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初恋だった同級生が家族になってから、幼馴染がやけに甘えてくる  作者: 弥生志郎
1章 ②幼馴染との距離
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第11話 幼馴染/レッツ・ラ・クッキング/食べてくれる?

 突然、チャイムが鳴った。

 玄関の扉の向こうにいるのは、月乃だ。


(……ついに来たか)


 何の用事で訪れたかは分からないけど、この状況は前々から危惧していた。

 日向と二人暮らしであることは、絶対に隠しておきたい秘密。けれど、最もバレる危険性があるのは誰でもない、お隣さんである月乃だ。


 どうかバレませんように、と祈りながら玄関の扉を開ける。


「どうした? 夕飯なら、今日の献立はまだ決めてないけど」

「そうなの? だったら、丁度良かった。今日は夕飯いらないから大丈夫だよ? ちょっと、自分で作ってみたいんだ」

「えっ、月乃が料理を?」


 一瞬、聞き間違いすら疑った。

 今まで月乃は頑としてキッチンに立とうとはしなかったのに、いきなり料理だって?


「大丈夫か? 月乃って料理全然したことないだろ。俺が傍で見てようか?」

「ううん、平気。まずは一人でやってみたいから。でも、調味料を買い忘れちゃって。良かったら苺ジャムを貸して欲しいの」

「ああ、それは全然構わないけど」


 俺がキッチンに向かおうとすると、月乃が靴を脱ぎ始めた。俺は慌てて、


「待った。もしかして、家に上がろうとしてる?」

「……? うん、ダメなの?」

「ちょっと無理かな。今、部屋が散らかっててさ。月乃に見られるの恥ずかしいんだ」

「わたしは気にしないよ? 悠人の家だもん、隠すものなんてないでしょ?」


 それがあるんだよなあ、姉っていうとびっきりの隠し事が。


「俺も健全な青少年だからさ、幼馴染でも見せられないものはあるぞ。そこで待っててくれな」


 俺はキッチンから苺ジャムを取ると、月乃に渡す。


「ありがと。このお礼は、いつか絶対にするね?」

「気にしなくていいって。昔からお隣さんなんだし、困ったことがあったらお互い様だったろ? ありがとうって言葉が聞けるなら、俺はそれで十分だよ」

「……うん。ねえ、悠人。もう一つだけお願いしてもいい?」


 甘えるように上目遣いをして、月乃がゆっくりと喋る。


「今夜、わたしが料理を作ったら、食べてくれる?」

「いいのか? 月乃の料理なんて一回も食べたことないし、それは楽しみだな。その時は喜んで食べるよ」

「……じゃあ、すごく頑張る」


 月乃が扉を閉めようとして、俺は何気なく質問する。


「そういえば、月乃は久々の料理だけど何を作るつもりなんだ? ジャムを使うくらいだから、デザートとか?」

「肉じゃがだけど?」


 それ、苺ジャム使う要素ある?


 い、いや、先入観は良くない。もしかしたらそういう調理法がテレビで紹介されてたかもしれないし。でも、初心者がいきなり変化球にチャレンジするのも……。

 引き止めるか悩んでいる間に「じゃあね」と月乃は去ってしまったのだった。


 でも、月乃が料理をしたいって言い出すなんて。一体どんな心変わりだろう……そこで、はっと気づいた。


「もしかして、俺の料理に飽きたからこれからは自分で作ろうとしてる、とか?」


 それは、へこむ。物凄くへこむ。

 月乃の料理を作るのは、俺のライフワークになりつつある。それを月乃が望んでないのは、正直かなり寂しい。

 俺が作って、月乃が美味しそうに食べてくれる。それだけで十分だった。


「……出来るだけ、これからも月乃の料理は俺が作りたいな。後で日向に相談するか」


 まあそれも、月乃が俺の料理に飽きてなかったら、だけど。

 ……そうじゃなかったらいいんだけどなぁ。



                   ◇



 数時間後。約束通り、俺は月乃の家にお邪魔していた。

 リビングに足を踏み入れると、見慣れた光景に懐かしさが込み上げてきた。可愛らしい小物もシックなカーテンも、昔と変わらない。小さな頃はお泊り会とかしたっけ。


 さて、それで肝心の月乃の料理だけど。

 残念ながら、というべきか。予想通り、月乃の肉じゃがはあまり美味しいと言える出来ではなかった。

 それは月乃も薄々感じていたのだろう。しょぼん、と肩を落としている。


「……やっぱり、美味しくない?」

「いや、そんなに落ち込むほどじゃないって。初めての料理の割には頑張ってるし、食べれないこともないよ」


 正直、見た目からして煮込みが足りてない肉じゃがを見た時から、嫌な予感はしていた。味付けは濃すぎる気がするし、ジャガイモは堅かったし、あとべらぼうに甘かった。

 それでも、俺は月乃の肉じゃがに箸を進める。


「もう、無理して食べなくてもいいよ? 美味しくないの、自分でも分かってから」

「無理なんてしてない。俺が食べたいから、こうして食べてるだけだ。月乃が作った料理だぞ? 残すなんてもったいないだろ」

「……悠人」


 確かに、この肉じゃがはいまいちかもしれない。でも、それが何だっていうのか。

 初めて月乃が料理をしたんだ。幼馴染の俺が食べないでどうする。


「ごちそうさまでした」


 見事に完食し、両手を合わせる。うん、満腹だ。


「本当に全部食べちゃった……。お、お腹とか大丈夫?」

「全然問題ないよ。っていうか、肉じゃがを作ってくれたのは感謝してるけどさ、そんなに自信ないなら俺に食べさせるの止めとけば良かったのに」

「……だって、悠人と約束したから。料理を作ったら食べてくれる、って」


 そっか、だから上手く出来なかったって自覚してたけど、俺に食べさせてくれたのか。


「でも、最後までちゃんと作れただけでも偉いよ。ごちそうさま、また今度料理作ったら食べさせてくれるか?」

「……食べてくれるの? また、美味しくないかもしれないよ?」

「じゃあ、月乃が美味しい料理作れるまで付き合わないとな。いつもは俺が夕飯作ってるし、たまには月乃の得意料理とか食べてみたいからさ」

「悠人――うん、ありがと」


 そして、月乃は優しく微笑むのだった。


宜しければ、ブックマークと評価をして頂ければ夕食は肉じゃがになるかもしれません

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