11話 社長室
車谷研究所跡地を出てから約一時間後、西川悟は雲の上にいた。背中に里美を乗せ、創り出したサーフボードで雲の上を乗りこなす。雲の波は不規則だ。
「きゃあ!!」
モクモクと広がる雲は高低差があり急な段差もある。少しの落下でビックリした里美が悟の背中にしがみついてきた。
(ひゃっ!? 里美のアレが当たってますぅ!! ……私は何を考えているんだ。こんなことで動じるグレートサトルではないのだ)
「ちょっと悟!! もっと安定して飛べないの!!」
「すいません。私の創造したものでご不便をおかけします。ところで、そろそろなんじゃないですか? 夏生はうまくやれてますかね?」
「夏生なら大丈夫。やるときはやる男だから。あと3分後には下に降りるわよ」
里美が考えた作戦はこうだ。夏生がKOKORO本社ビルの下の階で騒ぎを起こし、手薄なった屋上から侵入、最上階にある社長室のサーバーを破壊する。
(あと3分でこの幸せなシュチュエーションも終わりですか。もっと激しく雲に乗ったらどうなるんでしょう? なに変な妄想しちゃって、ダメダメ!! グレートサトルは紳士なのです!!)
「悟?」
「うぃ!? な、な、なんでしょう!!」
雲の波が荒れているところを通ると、里美が悟の体に近づいて話すので、耳元に里美の甘い吐息が当たった。
(この背中越しに耳元でしゃべられるのも良い!! 駄目だあと少しでとろけてしまいそうだ。私はグレートサトルなのだ。こんな甘い誘惑に屈しない!!)
「そのしゃべり方なんなの? なんでずっと敬語なの?」
「えっ? いや、これは私の流儀というか。強い男になろうと決めたんです」
「それやめたほうが良いわよ。なんか紳士の隠れヘンタイみたい」
「なに言ってるんですか!? 私がヘンタイだなんてそんなことはない!! 私はグレートサトルへとなるためにですね。いやグレートサトルはこうあるべきなんだ。人から尊敬される。人から頼られる存在に。そしてキングになるのだ!!」
「へぇー。私はそのしゃべりから大嫌いだけど。前の悟のほうが良かったわ」
「え……」
(ショック…… 私は間違えていたのか? あの日から誰かを守れる人になるため、強い人へと生まれ変わったはずだったんですが…… でも里美だけの意見なのだから、みんなの意見では無い。生まれ変わった悟を大好きだと言ってくれる人のほうが多いいはずです…… よね……)
悟はガッカリした。車谷研究所を逃げ出したあの日から、決意した強い気持ちが激しく揺らいだ。何も出来なかった時の相手に言われるのはキツイ。悟は何のために変わったのだろう。
「悟大丈夫? 時間だわ」
「くそぉおおおおお!! 私はグレートキングサトルなのだぁあああ!!」
「きゃあっ」
悟は一気に雲の切れ間に飛び込む。雲の斜面を華麗に乗りこなしていく。作り上げてきた自分を里美に否定されてやけくそになっていた。
「うぅ…… 里美苦しい……」
里美は投げ出されないように悟の首を思いっきり締めた。
「悟!! あのビルよ!!」
雲を抜けると都会が眼下に現れた。ビル群の中に尖った槍のようなKOKOROモバイルのビルはあった。空をサーフボードで一気に滑り降りるとビルのヘリポートへと着陸した。
ゲホッ ゲホッ
「首絞めないでくださいよ」
「ごめんごめん。飛ぶのにサーフボードの意味あったの?」
「それはですね。ズバリ言います。カッコイイからです!! 私にホレないでくださいよ!!」
「ださっ」
「えぇえええ!! サーフィンやってるなんてカッコイイでしょ?」
「はいはい。カッコイイですね」
里美は嫌味ったらしく悟に言った。
(里美なんて嫌いです!! 私をまるで分かってない!! リアリティーを出すために、わざわざ教室に通って乗れるようにしたのに!!)
ダアアアアアアアアン
ビルの下から大きな爆発音が聞こえた。夏生がやったのだろう。
「始まったわね。夏生が仕掛けた爆弾が作動し始めた」
「爆弾!? なんて物騒な!!」
「大丈夫わよ。騒ぎを起こしたいだけの見掛け倒しだから」
ダアアアアアン ダアアアアアアン ダアアアアアアン
爆音と共に地面からすごい振動が伝わってくる。
「本当に見掛け倒しなんですか? ものすごい音と揺れですけど……」
「さぁー」
里美は両手を空に向けると、私は関係無いといったポーズを取った。
「さぁーってダメでしょう!!」
「はいはい。行くよ」
里美はヘリポートから足早に歩き始め、悟は仕方なくついていった。
(適当過ぎます。大丈夫なのでしょうか? 夏生が捕まってなければ良いけど)
夏生のおかげか、悟の着陸が静かだったのか、すんなりと二人は社長室の前まで来れた。
「夏生が下で騒いでるおかげで、ココは手薄ね」
「いや私のサーフィンの腕前のおかげですね。着陸の時に音を立てずにふわっと優しく。ポイントは赤ちゃんを抱き上げるように優しく繊細に」
悟は手をサーフボードに見立てて詳しく説明した。それを見た里美は下を向いてため息をついた。
「はぁ…… 調子狂うな…… さっさと行くわよ!!」
ガチャ
「!?」
社長室の扉を開けるとそこには草原が広がっていた。そよ風が頬を撫で、ピンク色のウサギが草原を駆け抜ける。モコモコのわた飴のような毛を持つ羊は、二人を一瞬だけ見て暇を持て余しメーと泣いた。放し飼いの白馬がたてがみをなびかせて道草を食っている。
「これはどういうことでしょう? 私達は社長室に入ったんですよね?」
「えぇ。これは私たちの首に付いているDCチョーカーと同じ原理だと思うわ。夢の創造物を現実に持ってきてるのよ。それにしてもこんなバカでかい空間を現実に創り出すなんて…… 社長室の大きさよりはるかに広いわ。現実の部屋の大きさを無視している」
そこには見渡す限りの草原が続いていた。二人が呆然としていると、そこへ白のワンピースと麦わら帽子をかぶった女性が歩いて来た。
「ちょっと用心して……」
「はい」
身構えている悟たちを見て、女性は声を上げて大笑いした。
「あはははははは。どうしたんですか? そんな怖い顔して」
続きが気になる方は、ブックマークをお願いします。
そして、この下にある☆☆☆☆☆で評価してもらえると、とてもとてもうれしいです。
さらに、その下の感想もお待ちしております。一言だけでも、宇宙人会えたほどうれしいです。
更新頑張ります。物語は続きます。