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1章:出会い

まったりと慌てずに、でも必ず最後まで書いていきます。

 時は残酷。

 全てが時に束縛されている。

 それから解放されたらどれだけ素晴しいことだろう。

 でもそれはできない。

 ならどうすればいいのか……

 簡単だ。新しく創ればいいのだ。時が思いのままの世界を。

 楽しい事が終わることなく永遠に続く世界を。


 そう、時の流れることのない世界を。




 ここは、どこだろう?

 どうしてこんなところにいるのだろう?


 気が付くとぼくは外を歩いていた。

 でも、どうして歩いているのかわからない。

 買い物? 友達の家に行く?

 わからない。

 そもそも、ぼくには外に出たという記憶がない。

 ……夢遊病?

 そんな言葉が頭の中に浮かんだ。


「……も……し、き……」


 ほおをつねってみる……痛い。夢を見ているわけではないようだ。


「もし……、きこえ……か〜」


 周りを見渡すと家の近くのようだ。

 よかった、迷子にならずにはすむみたい。

 この年で迷子なんて恥ずかしいし。


「もしも〜し、聞こえていますか〜」

「っ!」

 目の前からいきなり大きな声がしたからびっくりして心臓がバクバクいってる。

「あ〜、やっと気づいてくれたよ」

 ぼくを驚かせた子は何の悪気も感じられない笑顔を浮かびながらそう言った。

「1分ぐらい話しかけても返事しないんだもん。やっと人を見つけたのに、これで帰り道がわかるって喜んだのに、もしかしてぬか喜び? なんて思ったよ」 

 ぼくがじと目で見ているのに気が付いていないのだろうか、にこにこと笑いながら、だけどどこか怒っているような感じでそう続けた。

「1分ぐらい話しかけても返事がなかったって?」

 小さな声でぼくは彼女の言葉をくり返し言った。

 さっき、周りを見渡したときは誰もいなかったはず。

「うん。初めはこの暑さで頭がぼーとしているのかなって思ってたんだけど、目の前にいるのに、私に気が付かないんだもん。もしかして、私、透明人間になった? なんて思ったよ」

 聞こえないように言ったつもりだったんだけど、ぼくの言葉が聞こえたのかそう返してきた。

 年はぼくと同じぐらいかな。可愛い子だ。髪の色は黒で、長さは腰まで届くぐらいに長い。目は大きく、くるくるとよく動いていて、それがより可愛らしく見せている。

「ん? 私の顔に何か付いてる?」

 ぼくが何も言わずにじっと見ていたからか、顔をぺたぺたと触りながらそう聞いてくる。

「……もしかして、また私に気が付かなくなったの? おねが〜い、戻ってきて〜うぅ、このままじゃ、私、帰れないよ〜」

 黙っていると急におろおろとし始め、ぼくの手を握るとそう言いながらブンブンと上下に振り始めた。

「痛いよ……」

 すごい勢いで振っていたため手が痛くなってきたのでそう言うと、ほっとしたようにため息をはき、手を振るのをやめた。

「君は……」

「ん、何かな?」

 ぼくの手を握ったままにっこりと笑っている。

 この子の今までの言葉から考えると、

「もしかして、迷子?」

「えええええ〜と、私、ここにきたばかりで道よくわからなくて」

 やはり迷子みたいだ。

 迷子という事が恥ずかしいのか、ぼくの手を握ったまま両手を軽く上下に振りながら、ぼくの言葉にそう返してきた。

「他の人に道を聞けばよかったのに」

 道がわからないのなら聞けばいい。でも、ぼく以外に人はいるのに、何度も呼びかけてまで何でぼく?

「そんな事言われても、ここには君以外に人、いないんだもん」

 少しほおをふくらませそう返してきた。

「ぼく以外に人がいない?」

 改めて周りを見渡すと確かに誰もいない。

 この道は車通りも人通りも多い道のはずなんだけど。

「ね? いないでしょ?」

「うん、いないね」

 何だろう、変な感じがする。

 人がいないことや車がないことが変というわけではない。

 もっと、基本的な何かが変、そんな気がする。

 何が変なのかはわからないけど、だまし絵を見せられているような、そんな感じ。

「ずっと気になってたんだけど」

「ん? 何かな?」

「何でぼくの手をずっと握っててるの?」

 気のせいだと、首を左右にふり、そう聞いた。

 一度、手を握られてからずっと握っている。

 嫌ではないんだけど、ちょっ恥ずかしい。

「握っていないと、また私に気が付かなくなりそうだなって思って」

 もう、大丈夫そうだね、と言うと握っていた手を離した。

 どうしてだろう……彼女の手の温もりが消えたのが少しさみしかった。

「駅までの道、わかる?」

「駅までの道?」

「うん。駅に着いたら家までの道がわかるから」

「えっと、この道をまっすぐ行って、ポストがある交差点を右に曲がって、そのまままっすぐ行くと駅だよ」

「ポストの交差点を右に曲がればいいのね。ありがとう。これで家に帰れるよ」

 彼女はほっとしたように頭をペコリと下げながらそう言った。

「あっ、今何時かな?」

 ぼくに背を向け、駅へと歩き出そうとするのを止ると、顔だけぼくの方に振り返るとそう聞いてきた。

「時間?」

「うん。腕時計してるでしょ?」

「腕時計?」

 左腕を見ると確かにうで時計をしていた。

「11時30分だよ」

 今まで腕時計をしていたことを忘れていたことを変に思いながらそう返した。

「お昼ご飯の前には帰れそうだね。よかった怒られずにすむよ」

 ほっとした様子でそう言うと、彼女は駅へと向かった。

「……名前、聞くの忘れてた……」

 彼女が去っていくのを呆と見送っていたとき、その事にふと気づいた。

 でも、彼女の姿が見えなくなってしまった今、どうする事もできない。

 それに例え彼女の姿が見えたとしても、追いかけて名前を聞くなんてちょっと恥ずかしい。

 きっと、また会える。

 不思議とそんな予感がする。

 きっとその予感は正しい。今度会ったときは、お互いに名前を伝えあおう。

 そんな事を考えながらぼくも家へと向かい歩き始めた。



「ふぅ……」

 私は駅のコンコースにつくと軽く息をはいた。

 人が賑わっていそうなここも他の所と変わらず静か……

 ということはここはやっぱり……そして、さっきの彼が……でも、そうにしては少し違和感があるなぁ。

 そんな事を考えていると、私の目の前をひらひらと紫色の蝶が1匹、横切った。

「……っ?」

 びっくりしてその蝶が飛んで行った方を見たけど、蝶の姿は見つけられなかった。

 紫色の蝶に驚いたわけではない。

 蝶が横切っていったことが信じられなかったんだ。


 蝶が横切ったのを境に、駅のコンコースに蝉の鳴き声や人のざわめきが響きだした。

 さっきまでの静けさが嘘のよう。

 色々な疑問が私の頭の中を駆け巡る……でも、その疑問に対する答えが浮かばないし、浮かぶはずもなかった。

 なら、ここでじっとしていても意味がない。

 壁にかかってある時計を確認すると、時計の針は11時35分をさしていた。

 それを確認すると、私は頭に浮かんだ疑問を振り払うようにかぶりを振り、家へ向かい歩き始めた。

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