第68話 幼馴染の告白/好きな人がいます/『聖夜の告白』は終わらない
やがて、槍原をトップバッターに『聖夜の告白』は進んでいく。
このまま第一志望を目指します、と恩師の教師に宣言する受験生の上級生がいた。
絶対にレギュラーの座を取り戻す、と同じ仲間に宣言するバスケ部の生徒もいた。
そして、僕と付き合ってください、と同級生に告白をする男子生徒もいた。
「あー、噂にはなってたけどやっぱあの二人付き合ってたんだな。……そういえば知ってるか? 参加者リストには書いてないんだけど、うちのクラスの『月の天使』が告白するらしいぞ」
ふと、近くにいた二人組の男子の会話が耳に入った。
「はっ!? 嘘だろ、あの月乃が? でも月乃ってそういうキャラじゃなくね」
「俺もそう思ってたんだけど、生徒会の友達が言ってたんだよ。本人が直々に、『聖夜の告白』に参加するって。まあ実際のとこただの噂だし、実際はどうか知らんけど」
「うわ、マジか。恋愛とか興味なさそうだったのにな、月乃って」
ふう、と深く息を吐く。
大丈夫、落ち着け。決断ならもう済ませたじゃないか。
月乃の告白に対する答えなら、もう決めている。
あとは、俺の想いを月乃に伝えるだけだ。
『さて、参加者の皆さんには頑張って告白して頂きました! ウチもさっき叫んだからよく分かるんですけど緊張するんですよねえ、これ。けど、これがラストになりますよ?』
ショータイムを告げるかのように、槍原が大きく手を振った。
『最後はこの方、我らが生徒会の月の天使――小夜月乃さんですっ!』
来た。
槍原の口上に、一部の生徒たちがどよめいた。あの月乃が参加するの? という戸惑い。あるいは、噂って本当だったんだ、という驚き。
何人もの生徒たちがざわつくなか、一人の少女が屋上に姿を現した。群青色に染まった空と同じくらい綺麗な髪、風に微かに揺れるスカート。
少女は――月乃は、槍原から受け取ったマイクで静かに語り出した。
『二年D組、小夜月乃です。大切なことを告白したくて、ここに来ました』
鈴のような綺麗な月乃の声音が響き渡る。
『わたしには、好きな人がいます――わたしのたった一人の、同い年の幼馴染です』
生徒たちのざわめきが、更に大きくなった。
まるで、昨日の生徒会で月乃が『聖夜の告白』に参加すると告げた時の再現だ。月乃を知るみんなが、月乃の衝撃的な告白に動揺を隠せない。
『その人は小さな頃から、わたしの傍にいてくれました。はぐれそうになったら、危ないよ、と言って手を引いてくれたり。料理を作って怪我をした時は、わたしが泣き止むまで慰めてくれたり。まるで、家族みたいな存在でした。……でも少しずつ大人になって、幼馴染としてじゃなくて一人の少女として一緒にいたい、って願ってる自分がいることに気づいたんです』
独白のように言葉を紡ぐその姿は、まるで自分自身に語り掛けているよう。
『しかし、わたしはその気持ちを彼に言えませんでした。もし、幼馴染としか思えない、なんて言われたら? 今の関係が壊れてしまうのが怖くて、わたしの本当の気持ちに気づかないフリをして、幼馴染として一緒にいました。でも――わたしはやっぱり、あなたの特別な存在になりたい』
気が付けば騒々しかった生徒たちは静まり、誰もが月乃の告白に聞き入っていた。
静寂のなか、決意を秘めたように月乃が口にする。
『だから、勇気を出して告白します。わたしが好きな人は――』
そのわずかな沈黙が、俺には永遠のようにすら感じられた。
校庭にいる全ての生徒が、月乃の継ぐ言葉を固唾を飲んで見守っている。月乃が告白する幼馴染とは誰なのか。ずっと無言のまま待ち続け……やがて、少しずつざわめきが起こり始める。
いつまで経っても、月乃の告白が始まらないから。
やがて、ぶつ、とマイクがオンになる音と共に聞こえてきたのは、月乃ではなく槍原の焦ったような声だった。
『え、えーっと、月乃先輩の告白の途中ですが、少し待ってもらえますか!? ちょっと、トラブルが発生しましたので、あの、そのままでお願いします!』
槍原の説明に、校庭にいた全ての生徒が動揺の声をあげた。見れば、屋上に見えた月乃の姿はそこになく、あたふたとする槍原がいるばかり。
ただ、予感がした。
過去の聖夜祭でも無かったほどの大きな波乱が起こる、そんな予感が。
きっと、『聖夜の告白』はまだ終わらない。