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初恋だった同級生が家族になってから、幼馴染がやけに甘えてくる  作者: 弥生志郎
2章 ⑤私/わたしを聖夜祭に連れてって
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第61話 もしかして彼氏さんですか?/クリスマスケーキ/月乃と悠人のはじめて

 まさか、月乃と一緒に聖夜祭を回ることになるなんて。


 今の今までは、日向と月乃のことばかりを思い悩んでいたわけで。こうして聖夜祭に参加してること自体が、現実感がないというか。

 月乃は、どんな気持ちでいるんだろう。隣を歩く月乃の横顔を見ても、無機質な表情をしているだけで、感情までは読み取れない。


 ふと、月乃が足を止めたのは、とあるクラスの模擬店である喫茶店だった。


「まずは、この模擬店の見回りをしよっか?」

「見回りって、具体的に何をするんだ?」

「お店の内装に問題がないか入店したり、味に問題がないか料理を食べたり、とか?」


 それってお客さんとして模擬店を楽しんでるだけでは……。

 でも、見回りって言ってもそれくらい軽い気持ちでもいいのかも。生徒会役員だろうと聖夜祭を楽しむべきだ。


「いらっしゃいませ~! お二人様、ご案内でーす!」


 俺たちが一番初めに入ったのは、クリスマスをコンセプトにしたカフェだった。給仕係の生徒が着ているサンタの衣装は本格的で、学園祭とは思えないくらいの完成度だ。


 テーブルの席につくと、給仕係の女子生徒がスマイルを浮かべながら、


「お待たせしましたー! ご注文をお伺い――あれ、副会長さんじゃないですか。良かった、来てくれたんですね!」

「えっ、月乃、この女の子と知り合い?」

「うん。この模擬店は、生徒会の相談役として何度も来てたから」

「その節は大変お世話になりました! 副会長さんは、私たちのクラスの恩人みたいな人なんですよ?」


 そう語る給仕さんの笑顔には、尊敬の念が感じられた。


「わたしたち一年生だから、聖夜祭で何をすればいいのか全然分からなくて。スイーツの保存方法とか衣装の予算とか、副会長さんが教えてくれなかったらまともにオープン出来なかったと思います」

「……わたしなんて大したことない。クラスのみんなが頑張ったから、だよ?」


 月乃、はにかんでる。副会長としての責任も感じてただろうし、きっとこんな風に生徒から感謝されて光栄だろうな。


「後輩がこんなに慕ってくれて良かったな。立派な副会長だよ、月乃は」

「そう、かな。……いつも聖夜祭の準備をしてる日向さんと悠人を見て、わたしも頑張らなくちゃ、って思ったから。悠人に褒めてもらえるなら、嬉しい」


 月乃が小さく笑うと、給仕さんはまるで信じられないものでも見たように。


「あ、あの、失礼ですけど、このお方とはどんなご関係なんですか? 副会長さんがこんなに照れちゃうなんて、初めてですけど……」

「悠人は、小さな頃からの幼馴染でお隣さん。ご飯作ってもらったりとか、いつもお世話してもらってるの」

「へー、そうだったんですね! だから副会長さん、一緒にいて楽しそうなんですね」

「うん。悠人がいないと生きていけないくらい、大切な人」

「ちょ……っ!」


 その言い方は色々と語弊があるのでは……!

 見れば、給仕さんは月乃の言葉に顔を真っ赤っかにしていた。


「へ、へー! そうだったんですね! ……あの、もしかして悠人さんって、副会長さんの彼氏さんですか……?」

「い、いや、それは――」

「大丈夫です! 聖夜祭くらい恋人と回りたいって気持ち、分かりますから。でも、子どもの頃からの幼馴染が彼氏なんて、素敵ですよね!」


 ……結局、注文が終わったのは、給仕さんの大いなる誤解を解いた後になった。


 しばらくして、注文の品が運ばれてくる。

 俺にはシナモンティー、月乃にはミルクティー。そして二人で食べるためのブッシュドノエルだ。


 なんか、月乃と一緒にケーキを食べると、やっとクリスマスって実感する。

 子どもの頃に毎年していたクリスマス会はもうしていないけど、今では月乃が持ってきてくれた小さなケーキを二人で食べるのが恒例だった。まさか、聖夜祭で食べることになるとは思わなかったけど。


 ケーキを一口食べて、月乃の表情がぱあっと明るくなる……なんて、いつもの無表情だから、俺以外は気づかないだろうけど。


「美味しい。クリスマスにケーキを食べるって文化を考えた人は天才だと思う」

「それは良かったな。確かに、学園祭レベルとは思えないくらいだよな。これだけのケーキ作ろうと思ったら相当大変だろうし」

「悠人でも無理?」

「全然駄目だと思う。そもそも、デザート系とか作ったことないからな」

「そういえばそうかも。……でもね、わたしは一度だけあるよ? お菓子を作ったこと」

「月乃が?」

「うん。悠人も知ってるはずだよ?」


 最近まで料理に苦手意識があった月乃がお菓子作りだって? そんなことあり得るのか――いや、待て。

 思い出した。確かに俺は、月乃が作ったお菓子を見たことがある。


 いやでも、それって……。


「もしかして、忘れちゃった……?」

「い、いや、そんなことないけど」


 ただ、それを俺が口にするのは恥ずかしいというか。

 けれど、月乃は不安そうな眼差しで俺のことを見つめていて……やっぱり、言うしかないみたいだ。


「チョコレート、だろ。小学生の時、バレンタインに月乃が俺にくれた」

「……ありがと、覚えててくれたんだ」

「忘れるわけないだろ。あの時さ、確かクラスで手作りが流行ってるから、って理由でチョコをもらった気がするけど、もしかして……?」

「……本命。一番初めに手作りをあげるの、悠人が良かったから。あの時の悠人、顔を真っ赤にしてたよね?」

「ま、まあ、バレンタインに女の子からチョコをもらうって初めてだったし……幼馴染が相手でも嬉しいだろ、それは」


 ああ、もう。顔が熱くて、まともに月乃の顔を見れやしない。


「でも、月乃が手作りチョコくれたの、あれが最後だったよな。今でも毎年くれるけど、市販の義理チョコだし」

「他の女の子が作ったチョコより下手だったから、恥ずかしくて。多分、あんまり美味しくなかったよね?」


 確かにその通りだった。月乃が帰った後に食べてみるとこれが石みたいに硬くて、全部食べるのに苦労した記憶がある。

 ……だけど。


「どうかな。食べた時のことは、あんまり覚えてないから」

「……そっか。じゃあ、いつかまた悠人にチョコ、作ってあげる」


 小さく笑って、月乃はクリスマスケーキを食べるのだった。

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