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初恋だった同級生が家族になってから、幼馴染がやけに甘えてくる  作者: 弥生志郎
2章 ①そうだ、デート行こう
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第40話 ねここねこ/月乃が一番好きな場所/してみよっか?

 俺と月乃が訪れたのは、とあるカフェだ。


 にゃあ、と鳴き声がした。


 見れば、白毛の猫が床でせっせと毛繕いをしている。他にも、キャットタワーで遊ぶ猫やテーブルの上で尻尾を揺らす猫。どこもかしこも、猫ばかり。


 今日も猫カフェ『ねここねこ』は、元気に営業中だった。


 月乃は注文したカフェオレを飲みながら、


「猫たち、前に来た時と同じ顔ぶれだね。良かった、久しぶりだから誰かいないんじゃないかって、ちょっと心配だった」

「すごいなぁ、月乃って見た目だけで猫の見分けがつくんだな。俺なんて、全部同じ生き物に見えるのに」

「……それは、もうちょっと猫に興味を持った方が良いと思うよ?」


 この猫カフェは、今まで月乃に付き合わされて何回か来たことのある店だ。

 そして、月乃とのデートで最初に訪れた場所、ってことになる。


 初めてのデートだ、候補ならたくさん考えた。けれど月乃とは小さな頃から一緒にいるし、大抵の場所には行っている。


 その俺の記憶の中で、月乃が一番楽しそうだった場所が、この猫カフェだったのだ。


「でも、提案したのは俺だけどさ、こんな近くの店で良かったのか? 月乃が行きたいなら、水族館でも動物園でも、どこでも付き合ったのに」

「わたしは、悠人が『ねここねこ』に誘ってくれて嬉しかったよ? 悠人と遠くに行くのも楽しそうだけど、お気に入りのお店でゆっくりする方が好きだもん。……それにね」


 くす、と月乃は笑みを零す。


「悠人とは、これからたくさん色んな場所に行けたらいいかなって。デートはこの一回きりじゃないから」


 なるほど、確かにそうだ。これが最初で最後ってわけではないだろう。

 俺たちはもう、今までみたいなただの幼馴染じゃないんだから。


 そんな会話をしている時だ。ある一匹の小麦色の猫が、他にもお客さんがいるというのに、とてとてと月乃の方へ歩み寄ると、じーっと彼女を見上げた。


 どうやら、月乃のことが気になるらしい。


「わたしに構って欲しいの? ……いいよ。おいで?」


 言葉を理解してるかのように、猫が膝の上にジャンプ。

 月乃が慈愛に満ちた優しい表情で首の下を撫でると、猫は気持ち良さそうに喉を鳴らした。


 ちなみに、この猫カフェは触るのは良くても抱き上げるのは禁止しているため、膝の上に猫を乗せることが出来るかどうかは、猫様の気分次第らしい。

 実際これは結構珍しいようで、一部のお客さんは驚いたように膝の上に猫を乗せる月乃を見ていた。


「うわ、こんなことあるんだな。飼い主でもないのに、こんなに猫が甘えるなんて」

「人懐っこい良い子だね。撫でさせてくれて、ありがと」

「でも、あれだな。月乃がこんなに他の猫と遊んでると、ミアが嫉妬したりして」


 ミア、とは月乃が小学生の頃から仲良くしてる、とある猫のことだ。

 だから、ミアのことを軽い気持ちで言った……のだが。


「っ。……帰ったら、ミアのことたくさん可愛がらなきゃ。ミア、きっと寂しい思いしてると思うから」

「……い、いや、そんな悲痛な顔をしなくてもさ、冗談だからな? 少しくらいならミアだって許してくれると思うぞ? うん」


 なに、この罪悪感。まさかそこまで落ち込ませてしまうとは……。

 何だか申し訳なくなって、俺は話題を変えるためにずっと気になってたことを口にする。


「けど、改めてデートってことでこうして月乃と一緒にいるけどさ……割と、幼馴染として遊んでる時と変わらない気がするな」

「……言われてみたら、そうかも」


 何しろ、小さな頃から二人でいるのが当たり前だったしなぁ。

 付き合いの浅い女の子が相手ならともかく、今のところ、特別感はあんまりない。


「ねえ、悠人。デートって、どんなことをするの?」

「えっ!? それ、俺に聞くのか……?」

「だって、デートなんて生まれて初めてだから。でも、悠人は経験があるよね? この間、日向さんと遊園地に行ったんだから」


 い、いや、確かに行ったけども。あの日の日向とのデートを月乃に話すなんて、恥ずかしいというかなんというか。

 けれど、月乃は俺の言葉を待つようにじっと見つめるばかり。……仕方ない。


「えっと、同じアトラクションに乗ったりとか、一緒にご飯食べたりとか。それくらいだよ」

「……本当に、それだけ?」

「い、いや、その……手とか、繋いだりしたけど」

「そっか、確かにそういうの、デートっぽいね。日向さんと手を繋いで、悠人は緊張した?」

「ま、まあ。そんな経験、全然なかったし」

「そうなんだ。じゃあそれ、してみよっか?」


 ……え。

 俺が目をぱちくりとさせてると、いつもの無表情で月乃は言うのだった。


「日向さんとは、手繋ぎしたんだよね? じゃあ、わたしもしてみたい。もっと悠人に、どきどきして欲しいから」


 月乃は俺の幼馴染で。だからこそ、その言葉にどぎまぎしてしまう自分がいる。

 手を繋ぎたいとか、どきどきして欲しいとか。今までの月乃なら、絶対に言わなかった言葉だ。


「もしかして、恥ずかしい? ……だめ、かな」

「い、いやっ! 全然そんなことない、けど」


 月乃の、あどけない甘えるような表情。

 幼馴染としてじゃなく、異性として一緒にいる今だからこそ、改めて思うことがある。


 月乃は――可愛い。それも、日本人離れしてるようなミステリアスな可憐さだ。生徒会のみんなが、『月の天使』だなんてあだ名で呼ぶのも頷ける。


 だから、だろうか。

 目の前にいるのは、間違いなく今までで最も一緒にいた少女だっていうのに――やけに、動悸が激しくなっている。


「悠人、こっちに来てくれる? わたしは猫がいるから、動けない」

「……あ、ああ」


 椅子を動かし、月乃の隣に座る。手を伸ばせば髪に触れるくらい、近い距離。

 カフェで女の子と手を繋ぐなんてしたことないけれど、きっと目立たないよう、テーブルの下でこっそりするのが自然なんだろう。


 体温が少しずつ上がっているのが、自分でも分かる。

 それはきっと、これが特別なことだって理解してるから。

 カフェでくつろぐのも、猫と戯れるのも、幼馴染同士で出来たけれど。手を繋ぐってのは、その先に踏み込む行為だ。


 月乃は透明な表情のまま、しかし何処か期待するような目で見つめていて……その瞳を見て、覚悟を決めた。


 俺は、ゆっくりと、月乃の手を――。


「あっれー? 休日に会うなんて、偶然ですね」


 突然、聞き慣れた少女の声がした。


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