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初恋だった同級生が家族になってから、幼馴染がやけに甘えてくる  作者: 弥生志郎
1章 ②幼馴染との距離
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第12話 買い物/偶然の出会い/いいなぁ、月乃ちゃん

 月乃に肉じゃがを食べさせてもらった、翌日のこと。


 学校終わり、帰宅しようとした俺は日向に呼び止められ、自宅近くのスーパーまで来ていた。今日の夕飯のための食材を買いたいらしい。


「ねえ、悠人君。今日はハンバーグにしよっか?」

「おっ、いいなそれ。ハンバーグ、得意なのか?」

「そういうわけでもないけど、ひき肉が二割引きだったから。せっかくだから買おうかなって」

「ってことは、割引の食材を見てからメニュー考えてるのか。凄いな……」


 そこで、くす、と日向が笑みを零す。


「なんだか、こうして悠人君と夕飯の買い物をしてるのが不思議な気分。ついこないだまで、私たち同級生だったのにね」


 言いながら、日向は商品のサラダ油を手に取る。ポップには、『大特価につきお一人様一つまで!』と書かれていた。

 運が良いことに、サラダ油は残り一本だ。日向が二本目を取ろうとするが、不意に動きを止めた。


 別のお客さんが、同じ商品を取ろうとして日向の手に当たったからだ。


 お客さんである少女は、ぺこりと頭を下げると、


「あっ……ごめん、なさい。どうぞ」

「いえ、そちらこそどうぞ。私たちはもう一本買って――えっ、月乃ちゃん?」


 手がぶつかった相手は、月乃だったのだ。月乃も俺たちと出会うと思ってなかったのか、目をぱちくりとさせていた。


「悠人。それに、日向さん……?」

「奇遇だね。月乃ちゃんも、普段からこのスーパーを使ってるんだね」

「うん。家から一番近いから。でも、どうして悠人と日向さんが一緒にいるの? ……あっ、そっか。そういえば、二人は姉弟だったんだよね」


 和やかに会話をする日向と月乃。心持ち、月乃の表情も柔らかく見えた。

 生徒会長と副生徒会長だからっていうのもあるだろうけど、無口な月乃がこんなに打ち解けるなんて珍しい。普段の月乃はもっと人見知りなんだけどな。


 それも、日向の性格によるところが大きいだろう。何しろ、月乃を『月乃ちゃん』と呼べる生徒なんて日向くらいだ。月の女神の人見知りを無効化するくらいの向日葵の女神のコミュ力、恐るべし。

