堕ちる武者 其のニ
事態急変!
拝読ありがとうございます。十数話でひと段落着く予定なので是非1話からご覧ください。
スチュートにベロ商業国傭兵団が迫ってる…。この急報はカンドー、ヨシヒロにほぼ同時に届けられた。両者ともに現状の対立を解消する為、一時的な和解を模索した。ヨシヒロはカンドーに対し、会談を求めた。カンドー陣営からは、側近のスネイクがすぐに孤児院に向かうと返答が来た。
一刻を争う事態の為、スネイクはその日のうちに孤児院へと到着した。
ヨシヒロとスネイクが部屋の中で向かい合う。
「時間が惜しい事態の為、形式的な挨拶は控えます。本日はそちらから会談の提案を頂き、助かりました。ご存知の様に外敵の襲来に今は内輪揉めをしている場合ではありません。率直に申し上げれば、ヨシヒロ殿には敵対行為を辞めていただきたい。」
「今の状況は聞いている………が、そもそも今回の件は貴方の主がアンにした事に起因している。状況を聞いただけでも気分を害する行為、その様事をする者におい達の生活を任せるわけにはいかぬとスラムは団結したのだ。」
「重々承知しております。しかし、先程もお伝えしましたが、今は緊急事態。その生活自体が無くなる可能性があるのです。協力をお願いしたい。」
「…………………。先日の会談で、カンドー殿が徴兵を対価にスラムの管理権と孤児院の運営権をおい達に与えた……、と認識している。アンの件でスラムの人々は貴方達への信頼を失っている。先日の会談で決まった事さえ反故にするのでは?…と。それ故にスラムの管理権と孤児院の運営権はスラムが持つと世間の公表する事を求める。だいぶ譲歩しているが、緊急事態ゆえ、この要求を受け入れてくれれば、協力しよう。」
スネイクは条件を提案され、素早く思考する。デメリットは大きい。先日の会談を世間に公表すれば、スラムへの手出しが非常にしにくくなる。また、自領のスラムにすら介入できない領主であると評価を大きく下げる事になる。しかし、この条件をつけるだけで全て解決できる。
「1つ、条件が。公表は今回の侵攻を防いだ後にさせていただきたい。」
元々先の会談の約束もヨシヒロを死地に派遣し亡き者にする事で反故にしようとしていた。今回も同様だ。侵攻後に公表という条件をつけ、今回の戦闘でヨシヒロを死地に送り込めば良い。それで万事解決だと内心笑みを浮かべた。
「わかった。その条件で大丈夫だ。」
「ありがとうございます。もう一つ、今日はお伝えしたいことがございます。」
「なんだ?」
「現在、城内では今回の侵攻に対する守備陣形を決めている途中です。ヨシヒロ殿含むスラムの者たちは南の砦を担当していただきたい。こちらの地図をご覧ください。」
「まず、スチュートは3方が川に囲まれた堅牢な街です。さらに、門が2つしかありません。北と南。ベロ商業国は北から来る為、北門が激戦地となりましょう。北門に戦力を割く為に、南門の戦力を減らす必要があります。その為に、スラムの方々には南の砦を守っていただき時間稼ぎをしていただきたい。」
地図を見ながら、ヨシヒロはこの街を築いたレオンハルト公を恐ろしく思った。この城は攻め入る隙がない。北と南にしか攻め入る場所がない上に、南門に辿り着く為には北の砦と南の砦を落とさなくてはならない。しかも、軍略家が極力避ける川越えを行いながら……。優秀な武将が守れば1年は守りきれるかもしれないと考える。
「南の砦は北の砦が攻略された後に攻められます。比較的安全な地です。引き受けて頂けますか?」
「安全な地?それはご冗談を……。北の砦が攻略された後、この南砦は激戦地となる。違うか?」
「…………。」
「この城は南側を塞いで初めて包囲が完成する。軍略に明るい者ならば、北の砦を攻略した後は1秒でも早く南の砦を攻略する為に兵力を割く。敵の軍略によっては死地にすら成り得る。」
