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初恋だった同級生が家族になってから、幼馴染がやけに甘えてくる  作者: 弥生志郎
1章 ⑤ミッション、日向を看病せよ
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第24話 シャワー/絶・体・絶・命/もしかして怒ってます?

 けれど、再び数時間後。日向の身体は汗でびっしょりと濡れていた。

 どうやら熱はあまり引かないようで、日向はずっと高熱にうなされていたらしい。


「……悠人君。お願いがあるんだけど、いいかな」

「あ、ああ。全然良いけど。もしかして、また身体を拭いて欲しい、とか……?」

「……シャワー、浴びたい」


 ぴしり、と。理性に罅が入る音が、確かに聞こえた。


「汗の匂いが、どうしても気になっちゃって……。ダメ、かな?」

「……わ、分かった。何とか出来ないか、ちょっと考えてみる」


 今の状態の日向が一人でシャワーを浴びれば、ぼーっとしたまま時間だけが経って湯冷めしてしまう可能性だってある。それは絶対にマズい。

 せめて更衣室まで付き添ってあげたいけど、男の俺がそれをするのは……。


「いや、その前に日向の洗濯物を取り込まないと」


 日向のパジャマと下着は既に洗濯を終えていて、一秒でも早く乾くように今はマンションの共同乾燥機の中にある。そろそろ乾燥も終わった時間だろう。


「けど、日向のシャワー問題はどうしよう……」


 うんうんと悩みながら一階の共用ランドリーに到着し、乾燥機の中にあったパジャマと下着をエコバッグの中に入れようとする。

 そんな時だった。


「悠人? どうしてここにいるの?」

「っ!? あ、ああ。なんだ、月乃か」


 手にした洗濯物を隠して振り返れば、そこにいたのは制服姿の月乃だった。


 この共用ランドリーは、階段を登ろうとすればわずかに見える位置にある。多分、帰宅しようとした月乃が偶然俺を見かけたんだろう。


「日向さんの看病をするから休む、って言ってたよね? 日向さん、もう大丈夫なの? 生徒会のみんな心配してたよ?」

「……え、えっと、そういう訳じゃないんだけど――」


 マズい。マズいマズいマズい……!

 日向の洗濯物を取り込んでるなんて話せば、日向との同居がバレる。それも良くないが、それ以上にこの状況は最悪だ。


 何しろ、今。俺は日向のパジャマを背中に隠していて。しかも乾燥機の中にはまだ日向の下着が残っている。

 こんなの月乃に見られたら、死ぬ。社会的に死ぬ。


「そ、それよりさ、ちょっと今は手が離せないから。また後でな?」

「そうなの? うん、分かった」


 ほっとした。良かった、これで九死に一生を得た……。


「悠人、洗濯物を取り込んでるから手が離せないんだよね。だったら、わたしが手伝う。日向さんのことは、その後にゆっくり教えて?」


 はい、またもや絶体絶命。


「い、いやいや、月乃にそんなことさせられないって! 家事は俺の担当だし! 月乃の手を借りるまでもないって!」

「わたしだって、悠人の手伝いくらいするよ? 洗濯物を運ぶくらい、わたしにだって出来る」


 その言葉、今この状況じゃなかったら感涙ものなんだけどなあ。

 でも、日向との同居がバレないためにも、そして幼馴染の関係に罅が入らないためにも何とかしないと。頭をフル回転させて――


 ……いや、待てよ。

 むしろ、この状況は幸運なのでは。


「月乃、驚かずに聞いてくれるか」

「……? どうしたの?」

「とりあえず、まずはこれを見てくれ」


 俺は真剣な表情のまま、可愛らしい日向のパジャマを差し出した。

 きょとん、とした表情でパジャマを見つめる月乃。うん、そりゃそんな顔するよな。


「……えっと、悠人ってこんな趣味あったっけ?」

「そうじゃない。実はこれ、日向のパジャマなんだ。日向の看病出来るの、俺しかいなかったからさ。日向の服、洗濯してたんだ」

「えっ、そうだったの?」

「それで、月乃にしか頼めないことがあるんだよ。日向が結構大変な状態でさ、熱は全然引かないし、身体を動かすだけでも大変みたいで。それでシャワーを浴びたいって言ってるんだけど、男の俺だけだと難しいから困ってたんだ。月乃、協力してくれないか?」

