王弟カンドー・アルフレッド
スラムにノア教と共同で開設した孤児院の件で、謁見の間に呼び出されたヨシヒロとノア教修道女アン。領主カンドー・アルフレッドとの舌戦が始まる。
拝読ありがとうございます。十数話でひと段落着く予定なので是非1話からご覧ください。
【情報開示】ヨシヒロは16歳、アンは18歳です。
ヨシヒロがカンドーに嫌悪感を抱いている時、アンも寒気を感じていた。無論、原因はカンドーの視線である。視姦する様な視線は成人間近のアンも恐怖を覚えるものであった。
正直、ヨシヒロは内心怒りに震えていたが理性で抑え込む。
「お目通りが叶い。光栄でございます。おいはヨシヒロと申します。横の者は、孤児院に協力いただいている修道女のアンです。」
「アンでございます。この度は、ノア教から孤児院について一任されております。」
「そうか。ヨシヒロ、アンよく来た。此度其方らを呼び出したのは、孤児院についてじゃ。…………孤児院の設置によって、我が領民の支援が充実化できたと考えておる。しかも、其方らは我らの助けなく、自ら貧しき者を憂いての行動と聞く。大儀であった。」
まるで話す内容を事前に決めていたかの様な綺麗ごとがスラスラと述べられていく。綺麗ごとがいつまでも続く訳はないと警戒を強める。
「孤児院の管理は現在誰が行っているのだ?」
「ヨシヒロ様の支援の下、我らノア教が指導を行っています。」
「おい達スラムの人間には教育等は荷が重いですから、アンさんを中心に力を借りています。」
「そうか。それは大変だな。今日から孤児院は儂が預かろう。公営の方がうまくいくじゃろ?儂らに任せてもらおうか。」
カンドーが孤児院を引き渡すように要求するのは想定内だ。
「恐れながらカンドー様。孤児院は・・・・・・。」
ヨシヒロが拒否の返答を述べはじめていたが、カンドーは遮った。
『ん??領主の好意を無碍にするつもりか???』
急な高圧的な態度驚いたのか、アンは横でビクッとなっていた。
「無碍にするつもりなどございません。しかし、スラムやそこの子供を対象にした孤児院は特殊。カンドー様のような高貴な方にお見せするのも憚れる場所です。おいに数年任せて頂ければ、数年でお見せできる場所に変えて見せましょう。」
真剣な眼差し向けるがカンドーには響いていない。
「たしかに、スラムに立ち入るのは嫌と感じる場所じゃ。しかし、そもそも何故其方が我が領地内を我が物顔で支配しているのだ?自分に任せろ?いい加減にしろ。今まで見逃してやっていたことを感謝するのだな。」
冷たい視線をヨシヒロに向ける。
「しかし!!」
数年間スラムを放置していたこと、それによって多くの人が飢えていたことなど反論したいことは沢山あったがグッと抑え込む。
……………………………。
その結果、二人ともが沈黙し数秒間の静寂が訪れる。静寂の均衡を破ったのはカンドーの笑い声であった。
「あっはっはっは。冗談じゃよ、冗談。其方の覚悟を試したまでよ。孤児院は引き続きおぬしらに任せる。スラムを管理しても我らの利益は少ない、好きにしてよいぞ。しかし、条件がある。」
先程までの高圧的な態度が嘘かのような陽気な態度で述べていく。
こちらを揺さぶっているのか?どちらにせよ異質な雰囲気が謁見の間に流れていることだけは確かだ。
「「条件??」」
ヨシヒロとアンの声が重なる。
「徴兵の参加と、定期的な登城じゃ。いままで其方らスラムの人間には募兵という形で兵を募ることはあっても、強制的に徴兵することなかった。しかし、報告によればヨシヒロがスラムを安定化させていると聞く。そうなった以上スラムの者たちだけを特別扱いするわけにもいかんのじゃ。」
「スラムには未だ貧しい人もいます。防具を持っている人だって少ない。しかし、戦いに明け暮れていた者たちがおります。なので、全員が徴兵の対象ではなく、その者たちだけを対象にしていただきたい。」
スラムの住人は市街地の住民の様に戦の際に身を守る防具をもっていないし、高価なのですぐに買えるものでもない。そもそも、貧しい人々を強制的に戦に連れ出すことは許容できない。ロイドの部下たちのような荒れ暮れ者たちなら自分の身もある程度は守れることだろう。上記の譲歩をとカンドーに要求した。
「わかった。其方らの戦働きを期待しておるぞ。」
戦働きを対価に今の体制と孤児院を得れるならば、一時はどうなる事かと思ったがこの交渉は成功したと考えて良さそうだ。気になる点は、もう一つの条件についてだ。
「あ、あの。定期的な登城というのは??」
「折角、今回スラムの者達やノア教との関係を持てたのだ。これからも話し合いや報告を受けたいのじゃ。特に孤児院について。そこでじゃ、アンよ。孤児院に詳しい其方が週に2回登城し、報告するように。」
危うい。ヨシヒロが感じた率直な意見だった。序盤の視線の嫌悪感や登城にアンを指定している事、週に2回という頻度の多さ、全てがきな臭い。