 でも、月乃が一人で食材を買ってる光景なんて初めて見たかも。


「月乃、また料理作ろうとしてるのか?」

「……うん。肉じゃが、失敗しちゃったから。それで悠人をがっかりさせちゃったし」

「いやいや、がっかりなんてしてないって。むしろ期待感しかないから」

「……? あっ、もしかして月乃ちゃん、肉じゃがに挑戦したの?」


 話の流れを理解したのか、ぽん、と日向が手を叩く。


「でも、肉じゃがって結構難しいよね」

「……そうなの?」

「うん、具材は乱切りでいいのは楽だけど、落とし蓋が無いと味にムラが出来ちゃうから。初めて作った時は私も失敗しちゃったなぁ」

「らんぎり? おとしぶた?? ……えっと、必殺技の名前?」


 あっ、ちんぷんかんぷんって顔してる。多分、初めて聞いたんだろうな。


「なあ、月乃。良かったら、やっぱり俺が料理教えようか?」


 月乃が驚いたように、目を丸くした。


「昨日、月乃は一人でやりたいって言ってたけど、やっぱり教えてくれる人が傍にいた方が上達が早いと思うんだよ。俺なら少しは料理出来るし、ちょっとは役立つと思う」


 もし、月乃が俺の料理を食べたくないと思っているのなら、それはもちろん寂しい。

 でも、月乃は今、目の前で頑張ろうとしている。だったら、少しでもそんな月乃を手助けしてあげたかった。


「いいの? 多分、悠人にいっぱい迷惑かけちゃうよ?」

「全然構わないって。まあ、月乃が料理上手くなり過ぎたらって思うと複雑だけど」

「……どうして?」

「だって、俺より上手になったら俺の料理なんて必要ないだろ? っていうか、もしかしたら俺の料理に飽きちゃったから自分で作ろうって――」


 まるで言葉を遮るように、ぐっ、と月乃が俺の腕を掴んだ。

 月乃の顔に浮かぶのは、つい息を呑んでしまうくらい、真剣な表情。


「そんなこと、ない。絶対にない。わたし、悠人の料理好きだから。悠人がわたしのために作ってくれるなら、絶対に食べるよ」

「……そ、そっか。なら、良かった。月乃が美味しそうに俺の料理食ってくれるの、嬉しかったし」


 その言葉に、自分でも意外なくらい安堵した。なんだ、俺の料理が嫌になったってわけじゃなかったのか。

 ……あれ、じゃあどうして月乃は料理を上手くなろうとしてるんだろ。


「悠人君と月乃ちゃんって、仲が良いんだね。そういえば、月乃ちゃんって最近は悠人君にご飯を作ってもらってるんだっけ?」

「うん、悠人にはいつもお世話になってる。だから、日向さんが悠人のお姉ちゃんって知った時はすごくびっくりした」

「そうだよね、私だってまだ悠人君が弟って感じしないもん」


 二人が喋りながら買い物を続ける隣で、俺は月乃と一緒に作る料理を考えていた。あんまり難しい料理は避けた方がいいし、どれがいいかな……。


 俺たちは買い物を終えると、エコバッグに荷物を積める。日向が精肉と鮮魚を無料のポリ袋に入れてるのは、エコバッグを汚さないためだろう。やっぱり、しっかりしてる。

 俺がエコバッグを手に取ると、日向が微笑んだ。


「荷物、持ってくれるんだ? ありがと」

「まあ、料理を作ってくれるのは日向だからな。これくらいしないと申し訳ないし」

「えっ……悠人のご飯って、日向さんが作ってるの?」

「俺と日向が家族になって、まだ日も浅いからな。親睦を深めるために日向とは夕飯を一緒に食べるようにしてるんだ」


 と、一応そういう建前ってことにしとく。同居は隠しておきたいけど、一緒に食事をすることは多分月乃には誤魔化しきれないだろうし。


 そこで、ふと気づく。

 どうしてか、月乃が石になったみたいに固まっていた。


「月乃……? どうした、急にフリーズして」

「――えっ? ううん、別に何でもないよ? そっか、日向さんが悠人のご飯……」


 やっぱり、最近の月乃っていつもと違うような。

 俺たちはマンションに到着し、一旦月乃と別れると自分たちの部屋に戻った。


「そういうわけで、これから月乃のとこ行ってくるよ。多分、夕飯も一緒に食べると思う。ごめんな、日向が作ってくれた料理は明日食べるから」


 日向と同居するうえで、『夕飯なしの連絡は夕方の六時まで』という決まりを作っていた。今まで一人暮らしだったのに家庭のルールだなんて、何か不思議な感じだ。


「うん、分かった。全然気にしなくていいよ? ……いいなぁ、月乃ちゃん」


 ……ん?


「日向、気になること言わなかった?」

「えっ!? な、何のことかなー? 私、何も言ってないよ?」

「その割にやけに目が泳いでるけど。俺の気のせいじゃなかったら、『いいなぁ、月乃ちゃん』って言わなかった?」

「……え、えへへ」


 はにかむように日向が笑う。


「ほら、悠人君と月乃ちゃんって幼馴染でしょ? 二人が喋ってると、昔から一緒にいたんだなって伝わってくるから……羨ましいなぁ、って」


 ああ、そういうことか。

 俺と月乃は子どもの頃からお隣さんで、家族同然の付き合いをしてきた。正直、俺が真っ先に思い浮かぶ一緒にいて落ち着く相手は、月乃だ。


「まあ、月乃は幼馴染だから。でも、日向は俺の姉さんだろ? これからは一緒に暮らせるんだし、気が付けば一緒にいることが当たり前になってるよ」

「……うん、そうなるといいね」


 そして、日向は躊躇いがちに微笑むのだった。


宜しければ、ブックマークと評価をして頂ければ近所のスーパーでサラダ油のセールが始まるかもしれません

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