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初恋だった同級生が家族になってから、幼馴染がやけに甘えてくる  作者: 弥生志郎
2章 ①そうだ、デート行こう
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第39話 悠人と日向の朝ご飯/頑張ってね/初めての――

 その翌朝。何でもない朝の食卓。


 俺には朝のルーティーンが三つある。


 一つは、今はいない母親の写真に手を合わせること。

 もう一つは、月乃が学校に遅刻しないように起こすこと。

 そして最後は、姉が作ってくれた朝食に、いただきますと両手を合わせることだ。


「おー、今日も見事な半熟。では、いただきます」

「悠人君の好みも分かってきたからね。とろっとした方が好きだもんね? 目玉焼き」


 そう言って、俺の姉も――朝比奈日向あさひなひなたも両手を合わせるのだった。

 まあ、姉って言ってもまだ同居して二ヶ月も経ってないくらいの、まだ家族になったばっかりの関係だけど。


 何しろ一緒に暮らす前は、日向は俺の同級生で、初恋の人だったんだから。


 初めの頃は片思いの人との暮らしで緊張してたけど、一週間前に日向と最初で最後のデートをして、それから家族として向き合えていると思う。

 今ではもう、家族としてありふれた日々を過ごしている。


「あっ――」


 醤油を取ろうと手を伸ばした時、偶然日向と手が重なった。

 指先に日向の柔らかさを感じた、その瞬間だった。


「――~~~っ」


 ほんの一瞬、緊張したように息を呑んだ日向と目があった。

 と、日向は手をぶんぶんと振って、


「ご、ごめんね。はい、醤油なら悠人君が使っていいから。私は、えっと、塩とかかけて食べるから!」

「えっ……あ、ああ」


 なんだろう。ちょっと手が重なっただけなのに、やけに慌ててるような。

 まあ、二ヵ月前までは同級生同士だったんだし、まだ日向も俺と家族ってことに慣れてないのかも。


 ……と、そうだ。日向に話さなきゃいけないことがあったんだ。


「あのさ。今度の日曜日だけど、少し出かけるから。だから、俺の昼飯は用意しなくても大丈夫だから」


 そこで、わずかに言い淀む。

 ……やっぱり、言わなくちゃ駄目だよなぁ。


「その……月乃と、デートをするから」


 ぴたり、と日向の食事の手が止まった。


「……月乃ちゃんと?」

「ん、まあな。月乃が俺に告白したことは、日向も知ってるだろ? だから、二人で何処か出かけるくらいはしようかなって」


 これが昨日、俺が月乃に持ちかけた提案だった。

 そもそも、俺は月乃に『今度二人で何処かに出掛けよう』と約束をしてたのだ。だから、今度の日曜日に一緒に外出することにした。


 それも、幼馴染同士ではなく、告白した側とされた側として。

 となれば、それはきっと、デートと呼ぶべきなのだと思う。

 日向は俺のことを、じっと見つめて――やがて、微笑みを浮かべた。


「うん、おっけー。じゃあ、日曜日の昼ご飯は好きに作ろうかな」

「あれ……意外と、驚かないんだな」

「何となく、いつか二人はデートするんだろうな、って思ってたから。悠人君も月乃ちゃんも、仲が良いもんね」


 ……うぅむ、改めて他の人にデートと言われると、少し照れる。


「それに、月乃ちゃんが私のことを心配して悠人君と交際するの断ったの、知ってるから。本当なら、今頃二人は付き合ってたはずだもん」


 確かに、日向の言う通りだ。

 俺は月乃に付き合って欲しいと返事をしていて、けれど拒否されてしまった。その理由は、俺と日向との家族の関係を壊したくないから、だ。


 確かに、もし月乃が恋人になれば日向と過ごす時間は大幅に減るだろう。それは家族になったばかりの俺と日向にとって、悪い影響が出ると思う。

 それくらい、月乃は俺と日向の絆を心配してくれたんだ。


「だから、むしろ悠人君と月乃ちゃんの関係に進展があって嬉しいくらいだよ? 私のせいで月乃ちゃんの恋路を邪魔するなんて、嫌だもん」


 そして、日向は笑顔を浮かべる。まるで女神のような、優しい笑み。


「頑張ってね。私以外とのデートなんて、初めてなんだよね?」

「ん……まあ。俺の人生でその手のイベント、ほとんど無かったし」

「良かったら友達にアドバイスとか聞いてこようか? 悠人君が月乃ちゃんと初めてのデートで緊張してるみたいだけど、って」