アンが条件を容認するのを止める為、目を向ける。しかし、アンは小声で「私は大丈夫です。私が登城するだけでこの有利な交渉を成立させられるなら安いもんです!!」と心配をかけまいと満面の笑みで答える。
ヨシヒロとアンはこの2つの条件を飲んだ事で、カンドーとの交渉は終わり、謁見の間から退出する。
◇ ◇ ◇ ◇
「よかったのですか?スラム側有利の条件に思えますが??」
カンドーの側に仕えていた側近の細身で痩せ型の男スネイクが尋ねる。
「最初の威圧で、ビビって全てを投げ出してくれるのが1番だったのじゃが、それが難しいと思ったのでな。ちと周りくどい作戦を採ったのじゃよ。儂が得たいモノは、孤児院・スラムの管理、あとオマケでアンという可愛い女子も欲しい。まず、孤児院・スラムはヨシヒロとかいう小僧が死ねば、簡単に手に入る。“徴兵”は奴を死地に送るための理由付けじゃ。暗殺等よりも戦死の方が儂らへのヘイトが少ない。奴は自分を含む数人に徴兵を絞れたことで交渉が成功したとでも思っているのではないか?周りに懇意の者が少ない方が死ぬ確率も高くなる。奴は儂の掌の上で踊らされていたのだよ。」
「なるほど。流石でございます。」
「それに、アンという玩具も手に入った。どう可愛がってやろうかの???」
スネイクでさえ直視できないほどの醜い笑顔のままカンドーは謁見の間から退室した。
◇ ◇ ◇ ◇
2週間後、ヨシヒロはリケと共に孤児院を訪れていた。
カンドーとの会談後、定期的な登城をすることになったアンを気にかけ、ヨシヒロはアンに会う機会を増やしていた。女同士で話しやすいだろうと、リケもアンと沢山会話するようにとお願いしてある。
しかし、アンの目は暗い。ヨシヒロが訪れると笑顔で迎えてくれるが、目は死んでいる。リケと話している時も同様らしく、リケも心配していた。
「アン。大丈夫か?以前のような元気がなくて心配なんだ。辛いことがあるなら話してほしい。」
「いえ、城への登城という身に余る大役を任されて少し疲れているだけです。私は今日も城に行かなければならないので失礼します。」
無理に笑ったような笑顔で城へと去っていく。
彼女の辛そうな顔や無理矢理作った笑顔を見ながらも、心配をかけまいとしているアンに気を使い見て見ぬふりをしてしまったが、これが大きな間違いだった。
王弟カンドー・アルフレッドはヨシヒロが感じた以上の醜悪な人物だったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
一週間後、ヨシヒロは自室でリケからある報告を受けていた。
「・・・・・・・・。今?なんて言った??」
リケからの報告は耳を疑うものだった。いや、聞き間違いであって欲しい。
「ひ、ひっく。」
リケは大粒の涙を流している。
『アンちゃんが死んじゃった。』
「・・・・・・・・。」
言葉が出ない。ヨシヒロの脳は混乱していた。
沈黙が続く室内に、リケの後ろにいたロイドが口を開く。
「リケからこれ以上報告させるのは酷だ。俺が引き継ごう。」
「頼む・・・・。」
「リケと一緒に孤児院に行ったんだ。そこにはいつもいるはずのアンの嬢ちゃんが居なかった。そんなこと一度もなかったらしくてな。心配だって言うから、リケの案内で彼女の家まで行った。そこで、彼女は自殺していた。」
彼女が思い悩んでいる節は感じていた。そこで強く理由を尋ねなかった自分を悔やむ。止めることができた人の死を止められなかった時ほど後悔が強いときはない。もし、もし、と過去の自分の行動に仮定を重ねる。
しかし、過ぎてしまった事実は変えられない。
「ここからは彼女の室内にあった遺書から推測することなんだが、アンは城でカンドーから酷い扱いを受けていたらしい。カンドーは孤児院や教会、スラムの人の安全を脅して、アンに口に出すのも憚るような酷い行為を強制していたみたいだ。アンは俺らの為に、酷い扱いを耐えていた。でも、限界が来た。それが自殺の原因だ。アンの嬢ちゃんが悪いわけじゃないのに遺書には「ごめんなさい・・ごめんなさい。」って何度も謝ってたよ。カンドーに孤児院を人質に取られていたのと同義だ。気にしていたんだろう。」
「・・・・・・・。」
黙ったままのヨシヒロにロイドが問いかける。
「おまえ、、、、許せるか??カンドー・アルフレッドを。」
「孤児院の問題も、スラムの話も、武力行使ではなく領主との協調で解決できないかと模索してきたが、考えが甘かったみたいだ。奴とは話し合うだけ無駄だ。首を挿げ替えなければ、おい達は一生幸せにはなれない。おい達らしく力で解決しよう。」
「あぁ!その言葉を待っていた。俺も冷静に装っていたが内心は怒り心頭だ。やってやろうぜ!ヨシヒロ!!」
「まずは明日帰ってくる司祭のエリックに協力を求めよう。状況が状況なだけに協力してくれるだろう。」
胸糞回です。
自分で書いててもいやな気持ちになった・・・。