16話 ヒーローの誕生
夏生の合図でグレートサトルの撮影はスタートした。夏生にうながされてした鶴のポーズは意外と恥ずかしい。西川悟はすぐにバランスが取れずに里美が撮っているカメラの前で、次のポーズも思いつかず棒立ちになった。
(えっと…… どうすれば…… 何か話さなくては)
「全世界の人々よ!! 見えていますか? あのー、撮れてますよね? 私はみんなのヒーロー、グレートサトルだ!! えっと……」
何も考えてなかった悟はすぐに言葉に詰まった。それを見かねた夏生がカンペにセリフを書き、カメラの後ろで悟に見せた。
「あっと。世界中の人々よ。怪獣が私達の街を壊しています。みんなの力が必要です。私にみんなの想いを送ってください。そうすればグレートサトルは強くなる。みんなの力で怪獣を倒そうではないか」
悟が読むカンペは棒読みだ。背中からは怪獣の破壊活動の音が今も聞こえてくる。悟はこんな撮影よりも街が心配だ。
「カット!!」
監督になりきっている夏生はライブ配信を一度ストップさせた。悟の目にはこんな状況を楽しんでいるようにも見えた。里美がカメラの電源をオフにして下げると、夏生が悟の元へと歩いてきた。
「まだちょっとぎこちないかな? もっと、かっこよくやらないと視聴者数伸びないよ。わかってる? 悟にこの街の命運がかかってるんだからさ」
「う、うん。でも…… こんな方法で大丈夫なんですかね? なんだか夏生遊んでるみたいですよ」
「バカヤロウ!! こっちは本気でやってんだ!! 俺のことは監督と言え!!」
「すいません監督!!」
(いやいや、絶対遊んでますよ。こんなときに……)
夏生は悟の肩に手を回した。
「疑う気持ちは分かるさ。その首に付けてるDCチョーカーは自分の心以外にも人の心にも干渉するように出来ている。世界中の人々の思いが悟に集中すれば、いつも以上に創造の力が発生するはずだ。監督はそう信じている!! 監督を信じろ!! 自分を信じろ!!」
(本当かよ!! 自分のこと監督とか言ってるし…… 夏生のやる気に押されてしまっているけど大丈夫なのでしょうか)
「じゃあ反応を見てみようか」
悟は夏生と一緒にノートパソコンに映る動画サイトに書き込まれたコメントを見た。どれも酷い書き込みばかりだ。応援する声は二桁に満たない。
「やっぱり、みんな疑いの目で見てるじゃないですか!! それに視聴者数も少ない」
「まだ動画をアップしたばっかりだからさ。応援するコメントも少ないけど来てるだろ。どう? パワーが集まってくる感じある?」
「まったくです……」
(こんな作戦は失敗です!! ただ、恥ずかしい思いをしただけだ!!)
悟は怪獣のほうに視線を移した。怪獣の破壊活動は止まる気配は無い。今度はビルの窓を指で上から順番に割ってはしゃいでる。その姿は子供が障子紙にいたずらしているみたいだ。
「こんなことしてる場合じゃない!! 私はもう行きます!! 少しでも多くの人を助けるんだ!!」
悟はサーフボードを創り出し乗った。
「待てグレートサトル!! どこへ行く!!」
「もう無理です!! こんなことをして遊んでる場合じゃない!!」
「なに言ってるんだ。最高なアイデアじゃないか!! 行っても良いが絶対にマスクを取るな!! その格好でいろ!! グレートサトルでいるんだ!!」
風を創り出しサーフボートを浮かせると、悟は風に乗って怪獣の元へと上空を滑っていく。人々の叫び声と建物が崩れていく音。また一つ怪獣はビルを倒壊させた。
「えええええええん!! えええええええん!!」
怪獣の元へと向かっていると、女の子が泣いている声がどこからか聞こえてきた。悟は声のするほうへサーフボードを滑らせた。そこには瓦礫の下に敷きになり足を挟まれて動けなくなっている女の子がいた。
「今助けます!!」
女の子の元へと降り立つと、女の子は不安そうな顔でこちらを見てきた。
(そうだった。私は今ヒーローのかっこうをしているんだった。私が変な人では無いと安心させなくては)
「私はグレートサトル!! あなたを助けるために来ました。決して怪しいものではありません!!」
「……」
女の子の表情は変わらず渋いままだ。
(いや、怪しいよね…… だって、ヒーローはテレビの中のキャラクターだから成立しているのであって、現実の世界でこんな恰好したヒーローなんていない。現実にいるとしたら、コスプレイヤーか頭のおかしいヘンタイかのどっちかです。とにかく助けよう)
女の子の冷たい視線を感じながら、悟は瓦礫と床の間に氷の柱を創り瓦礫を浮かせると、女の子を引っ張り出した。
足が挟まっていただけで大した怪我では無いことを確認すると、
「早く遠くに逃げてください!!」
「……」
悟は女の子を怪獣から遠ざけた。女の子は無言で走り去っていった。女の子の後ろ姿を見ながら悟はため息をついた。
(無言で行ってしまった。でもこれで良いのです。見返りを求めるほうが変なのです)
「ヘンタイマン」
背中から誰かが小さくつぶやく声が聞こえた。声の方を振り向くと男性がこちらにスマートフォンを向けていた。悟は動画を撮られていたようだ。
「何撮ってるんですか!?」
「ヘンタイマンに気づかれた!!」
「いえ、私は、ヘンタイマンではない!! グレートサトルです!!」
「なるほど、グレートサトルという名のヘンタイか」
「違います!! 正義のヒーロー、グレートサトルです!!」
「そんな恰好のヒーローなんているもんか。素顔を見せろヘンタイ!! SNSにアップしてやる」
男はニヤニヤしながら悟を撮ってくる。きっとSNSに変な題名で投稿をされるに違いない。
「ちょっと!! やめてください。撮らないで!! スマホを渡しなさい!!」
悟がスマホを奪い取ろうとすると、
「やめろ!! 誰か助けてくれ!!」
男は抵抗し周りに向かって叫びだした。すると数人の足音がこちらに近づいてくる。
(まずい。これ以上騒ぎを大きくしては)
悟はサーフボードを創り出すと、風に乗り空高く舞い上がった。
「ヘンタイマンが飛んだ!?」
「違います!! グレートサトルです!!」
背中では人々の騒ぎ声が聞こえる。
(失敗だ!! 夏生!! こんな恰好させて!! 恥ずかしい!!)
そしてその場所から離れ少し飛行していたときだった。
(あれ? ビルが迫ってくる。ちょっとどうなってるですか!?)
ビルの間を飛んでいた悟だったのだが、左右のビルがドンドンと近づいてくる。
(違う!! ビルが大きくなってるのではない…… これは!?)
窓が小さくなっていくのに気づいた悟は下を向く。道路がミニチュアのように小さくなっていく。悟はあることに気づいた。
(私の体が大きくなっています!!)
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私事ですが忙しくなるので、次話は少し時間がかかってしまうかもしれません。
更新頑張ります。続きもお付き合いください。