消えていく。
(夢から覚めそうですね)
悟は夢の終わりを感じるとゆっくりと目を閉じた。
夢から目覚めた悟は、車で緑を香里の家まで送った。
「私、モデルの仕事が駄目になっても良い。こんな気持ちで続けるぐらいなら、香里と仲直りする。香里怒ってないと良いな」
「大丈夫。香里さんは怒ってませんよ。話せばちゃんと分かってもらえるはずです。それに、モデルの仕事はちゃんと学校に相談するべきです。きっと緑さんの話を聞いてくれる先生がいるはずです」
家の前まで行くと、悟は優しく背中を押し緑を後押しした。
「さぁ、行きなさい。あなたの親友が待ってますよ」
「ありがとう。あなたってグレートね」
「でしょでしょ!! 分かってくれたんですね!! 私は西川悟ではない。グレートサトルなんです!!」
「じゃあ、私は行くね。ありがとうグレートサトル」
「はい。お元気で」
(ヒャッホー!! グレートサトルと呼ばれたぞ!! 私はグレートサトルなんだ!!)
悟は興奮冷めやらぬ中、車の中に戻り緑を見守った。緑がインターホンを押すと香里が出てきて、二人は泣きながらきつく抱きしめ合った。
「ふぅー」
二人の姿を見届けた悟は安堵し肩の力が抜けた。
(任務完了です。良かった。今回は良い仕事したな)
「悟?」
「わぁっ!! いつの間に」
気づかない間に、助手席に機械の首輪を付けた女性が座りこちらを見つめていた。
「すいません。誰ですか?」
「私のこと覚えてない? 助けて……」
スー
女性は音もなく消えていった。
(どういうこと? これは夢ですか? 現実ですか? こわっ!! 鳥肌たった!!)
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