「よし、今すぐ俺が言ったことは全部忘れてくれ。そして俺のことはそっとしておいてくれ」


 俺の言葉に、日向は楽しそうに笑うのだった。


                  ◇


 月乃と二人きりで出掛けたことなんて、今まで何度だってある。


 月乃の趣味で書店に付き合うなんて日常的にあるし、見たい映画がある時は俺から月乃を誘ったりもする。幼馴染なんだから、今更遠慮なんてない。


 なのに、月乃と出掛けるだけでこんなにそわそわするなんて、初めてだ。

 約束の午前一〇時。月乃の家のインターフォンを押すと、幼馴染が姿を現した。


「よっ、おはよ。休日なのに寝過ごさないなんて、偉いな」

「当然だよ、だって今日は大切な日だもん。悠人に起こしてもらうのは、来週からで良い」

「結局俺がお世話係として起こす羽目になるのな」

「じゃあ、行こっか。ねえ、腕とか組んで歩いた方が良いと思う?」

「……まだ恋人じゃないんだし、それはちょっと早いかな」

「ん、分かった」


 そうして、割といつもと変わらない月乃と一緒にマンションを出た。

 隣で歩く月乃の服装をじっと見る。


 長袖のブラウス、そして首元に巻いたストール。フレアスカートはどことなく品があって、秋風が吹く十一月の今にぴったりの格好。

 ファッションなんていまいち知らない俺でも分かるくらい、お洒落な服装だった。


 と、月乃が俺のことをちらちらと上目遣いで見ていた。まるで、何か感想を求めているかのように。

 ……やっぱり、頑張って選んだんだろうな、この服。


「月乃のその服、初めて見るな。その……似合ってるよ、すごく」

「そう、かな。……ありがと、悠人が気づいてくれるか、ちょっと心配だった」


 少し照れたように、月乃が俯いた。

 考えてみたら、月乃の服の感想なんて滅多に言わないもんな……。幼馴染だからこそ、俺も月乃も服装には全力で手を抜いてた気がする。


「そりゃ気づくだろ。月乃って服へのこだわりとか全然ないし。中学の頃なんか、学校指定のジャージで出掛けようとしてたろ」

「……? 服なんて、下着を隠せたら十分だと思うけど」


 ファッションへの意識が低すぎる……。


「だから正直、月乃がそういう服持ってるのかなり意外だよ」

「高校に上がった時、お姉ちゃんに買ってもらった。月乃も高校生なんだからちょっとはお洒落した方が良いよ、って」

「そんなに前から? けど、俺は初めて見たぞその服」

「……悠人の前で着るの、ちょっといやだった。女の子っぽいところ、悠人には見せたくなかったから」


 俺が首を傾げていると、月乃は言う。


「悠人が日向さんを好きってこと、知ってたから。悠人に好きになってもらう努力をしても、虚しいだけだもん」

「うっ……それは、すまん」

「全然気にしなくていいよ? 悠人はちっとも悪くないから。強いて言えば、日向さんには勝てないな、って思ったわたしの心の弱さが原因」


 そう口にする月乃はいつも通りで、傷ついてる様子はない。


「だって、悠人って明らかに日向さんに夢中だったから。生徒会のみんなが言ってたよ? 悠人は生徒会長様にガチ恋しちゃってるって」

「ガチっ……!? い、いやいやいや。別にそこまで本気じゃなかったからな? いつフラれても俺的にはどうでも良かったっていうか……」

「それはウソ。悠人、日向さんと喋る時だけいつも少しだけ緊張してた。それに、悠人は一年以上ずっと片思いしてたよね? 十分、一途だと思うよ?」

「ぐむっ」


 これだから幼馴染は厄介なんだ。隠したいことも一瞬で見抜いてしまう。


「でも、悠人は自分の初恋にケジメをつけてくれたから。だから、こうして悠人とデートが出来るんだよね?」


 月乃は、くす、と笑みを零すと、


「ほんとはね、こういうのずっと憧れてたんだよ?」

「……そっか。なら、良かった」


 俺が日向に初恋をしてることで、ずっと月乃には寂しい思いをさせていたんだ。

 せめて今日くらいは、今までの寂しさを忘れさせるような一日にしたいって、素直に思った。



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してもらえたら美味しい目玉焼きが食べれるかもしれません

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