スネイクはヨシヒロの軍略の明るさに驚愕していた。戦国最強と呼ばれた男なのだから当たり前であるが、スネイクは勿論その事を知らない。軍略に乏しいスラムの王を上手く騙して亡き者にしようという作戦が失敗に終わり、何か弁明はないか…と脳を回転させる……が、先にヨシヒロが口を開いた。
「だか、それを承知で引き受けてやろう。」
「!?」
「南の砦には一度訪れた事がある。あの砦なら守りきれる自信がある。」
パウ達にこの街を隅々まで案内してもらった事がある。その時に街の外にある南の砦にも訪れていた。
ヨシヒロは南の砦の危険性を理解しながらも、城内で一歩兵として戦う危険性の方が高いと感じていた。直前まで対立していた者同士が素直に共に戦えるとも思わないし、ヨシヒロの危惧するある事が起これば、街の中は1番危険な場所になる。それ故、街から少し離れた南の砦の守備を引き受けたのだ。
その後、スネイクから諸々の情報を伝えられた後、会談は終了した。
南の砦にはスラムの人間全員が派遣されることになった。実際に戦うのは先日の会見で決めた通り荒くれ者達だけだが、先程ヨシヒロが危惧していた危険性から街の中に他の人たちを残して置くことはできない…と全員南の砦に連れて行くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
不可解だ。
スネイクはそう思いながら、スラムを後にし城へと向かっていた。
何故、南の砦が死地になる事を理解しながら、南の砦の守備を引き受ける?死にたがりか?そんな訳はない。商業国軍と内通して南の砦を明け渡す…これなら考えられるが、ベロ商業国は奴隷を多く使う国という事を理解していれば、スラムの人間を連れて裏切る事は仲間を売るに近い行為だ。これもない。なぜだ?なぜだ?いくら考えても答えは見つからない。
「スネイク殿ですか??」
急に見知らぬ男に話しかけられる。
「どなた……です??」
「貴方にとって利益になる話を持ってまいりました。この手紙をご覧下さい。」
!?
◇ ◇ ◇ ◇
「ヨシヒロ……、お前なんで南の砦が死地になると知りながら、守備を引き受けたんだ?」
「ロイド、お前はこの街に住んで長いだろ?この街は攻められたら弱いって分からないか?」
「この城が弱い?レオンハルトが作ったんだぞ?弱いはずないだろ。」
「あぁ、レオンハルト公が守ったら1年でも守りきれそうな堅牢な街だ。」
「じゃあ、なんで攻められると弱いって言ったんだ?」
「領主がカンドー・アルフレッドだからだ。彼は領民からの信頼がない。おそらく部下の数人も見限っている人がいるだろう。そんな状況が引き起こす事………、裏切りだ。この街の中に居れば、それに巻き込まれる。この街の外にいた方がいい…例えその地が死地であろうとも。」
「なるほど。考えてみりゃそうだな。俺たちの選択肢には死地か死地しかなかったってことか…。」
「そうだな。元々、同盟国への警戒は少ない。急に攻められれば、何もかも足りない。この戦は骨が折れそうだ。」
何故だが、ロイドが先程までのふざけている雰囲気とは違い引き締まった表情になる。
「なぁ、ヨシヒロ。大事な話がある。他の人をこの部屋から出してくれねぇか?」
重要な話の気配を感じ、ヨシヒロは人払いを了承し、パウ達に命じる。パウ達も素直に応じ、退室する……、ルベンは少し駄々こねてたが…。
「それで、お前が人払いしてまで話したい事ってなんだ?」
「俺はお前に決闘で負けた後もお前の事を観察し続けていた。だが、先程のスネイクとの会談での軍略の深さを見て、決めた。お前に俺の秘密を教えようと。」
ロイドの秘密とは…?