第27話 決意/……ふえ?/幼馴染のお願い
日向も、それに月乃もぽかんとしていた。
それくらい、俺は無茶苦茶なことを言ってるんだろうな。
あんなに重い空気の中、デートしよう、なんて言い出すんだから。
「え、えっと。悠人君、今なんて……?」
「日向とデートがしたいんだ。それも、姉と弟としてじゃなく、同級生同士として」
「……ごめん、悠人。笑いどころがちょっと分からない」
「俺は真面目に言ってるんだって、月乃。……俺と日向がこれからも家族として暮らすためには、必要なことだと思うんだ」
俺は日向に向き直ると、
「日向の気持ちは分かった。誰かに嫌われるのが怖くて、だから誰にも甘えられない。でもさ、お節介だって思うかもしれないけど、そういうの嫌なんだ」
ぐっと、固く拳を握りしめる。
「理由なんてなくても、一緒にいて良いから家族なんだろ。嫌われるかどうかなんて、そんな不安を日向にはして欲しくないんだ。俺と日向は、家族なんだから」
「……悠人、君」
「けどさ、俺はまだ日向のことを、家族じゃなくて一人の女の子として見てしまってるんだと思う」
日向への片思いを忘れようとしたのは、嘘じゃない。
でも、日向の言葉や仕草に胸を高鳴らせてしまう自分がいて、その度に見ないフリをしてきた。俺と日向は家族なんだから、そんな感情を抱いちゃいけないって戒めてきた。
でも、それでも何も変わらなかったから――だから、決めた。
もう一度、真っ向から日向への初恋に向き合おうって。
「日向が好きだって感情が少しでも残ってるなら、俺と日向の距離は同じままなんだ。だから、最後に一度だけ、同級生として日向と一日を過ごしたい。そうすれば、日向への気持ちにケジメをつけることが出来ると思うから」
そして、俺は深く頭を下げる。
「だから、頼む。俺とデートをして欲しい。……日向と、家族として寄り添うために」
「……そ、その、悠人君の気持ちは嬉しいけど」
照れ照れと、日向は恥ずかしそうに月乃を見ると、
「好きとか、デートとか。月乃ちゃんがいる前で言わない方が……」
「わたしは気にしないよ? 悠人が日向さんを好きってこと、知ってるから」
「月乃ちゃんっ!?」
あわあわと慌てる日向に対して、月乃は顔色一つ変えない。強い。
「日向の気持ちは分かるよ。でも、俺の個人的な理由なんだけど、後で俺と日向がデートすることは月乃に伝えるつもりだったから」
だって、月乃は俺に告白をしてくれた少女だから。
それなのに、答えを先延ばしにしてる俺がこそこそ隠れて他の女の子と遊ぶなんて、そんなズルいことはしたくなかった。
だから、後で報告するよりこうしてこの場にいてくれた方が誤解が生まれずに済むんじゃないか、って思ったのだ。
「そっか。悠人、わたしのために全部話してくれたんだ。もし隠れて日向さんとデートしたら、わたしが傷つくって思ったから」
「……? 月乃ちゃん、どういうこと?」
「日向さんは知らないと思うけど、わたしは悠人に――」
「ちょ、ちょっと待った。それ、言ってもいいのか? 月乃にとって大切なことだろ?」
「わたしは別にいいよ? いつか日向さんに話そうって思ってたんだ。日向さんって、わたしと悠人の秘密の当事者だから」
「……当事者?」
小首を傾げる日向に、月乃が浮かべるのは感情の見えない透明な表情。
「わたし、悠人のことが好きなんだ。だから少し前に、告白したの」
「…………………………………………………………………………………………………………………ふえ?」
それはもう、鳩が豆鉄砲を食らったって辞書の喩えに引用出来そうなくらい、ぽかんとした。
五秒、一〇秒と過ぎていき、それでも日向は微動だにしない。
やがて、やっと日向が現実を受け止めたようで、
「……月乃ちゃんと、悠人君、幼馴染だよね?」
「うん、それでも悠人が好きなの。誰よりも特別な人になりたいって思うくらい」
「…………」
日向は言葉を失っている。それくらい、月乃の恋心が予想外だったんだろうな。
「でも、悠人はまだ日向さんのことが好きだったから。だから、悠人が日向さんのことを家族として見るまで待つって約束したの。……それで、悠人はわたしの目の前で、日向さんをデートに誘ってくれたんだよね?」
「……月乃の想いには、精一杯応えてあげたいからな。だから日向、頼む。これからも家族として暮らすために、最後に俺と――……?」
ふと、気づく。さっきから日向、我を失ったみたいに「月乃ちゃんが、悠人君を、好き……?」ってずっと呟いてる。
「あの、日向……?」
「ひゃいっ!? え、えっと、どうしたのかな?」
「その、さっきの話の続きなんだけど……俺とのデート、どうかな」
「……悠人君と、デート」
小さな声音で、日向はそう口にすると、
「う、うん。悠人君がそう言うなら、デートしてみてもいいかな。悠人君が私のこと心配してくれてるの、凄く嬉しいしね」
「……良かった。日向が嫌がらないでくれて、ほっとした」
「……こ、こちらこそよろしく、です」
ぺこり、と日向がお辞儀をする。俺は月乃に視線を向けると、
「だから、ごめん。月乃の気持ちは知ってるけど、俺と日向がデートすることを許してくれるか」
「……うーん」
しかし、月乃は納得がいかない様子。告白を保留にしてる相手が、他の女の子と遊びたいって言ってるのだ。月乃が気に入らないのも不思議じゃない。
「じゃあ、一つだけお願いがあるんだけど、良い? もしそれを叶えてくれたら、日向さんとデートしても良いよ?」
「お願い……?」
俺は、月乃のお願いは出来るだけ叶えるって約束してるのに……いや、改めて月乃が口にするってことは、普段なら俺が断りそうな頼み事なのかな。
それこそ、幼馴染としてじゃなくて一人の少女としてデートして欲しい、とか。
でも、だったら何だっていうんだ。
月乃は、俺が日向とデートするのを認めてくれようとしてるんだ。その懐の深さに応えるためなら、どんなことだって出来る。
「ああ、分かった。どんな頼み事だって構わない。月乃のしたいこと、言ってくれ」
「ありがと。じゃあ、悠人と日向さんにお願いなんだけど」
「えっ、悠人君だけじゃなくて、私にも?」
「うん。日向さんにも関係することなんだ。えっとね――」
そして、月乃はその「お願い」を口にした。
俺と日向が言葉を失ってしまうような、予想もしてなかった頼みごとを。
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