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第72話 エピローグ/元同級生と、幼馴染と/新しい日々

 なんだか、とても幸せな夢を見たような気がする。


「ん――」


 朝の陽射しに目を覚まし、ぼんやりした視界に自分の部屋の天井が映る。

 そういえば、昨日は聖夜祭が終わって帰宅するなり倒れるように寝た気がする。


「あっ……お、おはよ。もう朝だよ?」


 少女の声がする方を向けば、そこいるのは朝陽に照らされてはにかむ日向。


「日向……? もしかして、起こしに来てくれたのか?」


 どこか恥ずかしそうにする日向に感謝して……その瞬間、まるで閃光みたいに、学校の屋上で日向が叫ぶ光景が脳裏に浮かんだ。


 ――それでも私は、悠人君のことが好き。


「……~~~っ!」


 思い出した……っ! そうだ、あれは夢なんかじゃない。

 俺は昨日の聖夜祭で、二人の少女――日向と月乃に告白されたんだ。


 あの後、家に帰るまで大勢の生徒に質問攻めされたり、生徒会のみんなからチャットアプリに嵐のようにメッセージが送られてきたような気がするけど、正直あまり覚えてない。日向と月乃の告白に頭がいっぱいで、他には何も考えれなかったから。


 やばい、このまま枕に顔をうずめたいくらい顔が熱い……!

 日向が照れてる謎が解けた。好きな人に告白された後って、こんなに気恥ずかしくなっちゃうんだな。


「ゆ、悠人君、いつもなら起きてるのにまだみたいだから。大丈夫かな、って」

「そ、そっか。悪いな、わざわざ俺の部屋まで」

「……私なら全然気にしてないよ? だって、家族として一緒に生きたいって言ってくれたの、悠人君だもん。弟を起こすくらい、家族として当然でしょ?」

「……ん、そうだな。ありがとう、日向」


 日向は、いたずらっぽい笑顔を浮かべると、


「でも、ちょっと残念かな。悠人君の寝顔、可愛かったからもう少しだけ見ていたかったのに」

「……そんなに見たいなら、今度一緒に寝るか? 家族だから別に変じゃないしな」

「えっ――ふえっ!? そ、それは……! え、えっと、ちょっと考えてみる」


 日向は照れ隠しのように、あたふたと明後日の方を向いた。


「そ、それより、朝ご飯食べよう? 準備なら、もう少しで終わるから」


 そうだったのか。確かに耳を澄ませてみれば、包丁で食材を切る音が聞こえてくる。毎朝料理を作ってくれてる日向には感謝――。


 ……いや待て、どうしてここに日向がいるのに、料理の音が聞こえてくる?


 不思議に思いリビングに出て、驚愕した。

 キッチンで、月乃が料理している。制服の上に、エプロンを付けて。


「……おはよ、悠人。もうすぐご飯出来るから、待ってて?」

「あ、ああ。分かった……っていうか、どうして俺の家に? いつもなら、俺が月乃の家まで行って起こすのに」

「それじゃダメなの。悠人に、朝ご飯作ってあげたかったから」


 月乃は恥じらう仕草をしながら、ぽっ、と顔を赤らめる。


「だってわたしと悠人は、その……か、彼女になったから。悠人にご飯作ってあげたら、喜んでくれるかなって」

「あっ……そ、そうなのか。うん、ありがとう」


 なんだ、このそわそわした空気は。

 まあ、幼馴染から彼女になった翌日なんだ。月乃が照れるのも無理はない。

 俺だって、月乃の顔を見ただけでどうしようもないくらい胸が高鳴ってる。幼馴染が恋人になるって、こんなに違うのか。


 と、日向が微笑ましそうに、


「昨日の夜、月乃ちゃんにお願いされたんだよ? 朝ご飯を作りたいから教えて欲しい、って。月乃ちゃん、頑張って二時間も早起きしたんだよね?」

「……日向さんには感謝してもしきれない。わたしのために、わざわざお手本を見せて作り方を教えてくれたんだよ?」

「これくらい平気だよ。私は月乃ちゃんの料理の先生、だからね」


 やがて料理が出来上がり、三人で「いただきます」と手を合わせる。

 やっぱり初めてだから、だろうか。月乃が作った味噌汁は日向のものに比べるといまいちで、本人も自覚しているのか日向と顔を見合わせて苦笑いしていた。


 けど、これからちょっとずつ、上達していけばいいだけだよな。

 月乃は俺の恋人なんだから。月乃の料理を食べる機会なら、たくさんあるはずだ。


「……ねえ、悠人にお願いがあるんだけど、いいかな?」


 ふと、月乃が上目遣いで俺に声をかけた。

 その表情は、夜の屋上で告白を果たした時と同じくらい、真剣だった。


「昨夜から、ずっと考えてた。日向さんは悠人が好きなのに、このまま悠人と付き合ってもいいのかなって。だから、悠人に約束して欲しいことがあるの」

「俺と月乃の、約束?」

「悠人はもう、わたしの彼氏になってくれたと思うけど……日向さんの初恋が終わらない間は、キスより先の行為はしない、ってルールを作りたい」

「えっ……!?」


 驚きの声を零した日向に、月乃は迷いのない瞳を向けた。


「悠人と日向さんが両想いなのにキスをするなんて、間違ってると思うから。だから、日向さんの恋心に区切りがつくまでは、ラインを越えるようなことはしたくない」

「月乃ちゃんは、それでいいの? やっと悠人君と付き合えたのに……」

「……本当は、そういうこと悠人とたくさんしたい。幼馴染じゃ出来なかったこと、恋人だから出来ること。ここじゃ言えないようなこと、悠人としたい」


 月乃は、こっちまで恥ずかしくなるような言葉を口にすると、


「だけど、日向さんのためなら我慢する。日向さんがどれくらい悠人のことが好きか、知ってるから。世界中の誰でもない、日向さんのために約束したい」

「俺も賛成だな。日向が好きでいてくれてるのに、月乃とだけそういうことをするなんて嫌だ。家族と彼女っていう違いがあっても、二人は俺の大切な人なんだから」


 実は俺も、このまま月乃と付き合ってもいいのか、ずっともやもやしていた。

 もし月乃が言ってくれなかったら、俺が似たようなことを提案していたと思う。


「月乃ちゃん……そっか、私のこと心配してくれるんだ」


 そう言って、女神は天使に微笑みかける。


「でも、後悔しないでね。多分だけど、私はいつまでも悠人君のこと好きだと思うから」

「それでもいいよ? わたしがずっと、悠人の心を離さないようにすればいいだけだから」


 そして、日向と月乃は――俺が好きな二人の少女は、笑い合う。

 いつか、月乃は俺に言った。日向か月乃か、どちらか選ばなければならないと。

 けれど、誰一人切り捨てることなく、こうして愛しい光景が目の前にある。


 俺の初恋だった少女は、家族として。

 俺の幼馴染だった少女は、彼女として。


 二人の少女と隣り合いになりながら、新しい日々が始まる。

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