「わたしが……? う、うん。分かった、やってみる」


 緊張したような月乃の声。こんな状況初めてだから、戸惑ってるのかも。


「だったら、すぐに行かなきゃ。日向さんのお家って何処にあるの? あんまり遠いと、日向さんを待たせちゃう」

「あー……それなら大丈夫。ここから徒歩三〇秒とかだから」

「…………?」


 そして、俺は日向のために、誰にも話さなかった秘密を打ち明けた。


「日向って、月乃のお隣さんなんだ。……実は、俺たち同居してたんだ」



                   ◇



 月乃が俺の部屋に来たのは、それから本当に三〇秒後のことだった。

 ベッドで苦し気に呼吸をする日向を見て、月乃は固まっていた。


「日向さん、大丈夫……?」

「……月乃、ちゃん。どうして……?」

「俺が事情を話したんだ。日向のシャワーの付き添いなんて、俺だけじゃ無理だから」

「……そんな、月乃ちゃんに悪いよ」

「わたしは全然良いよ? 日向さんの身体の方が大事だもん」


 日向の身体を、俺と月乃で互いに支え合いながら脱衣所まで連れて行く。

 その後は月乃の出番だ。


「頼んだぞ、日向が倒れたりしないよう見ててくれるか」

「うん、分かった。任せて」

「……月乃、さん。生徒集会、ごめんね」


 そうぽつりと口にした日向の言葉に、俺も月乃もぽかんとした。

 日向は今、それどころじゃないのに。日向が月乃に生徒集会を任せたこと、そんなに気にしてたんだ。


「仕方ないよ、風邪をひいちゃったんだもん。今は一日でも早く学校に来れるように、治すことだけ考えた方が良いよ?」

「……………」


 日向はこくりと頷き、更衣室の扉が閉まった。

 ……しばらくして、月乃に付き添われるように新しいパジャマに着替えた日向が現れた。月乃に手伝ってもらったのか、ほのかなシャンプーの香りがする。


 俺と月乃でベッドまで連れて行くと、日向は眠るように目を閉じた。汗を流せたのが余程心地よかったのか、その表情はさっきまでよりずっと穏やかだった。

 日向の部屋を出ると、月乃が、


「日向さん、どうしても学校に行きたかったんだね。わたしがいいよって言っても、ずっと謝ってたよ? 生徒集会を休んじゃうなんて生徒会長失格だって」

「そんなこと言ってたのか……。そういえば、最初は無理にでも学校に行こうとしてたっけ。聖夜祭で大変だったのは分かるけど、いくらなんでも頑張り過ぎだ」

「それに、生徒集会を代理で進める時に活用して欲しいって、聖夜祭の資料をスマホで撮って送ってくれたんだよ? 日向さん、風邪で倒れてたはずなのに」


 思わず言葉を失くしてしまう。熱にうなされながら、そんなことまで。


「ねえ、悠人。わたしは今まで日向さんのこと、優しい生徒会長だって思ってた。でもね、今日の日向さんを見てると……ちょっとだけ、怖いって思っちゃうの」


 月乃の気持ちはよく分かる。今日の日向の行動は、少しおかしい。

 まるで、自分を犠牲にしてでも他人に尽くそうとしているような――。


「……なんて、大丈夫だよね。日向さん、風邪で冷静じゃなくなってるだけだよね?」

「あ、ああ。そうだよな、きっと。……そうだ、悪いけど今日は月乃の家で夕飯を作るの無しにしてもらってもいいか? 今の日向を一人にするのは怖いし」

「そんなの全然良いよ。もし良かったら、わたしも日向さんの看病しよっか? シャワーの時みたいに、悠人だけなら困ることもあるかもしれないよ?」

「本当か? 悪い、俺だけじゃ手に負えない時もあったから助かるよ」

「どういたしまして。でも、その前に一つだけ良い? ……悠人って、日向さんと一緒に暮らしてること、わたしに隠してたんだ?」


 ぞわっ、と悪寒が走った。

 幼馴染だから分かる。いつもの無表情だけど、月乃さん、怒ってらっしゃる……!


「いや、これには深い事情があってだな……!」

「悠人、ずるい。日向さんがお姉さんだったとしても、一緒に暮らしてるなんてもやもやする。日向さんと悠人って、この間まで同級生だったんだよ?」

「……悪い。日向と同居してることなんて学校のみんなにバレたくなかったから、月乃にも秘密にしてたんだ」

「だったら、そう言ってくれればいいのに。悠人が内緒にして欲しいって言うなら、誰にも言わないよ。悠人が嫌なことなんて、わたしがすると思う?」

「……ほんと、そうだよな。月乃、悪かった」

「でも、これからも悠人は日向さんと一緒に暮らすんだよね。……ねえ、悠人。これからもっとお世話係として頑張ってもらうかもしれないけど、いいよね?」

「えっ!?」

「だって、片思いしてた女の子と一つ屋根の下で過ごすんだもん。それくらいの我がまま、いいでしょ?」


 むすー、と拗ねたように頬を膨らませる月乃。

 やっぱり不機嫌になってるなあ……こればっかりは仕方ないけど。

宜しければ、ブックマークと評価をして頂ければ下着を取り込んでるところを美少女に目撃されるかもしれません

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