忘れられた場所の話。
とある小さな村からすこし離れた森に祠が三つありました。
ひとつは赤くひとつは黒くもうひとつは壊れていますが、白い祠がありました。
それぞれに鳥居がひとつずつ立てられて祀られていました。
赤い祠には狐の神様 黒い祠には鴉の神様 壊れてしまった白い祠には……。
村から追い出されるように神様に嫁入りと称した贄となったのは幼い少女。
髪は白くて長く、瞳は緑を滲ませ、額には二つの小さな角が生えていました。
祠に囲まれる少し開けた場所に一人置き去りにされた少女は、何をするでもなくただじっとその場を動かずに目を閉じて座っています。
その姿は白い着物を身にまとい、頭には赤や黒の組紐で飾られた髪は日に当てられて輝ているようでした。
「こっちへ来たいのか?」
声が聞こえた気がして少女は顔を上げますが周りには誰も居ません。
「あいにくと嫁はもう必要ないんだよねぇ」
今度は別の声が聞こえて少女は立ち上がって周りを見回します。
しかし人影のひとつも見当たりません。
少女は自分がおかしくなったのだと思い込もうとしかけた時――
「幻聴じゃないよ」
今度は少女の頭の中で声が響きます。
同時に突風が少女を包み顔を隠した髪が舞い、小さな角と碧の瞳が露になると
二柱の神様達は声をそろえて ほう と興味持った声で言いました。
「鬼だよ。どうしようか。鬼が帰ってきたよ」
「どうしようもこうしようも無い。あるべき場所に戻ってもらうだけのこと」
少女は神様達が話していることを静かに聴いています。
そして――
「ねぇ君。神様にならないかい?」
「……え?」
「だって君は……」
昔々、赤い祠には狐の神様 黒い祠には鴉の神様 白い祠には鬼の神様が住んでいました。
ある日のこと、白い祠は主を失い壊れてしまいました。
それから数百年経った今、白い祠は新しい主を得て昔の姿を取り戻すことができました。